(え? あ、あれは!?)
村の方から大きな煙が上がっているのが見え、頭の中で少年が叫んだ。
(火が出てるのか!)
全力で村へ走ったが、そこにあったのは燃えさかる家々だった。
(村のみんなは……)
(逃げていて無事だと思いたいが……)
後ろから悪意を持った者が近づいてくる気配を感じ、俺、というか少年は振り向いた。馬に乗った騎兵三人がこちらに向かって来る。リーダー格らしい男はでっぷりと太り、特注品の甲冑を身に着けている。
「おいお前、どこから来た」
男はいきなり横柄に聞いてきた。
「俺……あ、いや、ボクはこの村の者です」
とりあえず俺は、丁寧な言葉で答えてみた。
「む、まだ村の男がいたのか。われわれは王宮直属の第十七騎馬連隊だ。俺は連隊長のガルム。この村が魔族に通じているという情報を得て捜索に来たのだ」
「あの、村の人たちは?」
「俺たちが到着するやいなや、逃げ出そうとしたのでな。審問した」
「審問?」
「すると、魔族が襲ってくるから早く逃げなければとたわごとを言うではないか」
「たわごと?」
「そうだ。魔族と通じていた証拠だ」
「魔族と通じていた?」
「われわれから逃げようとしたのをごまかそうとしたのだからな。嫌疑は事実だと認めたようなものだ。すぐに処刑の手続きに入った」
嫌な予感は確信に変わったが、まだ我慢してしゃべらせるしかない。
「それでどうしたのですか?」
「男どもは切り捨てた。女と子どもは奴隷にするため引っ立て、村には火を放った」
(うわあああああああ!)
俺の頭の中で少年が怒りと慟哭の叫びを上げた。
「お前も村の者なら処刑するしかないな」
そう言って男は剣を振り上げたが、俺、少年の体はくるっと向きを変え、燃え盛る村の中に走り込んだ。
(くそ、くそ、くそっ! ボクが命を懸けて守ろうとした村を、なんでこんな……ひどすぎる。あいつら、魔族と変わらないじゃないか!)
少年は頭の中で泣いていた。俺は家々から吹き出す炎を避けながら、生存者がいないか村中を探したが、男たちはみんなこと切れていた。火の中に誰かいたとしても、もはや助かるまい。
「うう……」
その時、パチパチと家が燃える音に交じり、煙の中から小さな声が聞こえた。一迅の風が煙を吹き飛ばし、レンガ倉庫の脇に倒れている少女の体が見えた。
(リリア!)
少年が頭の中で叫んだ。俺が少女に駆け寄ったところに、馬にまたがったさきほどの男が追って来た。
「俺を手間取らせやがって。あ? そいつは女なのに家から飛び出して、剣で俺に襲い掛かってきたやつだな。勇猛果敢ぶりに敬意を表して切り捨ててやったのだが、まだ生きていたか。女だと思ってつい手加減してしまったわ。むしろ凌辱しておけばよかったかな」
(うわあああああああああああ!)
少年が頭の中でありったけの声で叫んだ。アルトと同い年ぐらいの少女は腹を切られ、瀕死の状態だが、まだ息はある。俺が近寄ったことに気付いたようだ。
(ああ、アルトなの。よかった。生きてた……でも逃げて……)
(アルト、この子はまだ助けられる。安心してくれ)
俺は頭の中で少年にそう言葉を掛けた。