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第15話 テントでは

アレトのテント前についたヴォルクは再び四つ足になり、おもむろに地面に顔を近づける。


 「スンスン……こっちだ」

 「匂いを辿れるなんて、人にできるものなんですね」

 「家族が教えてくれた……こっちだ」

 「そうですか、あの月狼ルナウルフたちのことですよね……色々と気にはなっているのですが」

 「森だ。」

 「……そうですか」


そのときだった。


――ゴゴゴゴ……バンッ!!


 地響きのような音がテント群に響き、突如として何かが周囲に降り注いだ。

 「!!--<土の硬壁テランパート>! 」

ゼフィールは空から迫る“何か”に対応するため、反射的に最速で発現できる防壁を展開する。

――バコォーーンッ!!

 土の壁は衝突とともに砕け散る。何かわからない“それ”は、狙いを持たぬまま、広く、辺りを無差別に襲っていた。


 「なん……! 」

ヴォルクが声を上げかけた次の瞬間、連続する爆音が森に響き渡る。

――バーーーーーンッ!!

――ボゴォォォン!!

――バギッ!!


 どこかで爆発が起き、

テントがひとつ、またひとつと破壊されていく。

二人はその光景を前に、ただ言葉を失っていた。

--攻撃は一時的なものだったようだ、音は止み火災と悲鳴の音が交差する。

その降り注いだものは丸みを帯びた岩だと判明する。


 「………母さん!! 」

ハッとしたヴォルクは一目散に自分のテントへとそのまま走り出す。それを見たゼフィールは逆にその音の発生源まで走り出した。



——その音の発生源はテント群北東の森との間にそれはいた。


 その場にいるのは

一対の目のみが露出している、全身を灰色のラインが入ったタイトな黒装束で覆われている腕組みをした大男。

その周囲には、ゴツゴツとした岩の塊――五体の巨大な岩人形ゴーレムが、無言で主を護るように立ちはだかっていた。

 こちら側には王国直属第四騎士団セッカ隊の数十名とその副団長。

全員揃ってはいないようだ。


 「ガルオスさん、道中アドリウス隊の皆さんが村の方達の避難に尽力されています」

 「先生か、手を焼きそうなところです。手伝ってください」

 「言われなくても……皆さん一度下がってください! 」

その言葉を聞いた騎士団はすぐさま1歩下がる、それに合わせゼフィールは両の手を地面に付けた

 「先生、貴様巻き込む気か! 」

ガルオスはゼフィールの構えを見て驚く。ゼフィールが地に両の手をつけるときは非常に大きな技を発する時の構えだからだ。

 「<岩漿の傾壁フォートレス・ラヴァウォール>! 」


--ゴッッッッ!!

という音と共に敵の方に傾いた横に広く巨大な岩壁が飛び出て浮き上がる。その壁は敵側の面はマグマになっており、黒装束の男とその岩人形たちを押し潰さんと、倒れていく。


 「先生……もっとやり方があるでしょう」

ガルオスはぼやくように呟くが、内心――その破壊力に頼もしくも思っていた。


 「おい、お前ら。先生の攻撃の余波が来るぞ!もっと下がれ! 」

叫びながら、ガルオスが部下たちをさらに後方へと下がらせる。


 倒れた巨大な岩壁の“下側”に回り込んだマグマが、
ズルッ……ドロッッッ……と粘ついた音を立てながら、
こちら側にも火の飛沫ひまつき散らしつつ押し寄せてきていた。


 騎士や兵士たちはそれを見て逃げるように更に下がる。

ゼフィールとガルオスも攻撃した対象から目を離さぬようゆっくりと後退していく。

 「いきなりこんな技出してしまっては、相手がどんなやつかもわからぬまま消えてしまうではないですか……つい先生に向かってなどと呼んでしまった」

 「…………」

ゼフィールは無言でその標的付近を見つめている。

 「……先生? 」


——その時。



 岩壁の“上部”――崩落した箇所から、ゴボボッ……ッ!と音を立てて、
マグマが勢いよく噴き出す。
その灼熱の奔流の中から、5体の岩人形ゴーレムが、再び姿を現した。

次の瞬間、マグマが吹き出すその地点から


――バンッ!!


