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第16話 瀕死のミガと、ハガとサガ

--アレトとリーナは気を失い倒れている。


——ザザザザッッ

——ザザザザッッ

 そこに草木を掻き分け走り近づいて来る音が聞こえていたが、アレトもリーナもそれに気づくことはない。


 そこに現れたのは黒装束の二人組の男。

灰色のラインの入った『サガ』と緑の丸模様の入る『ハガ』


 二人はその場所につくや少年少女を見る。周りは大きく争った痕跡があり、その子供たちの反対側には胴が真っ二つに引き裂かれた黒装束の男がいた。


 「サガ兄さん、これは……」

 「……分からぬが、まさかこの少年少女にやられたのか? 」

 「龍にやられたって選択肢は……ないか、あんなみっともなく死んでるんだもん。この感じだと白き龍はこの子たちのどっちかに入ったんだろうね」

 二人は上半身だけの『ミガ』を見る。そのやられ方は刃物のようなものでなければ辻褄つじつまが合わない、さっきの破壊音でやられた訳ではないと確信する


 「……わかることは2つ、我々の任務は失敗に終わったと言うこと。ミガは無様にも子供に負け死んだと言うこと」


 「うぐっ……」

 「サガ兄さん、まだ息があるみたいだよ。もう死ぬけど」

二人はミガのところまで歩いていく、そしてサガは片手でその上半身だけのミガを赤子のように持ち上げた。


 「に、兄さんた……い! 」


絶命寸前の声を絞り出すミガに、サガはもう片方の手で指を2本ミガの口に突っ込んだ


 「弱者に残す言葉なし……<膨岩-木岩ボウガン キガン>」

 「!! 」

 「身元も万が一にもバレると厄介だからね、そもそも子供に手を出すのは御法度だし」


 ミガはフスフスと鼻息を荒く漏らし、充血した目を大きく開き二人を交互に見つめる


 サガの指先から形成された岩は、ゆっくりと膨張し始める。

それは容赦なく口の中を満たしていき、やがて内側から頭部を圧迫していった。

 「ぐ……ぐぅ……っ」


──ぺコ……


空気の通り道が完全に塞がれ、ミガの顎が外れる。


──ミチミチッ……


目玉が飛び出し、鼻、耳、目から鮮血が溢れ出す。
顔の皮膚は圧力に耐えきれず、次第に裂けていった。


 「……ふんッ」

サガが指に力を込めると、ミガの頭部は鈍い音を立てて砕け散った。
その首の上には、血に染まった人間の頭ほどの大きさの木の形をした岩が鎮座していた。


 はたから見るとその岩の木はその胴体に根付いているように見える。


 「体の方は切り裂いといた方が良い? 」

 「……いや、特徴的なものはないだろう。そいつの装束は我らと違ってどこにでもある素材を使っている」

 「まだ見習いだしね、それにしても子供に負けるとか、どんなヘマをしたんだろう」

 「……任務は失敗に終わった。帰るぞ」



二人は胴だけの首から岩の木が生える死体と、倒れる少年少女をあとにその場を去った。



--ガサガサ



 「アレトさん! 」

ゼフィールは駆けつけ倒れている、アレトとリーナの状態確認をする。


 「心臓は……出血は……!…………いや、とにかく」

倒れているアレトたちよりも、その異様な死体に目が入り手が止まるもすぐさま二人に対しできる限りの手当てをしていった。


 「さぁ、みんなのところへ帰りましょう。リーナさん、持ち堪えて下さいね 」

 ゼフィールはアレトは命に問題はないが、リーナの命が危ういことに気がついていた。

着ていたローブを布がわりにしてアレトを背負い、リーナをなるべく揺らさないように腕で抱え、森を抜けていった。



 元の仮拠点に戻ると、そこはすでに襲撃の爪痕で荒れ果てていた。火災で黒く焦げた地面、崩れ落ちたテント、そして不幸にも命を落とした騎士や村人の姿が数人、散らばっている。
生きている者の気配は、そこには一切なかった。


 「アレトさんのお母様……それに他の子供たちも……ご無事だと良いのですが……。アドリウスさんたちを信じるしかありませんね……」


 「うぅ……ぐ」

 「アレトさん、今は安静にしていて下さい」

 「こ……これは!? 」

 「アレトさんが森にいる最中、テントに襲撃がありました。アドリウスさんや、ガルオスさんたちが避難させてくれている最中ですよ」


 「騎士の人たちが、チョウおじさん……アネットおばさん……か、母さん!! 」


 倒れている人たちの中には自分の知っている人もいた。その状況を見て自分のお母さんの安否への不安が高まり、動揺が走る。


 「大丈夫です。きっと救助されているはずです」

アレトは動揺はするも動く体力がないようだった。


 ゼフィールはテント群、南の境界まで出た。離れたところに松明の灯りが点々と光っていた。


 「ゼフィールさん! 」

いのいちばんに駆けつけたのは、アドリウスだ。

ゼフィールが返事をする前に背中にいるアレトが僅かな体力から声を絞る。


 「か……母さんは? 」

 「あのお爺さんといた“無覚病”の人だよね。僕が運んだよ」


ゼフィールの背中が重くなった。

 「その一言で完全に安心し切ったようです。……アドリウスさんリーナさんをお願いできますか。非常に危険な状態だと思われますので、優しく」



 「任せて下さい」

ゆっくりと、丁寧にリーナを受け渡した。

 「今後の予定などは定まっていますか?」


 「詳細はまだですね、今ガルオスさんと話がついているのは、亡くなった方々のご遺体の回収とエアリアスへ向かうこと……ぐらいですかね」

 「大まかには決まっているのですね、ところでアドリウスさん一人で来られたのですか? 」

 「いえいえ〜あそこに」


--だんちょ〜ー!

--急にいなくならないで……はぁはぁ


二人の騎士が走ってきていた

 「あ、相変わらずですね……」

 「ガルオスさんと合流したらゼフィールさんが森に向かったと聞いたので、一人にする訳にはいかないと思ったらつい……」


 「……仮に敵があの場にいた敵が生きていたのなら……その判断は助かってたかも知れません」

 「え!?敵がいたんですか!? 」

 「えぇ、死んでいましたけどね。その話は皆さんと合流してから詳しく話します」

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