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第5話 連隊長

「ヒール」

 腹を裂かれた少女の容態はかなり危険だった。俺は大魔術士バッソに教えられた回復魔法を最大級の力で施した。少女を中心に大きな魔法陣を顕現させ、内臓の損傷を治しながら傷をふさいだ。


「な、な、なんだ。今のは一体? おい、女の傷が一瞬で消えたぞ。お、お前はなぜそんな高度な魔法が使えるのだ」

「ほう、待っていてくれたのか」

「あ、つ、つい見とれて……うるさい。今すぐ成敗してくれようぞ。おい! やれ!」

 男は後ろについていた部下二人に俺、というか少年の討伐を命じた。騎士たちも命じられたとはいえ、この村の虐殺に加担したことは間違いない。かわいそうだが罰を受けてもらうしかない。

「仕方ないな」

俺は脇に差した小さな剣を抜いた。

「そんなもので反撃しようなどと、バカなやつだ」

 連隊長だというでっぷり太った男は余裕たっぷりにこちらを眺めている。次は君の番なのだが。

 二人の騎士はひきょうにも馬上から挟み撃ちで同時に切りかかってきた。その瞬間、俺は大きくジャンプして振り下ろされた二振りの剣をかわし、体を回転させながら二人の首を切り裂いた。

「ぎゃ」「ぐわっ」

 短い叫び声を上げた二人の騎士の首が地上に転げ落ちた。


「うむむ、小僧。なんてことをしやがる。ただではおかぬぞ」

 男は真っ赤な顔をしている。

「ただではおかないのは俺の方だ」

 俺はそう言って今度は馬上の連隊長の男に襲い掛かり、一瞬にして甲冑の留め具部分と衣服、鐙を切り裂き、男を裸の状態にして落馬させた。剣を抜く暇も与えなかった。

「ぐぬう」

 もんどりうって倒れた男はほぼ裸で醜態をさらしている。

「さて」

 そう言って俺は男の腹を死なない程度に十字に切り裂いた。

「ぐわあああ」

 男は叫び声を上げた。

「お前はぜんぜん勇猛果敢じゃないな。さて、俺の質問に答えてもらおうか」

「く、こ、殺せ!」

「ほう、殺していいのか?」

「あ、いや、勢いで言っただけで……」

「そうか。まあそれなら、返答次第ではヒールをかけてやらんでもないぞ」

「え? 本当に?」

「ああ。まず、この作戦を命じたのは誰だ」

「う、それは……」

「死にたいのか?」

「あ、は、はい、勇者グレン様です。隠密作戦だと言っておりました」

「やはりな。王ではないのだな」

「は、はい」

「村人を殺してもいいと?」

「あ、はい。グレン様はそのように……」

「理由は聞いているか?」

「は、はい。この村は魔族に生贄を出しているから魔族と通じているに違いない。王に反逆する前につぶせとおっしゃってました」

「お前は疑問に思わなかったのか」

「あ、いやその、少し変な気はしましたが、命令なので……あの、その、仕方なく……」

「仕方なく? それは本心か?」

「も、もちろんです。王の名誉のため略奪もしておりません。森にいるという魔族の討伐も命じられていましたし……」

「そうか? それならお前は正しい行いとしたと思っているのだな」

「は、はい。その通りです」

「じゃあこれ以上の苦しみは不要だな」

「あ、ありがとうございます。早くヒールを……」

 俺は瞬時に男の首をはねた。

「無辜の民を虐殺したやつを生かしておけるわけがないだろう」


(あ、あの……ありがとうございます。村の人たちの仇を討ってくれて)

 頭の中で少年が言った。

(ああ、こいつは間違いなく殺しを楽しんでいた。君が言った通り、まるで魔族のように……報いを受けるのは当然だ。王都にこんなやつらがいたことさえ気づかなかった俺は自分の愚かさを笑うしかない。ただ……)

(ただ?)

(君の真の仇は、こいつに虐殺を命じたグレンだ。俺と利害が一致したな。本当の復讐はこれからだ)

(あ、はい……)


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