突起のように鋭い岩の柱が地面を貫き、勢いよく伸び上がる。


 そして、その柱の表面がサラサラと崩れ落ち、まるで脱皮するように砂へと変貌していく。

中から現れたのは先程と同じ、全身を黒い装束で覆い、腕を組んだまま動かぬ、あの男だった。


 動揺する騎士や兵たちを見てガルオスは真剣な眼差しをし大声で

 「せいれーーーつ!広守翼こうしゅよく! 」

その声が響くや、騎士団はガルオスを中央とし横長の隊列を組み、最後にガルオスが背に背負っている大盾を地面に突き刺した


 「すまない先生、後ろはまだ民の声がわんさかと聞こえますので、守りに徹底させていただきます」

 「えぇ、そちらの方が助かります」

騎士団は盾を構える。すると騎士の盾の前に、透けた大きな白い盾が浮かび上がり、兵士の体の周りには白いモヤが浮かび上がる。

 その中でもガルオスが出している、その透けた盾は周りの騎士が出しているものより3倍は大きい、その横一列に並んでいる実態の盾と、属魔アトマにより生成されている透けた盾の横並びはまるで小さな要塞のようだった。



 「ふむ……お前らは守りに特化した部隊か。兵士の守の属魔シュ アトマは強く、騎士たちは盾の属魔タテ アトマか」

その男は初めて声を出した、その声からは冷静さが感じ取れる


 「どこの国からですか! 」

 「国など、どうでもよい……白き龍は捕獲されているのか?それとも誰かが倒したのか」

 「質問しているのはこちらですよ」

 「答えぬか……<巨岩掌キョガンショウ>」

--ゴッ


男の前から手の形をした岩が生えてくる。それは意思を持ったかのようにゼフィールに向かい襲いかかってくる。

 それに対しゼフィールは右に身をかわすように動きながら左手を構え唱える。

 「<連岩レロック>! 」

--バババババババンッッ

ゼフィールが駆けた足元の地面から、次々と岩塊がんかいが生成される。それらは一直線に、迫り来る岩の手へと飛び出していった。


――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴンッッ!


 「技の威力が凄まじいな。絶対に我らの後ろには通すなよ!」

ガルオス一同はさらに腰を落とし、敵の技がテントに届かぬよう、属魔アトマの盾を一層厚く展開する。それは塵一つ通さない。


 両者の技が激突し砂煙が巻き上がる。岩の手は大きく破損したものの、その動きを止めることはできず、なおもゼフィールに迫ってくる。


--ドドドドドドォォンッ!!


ここから少し離れたところで音が聞こえた。と同時にその岩の手の動きも止まる。


 その場にいた者たちは、敵味方を問わず皆、その何かを破壊している様な音を聞き取る。

しかし、ゼフィールは、立ちこめる砂煙で視界がほぼゼロとなり、それが何による音なのかを判断することができなかった。


 「……目的はここではなかったか。いくぞ、ハガ」


砂煙の中から、男が誰かに向かって話しかける声が響く。

 
ゼフィールは、周囲の砂煙に包まれ、ほとんど何も見えない。


ガルオスたちは横に並んで壁を作っていたため、後ろは鮮明に見えるが、前方は砂煙で全く見えない状況におちいっている。


そして、その二人は、男が言う「ハガ」が一体誰を指しているのか、全く見当もつかなかった。



「……なんだよ、ここで終わりか。ミガの奴、上手くやったんだろうな……」

その時、ガルオスはハッとした。
盾を構えている自分の10メートルほど後ろに、男が立っていた。

丸く太った体型で、所々に緑の丸模様がついている黒装束の男が。


 「サガ兄さん、今いくよ」

--グホァ!!


その男は、盾を構えている騎士を後ろから飛び蹴りで押し倒し、構築された盾の要塞に穴を開けると、そのまま砂煙の中へと消えていった。


 先程までの激しい攻防が、嘘だったかのように辺りは静まり返る。

視界をさえぎる砂煙だけが、静かに立ちこめていた。


 「先生、無事ですか!? 」

 「ガルオスさんこそ、ご無事で? 」


砂煙の中から、ゼフィールがガルオスの前に姿を現す。

彼は右手を口元に当て、何かを考え込んでいるようだった。


 「……あの音、敵の発言から察するに、まだ白い龍がいたということですね」

 「まさか、まだ生きていたとは……。すみません。我々の背後にもう一人潜んでいたことに気づかず、逃がしてしまいました」

 「いえ、無事であれば何よりです。それよりも、音の発生源はわかりますか?」  

 「む〜……おそらく、テントの北西部にある森かと。まだ砂煙で視界は悪いですが」

その言葉を聞いて、ゼフィールはハッと目を見開いた。


 「アレトさん! 」

 「先生、どうかされましたか? 」


 「この砂煙の量……岩の属魔イワ アトマ同士がぶつかり合ったにしては、あまりに多すぎます。時間を稼がれました!」

 「つまり、敵が意図的に砂煙を発生させていた、と?」

 「ええ。テント内の避難状況を確認した後、セッカ隊をまとめて音の発生源へ来てください。お願いします! 」


そう言い残すと、ゼフィールは迷いなく音の発生源と思われる方向――テント群北西の森へ向かって走り出した。

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