リーナは泣きそうになりながらアレトを見つけ、真っ直ぐに駆け寄ってきた。
--だが、アレトの横にいる小さな白い龍の姿を目にした瞬間、その足が別の方向へ向かう。
「昨日の白い龍さん! その傷、手当しないと! 」
「…………ふ……あっははは! 」
フーチは思わず吹き出した。あまりにも迷いのない行動に、堪えきれず笑い出す。
「リーナ、危ないから待ってろって言っただろう! 」
「龍さん、何笑ってるの!? 早く手当しないと! 」
「あっはっはっはっはー! 」
「お兄ちゃん、この傷じゃ……! 」 「リーナ……」
「ふふ……兄妹揃ってまったく。私が今、君の兄を襲っている最中だとは思わなかったのかい?」
「んーー、そんなふうには見えなかったから……ん、待って、なんでそんなに早くあたし達が兄妹って分かるの? 髪色も違うのに」
「リーナ、それは……」
アレトはここまでの経緯を説明し、フーチもそれに続いた。
「そっか……悲しいけど……そういうことだったんだ……でも、そもそもなんで黒い龍さんと争っていたの? 」
「簡単に言うと、行きすぎた喧嘩だよ。彼の名は『パスガ』。私たちはこの世に生まれたとき、それぞれの役目を持っていた。私は“明るい未来”を見て、人々に希望を与える。彼は“暗い過去”を見て、そこから学び、未来へのヒントを示す」
「黒い龍……パスガは、暗い過去しか見れなかったのか……」
「そう。彼は生まれてからずっと、繰り返される混沌を見続けてきた。どれだけ時が経とうと、同じ過ちが繰り返される……彼は、そんな世界に絶望してしまったんだ。そして、未来を信じる私とぶつかることになった」
「ぶつかるって……そもそも同種殺しは出来ないって先生は言ってたのに……」
アレトはフーチの喉元を見つめながら言う。
「説明は難しいけど、頭にノイズが走ったんだ。私も彼もそのノイズにやられて互いに混乱し暴力的になってしまった。そのノイズの正体は分からないし、そのせいか今はあまり未来を見る力が使えなくなってきている。」
「フーチさんが小さくなってるのもそのせい? 」
「ふふ、これは私たちがたまたま授かっていた力だよ。私を探しにきた大人達はさぞ驚いているでしょうね、ふふふ……ウッ!! 」
「フーチ! 」「フーチさん! 」
首元の噛まれている周辺が僅かに黒ずんできている。徐々に進行していく目の前の“死”に二人はどうすることもできなかった。
「リーナ、テントに薬を取りに行こう。やっぱり、先生に伝えて……」
「私のことは大丈夫、その優しさは君たちの強さだが今は発揮しなくても良い。私はこれを受け入れているし、少し予定は狂ったが二人に会えてよかった。」
フーチはリーナを見つめながら優しい表情を見せた。そしてアレトに視線を移す。
「そろそろ始めようか」
「…………わかった。フーチがそれを望むのなら」
--ガサガサガサ……
草のかき分ける音……それはアレトたちがきた方向とは逆の、森の奥からだった。
「モンスター!? 」
「リーナ、早くテントに! 」
「そんなはずは……私の力が弱まったせいか!? 」
その音の主はその声を聞くやスピードを上げて近づいてきた!!