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第14話。 拒否と友情

 「リー……」

そこから先は、アレト自身にも何が起きたのか、ほとんど覚えていない。

視界が赤く染まり、風の音だけがやけに鮮明だった。


 フーチは男がリーナに気が移っている隙に、そいつを背中から振り落とした。


そこからはフーチの見た光景になる。


 アレトは体にまとう風が切り裂くように強く旋回していた。


振り落とされている最中の男をその風に乗せ、アレトの前まで持って行き

蹴り飛ばした。その蹴り飛ばされた男はどこにぶつかるまでもなく、また風に乗せられアレトの前までやってくる。


 男は何度も蹴られ、吹き飛ばされ、体勢を整える間もなく吐血していた。


 「<電糸レイス>!!」

男は焦っている様子でアレトに向かい単発の電気の糸を飛ばす。


同時にアレトは男に駆け寄った。決して早くはないが、そのおかげかその男の術をかわし、<風の玉ウィーバ>を三つ発動している右手を男にぶつけた。

 「ぐっ……」

男は攻撃が当たる瞬間、新たに何か術を使っていた。


--バンッ!ミシシ……

 男は木に直撃し、その木も折れかかっていた。


--同時に--バチチチチッッ!

アレトにも男の術が当たっていた。

 「…………ガハッ!」


 「おい!大丈夫か!? 」

 「はぁ、はぁ……なんとか」

意識を取り戻したか……横目をやると男は僅かに動いているが、もしもさらに戦いが長引けばアレトは確実に負けるだろう。

 「その傷……私が宿れば、ここを逃げる程度には回復することが出来る。今すぐ宿るぞ! 」

アレトはその言葉を聞いて立ち上がり歩き出した

 「おい、どこに行く……動くな!」


すぐにアレトは戻ってきた、その両手にはリーナがいた。


 「リーナに……宿ってくれ。可能性が低くても……」

 「な、何を言っている。私が君に見た未来の前提は混沌だと、言っただろう。その第一歩がこの男だったんだぞ。君には今回復する必要もある。これからの力もきっと必要になる! 」


 「俺を信じてくれ……俺もフーチを信じるから……」

 「でも、この状況で! 」

 「フーチの見た俺の未来はどれも……人々を助け、導いている……だろ? 」

アレトは力強い眼差しでフーチを見つめていた。そして笑っていた。


 「……………………わかった。……信じよう」

フーチはアレトに押し負けた。いや、何故かは分からないが、そのアレトの表情に安心させられたのだ。

 「アレトも私を信じてくれるんだな、頑張るがどうなっても知らんぞ」



 「おい……お…い、僕を忘れてもらっちゃ……」

男は起き上がっていた

 「うるさい……」

アレトの背後から男に向かって非常に大きな、風の刃が飛んでいった。

それはその男の胴を引き裂き、男の背後の木々をも真っ二つに切り裂いていった。


 (もう私は驚かない。君は大事なものを守る時、助けようとするときに爆発的な力を出せるんだね……ふふ、私の目に狂いはなかったようだ。)

フーチの体が光り、ゆっくりとリーナの体へと入っていく。

 「フーチ!……信じてるからな」

 「ふふ、これは大きな期待を背負ったものだ」

フーチの体は完全に光となりリーナの元に更に入っていく。


 「初めての龍の友達だった……ありがとう」

 「わた……も……は………りがと……う」


光は消え、リーナの体の出血は完全ではないものの、ゆっくりと止まっていった。


 「はぁ……」……バタッ……


---------


——襲撃前のテント


丁度就寝に就こうと着替える前に椅子から立ち上がった時、それは聞こえた。

 「先生、先生、すまぬ」

テント外から聞こえるハゼンの声。


 「どうか致しましたか? 」

 「アレトとリーナを見とらんか? 」

 「!?……お二人の姿が見当たらないのですか!? 」

 「うむ、先生の元に行っとるのかと思っての」

 「いえ、来ていません。…………」

ゼフィールは仮に他を行くなら何処かと考える。


 「もしかしたら……ヴォルク君のとこかもしれません。そこにいなければ騎士団の方々にも捜索をお願いしてみましょう」

 「……いやな予感は当たりたくないのう」

ハゼンは先ほど森に抜け出そうとしていたアレトたちが脳内に焼きついている。ゼフィールが発した“捜索”という言葉がよりいっそう不安の種となった。


 「そんなに心配しなくても、意外なところにいるものですよ、ハゼンさんはゆっくりしていてください、すぐに送り届けます」

ゼフィールはハゼンの不安を取り除こうとする。

 「しかし……うむ、わかった」


--ヴォルクのテント前


 「ヴォルク君、入りますよ」

ヴォルクのいるテントを開けた。

 「入るな! グルルルル……」

そこには寝ぼけた様子のヴォルクが寝ている母を庇うように四つ足の体制で威嚇している。


 「ヴォルク……君」

ゼフィールが焦っていると、ヴォルクの横にいた月狼ルナウルフがやれやれと言わんばかりに起き上がり、ヴォルクの顔を舐めた。


 「ん……ん!?……なんだテメェか。なんの用だ」

 「アレト君たちを知りませんか?……とはいってもその様子じゃ」

 「知らねえよ! 」


 「--うぅ゛」

ヴォルクの母は痛みのせいか、うなされていた

 「母さん! 」

 「傷の痛みがまだ治らないのでしょう。大丈夫だとは思いますが一応医者を呼びましょうか」

ヴォルクはとても不安そうに母の顔を見ているのが背中越しでも伝わる。


 「……アイツを探しているのか? 」

 「……えぇ、急にいなくなったようで、どこかのテントにはいると思うのですが。……ヴォルク君も探しますか? 」

 「黙ってアイツのテントに連れて行け、すぐに見つけてやる」

ヴォルクは本当にすぐに見つけれると確信を持っている様子だ。


 「……えぇ、では行きましょう」





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