「お前を国家転覆を図った罪で死刑に処す」
王が俺に言い放った言葉が耳から離れない。
王立学院で剣術を極めた俺は、十八歳で勇者パーティーの一員になった。勇者グレン、魔術師クレア、聖女ミーヤと共に四年に及ぶ長い旅路の果てに魔王を倒し、俺は剣聖の称号を得た。
だが名誉や褒賞には興味がなく、王都を出ようとしていた俺を国家転覆の疑いありと告発したのは、王立学園の同級生で親友だと思っていた勇者グレンだった。あまりのことに闘う気力を失った俺を、グレンは容赦なく捕らえて牢獄に入れた。
三日後、俺は国王の前に引き出された。俺を拘束するクレアの魔術を破って逃げ出すことはできそうだったが、その瞬間に俺の首を飛ばせる位置でグレンが剣を手に待ち構えている。王立学院で互角だったグレンに、剣を持たない俺が勝つ可能性はほぼゼロだ。俺は再び絶望に打ちひしがれた。
罪状はシンプルで理不尽だった。剣聖が理由もなく王都を出るのは謀反の目的以外あり得ないというのだ。どういうわけか、魔族の残党を率いるたくらみを巡らせていることにもなっていた。
「そのような考えは髪の毛の先ほどもありません。私は王に従う忠実な剣士です」
俺は必死で無実を訴えたが、グレンは侮蔑の表情を浮かべ、こう言い放った。
「この男は魔王討伐の際も怪しい動きをしていました。魔族と一騎打ちなどとバカなことをやっており、あれはおそらく、やつらと通じていたからなのでしょう。こいつの言うことを聞いてはなりません」
「王よ。すべては虚偽です。私の真心を信じてください」
「お前は先ほど、邪心は髪の毛の先ほどもないと言ったな」
「はい。確かに」
王が慈悲を示してくれるのかと期待したが、ぬか喜びだった。
「ということは、髪の毛の先ぐらいは反逆の意思があったと自白したということだな」
王の冷たい声が響いた。
「そんな、王!」
「ははは、お前に逃げ道はないぞ、アルノ。この反逆者め」
グレンが勝ち誇った顔で俺を嘲笑した。
グレンは王立学院を卒業すると同時に神の啓示を受け、勇者となった。入学から五年間、グレンと剣の技を競い合った俺は自分のことのようにうれしく思い、彼を祝福した。魔王討伐のパーティーに俺を誘ってくれた時は小躍りしたくらいだ。俺たちは助け合って魔王を討伐した。それなのに……。
「グレン、お前いったい……」
「反逆者にかける言葉はないな。王よ。こいつを今処刑しなければ、魔王が猛威を振るっていた頃のように、再び多くの犠牲者が出かねません」
「うむ。魔王を討った功績は認めるが、その力を王国に向けるというならば大いなる脅威でしかない。まして魔族と結託するなどと……剣士アルノ。いや反逆者アルノ。お前を国家転覆を図った罪で死刑に処す」
「王よ! 何かの間違いです。どうかご再考を!」
「悪あがきは無駄だぞアルノ。お前の首は俺が切ってやる。苦しませないのがせめてもの情けだ」
王は黙って冷たい視線を俺に向けている。
「グレン、お前……。クレア、ミーア、お前たちは俺のこと信じてくれるよな!」
二人は目を伏せ、黙って立ち尽くしていた。ミーアは泣いているようだ。そうだ、この状況で俺をかばえば死罪になりかねない。彼女たちを巻き込むわけにはいかない。
「あ、いや、お前たちにはなんの関係もない。俺のことは忘れてくれ」
「ああ、今頃になっていい人ぶらなくてもいいぞ、アルノ。すぐに処刑してやるからな」
グレンはそう言って、足早に外へ出て行った。
王はクレアに俺を魔術で外に連れ出すよう命じ、俺は王宮前の広場にしつらえられた断頭台に引っ立てられた。ここで逃げればクレアが責任を負わされる。逃げる選択肢はなかった。広場には大勢の臣民が集められていた。
「謀反人アルノに死を!」「死を!」「反逆者アルノを許すな!」「許すな!」
群衆が叫び始めた。グレンが大剣を手に広場に姿を現した。
「グレン! グレン! グレン!」「勇者様!」
グレンは民衆に手を振った後、剣を振り上げて天にかざした。俺がこの場から脱出する術はもはや一つしかない。「ふう」とため息をつき、俺は俺の肉体の死を覚悟した。