(おいアルト、道案内してくれ。じゃないとまた疑われる)
(わかってます。ボクの言う通り歩いてください。でも、とにかくリリアをできるだけ見ないでくださいよ)
(わかった)
俺はアルトが頭の中で指示する通りの方向へ歩みを進めた。小屋があるのは先ほど魔族と闘った場所よりも少し西側のようだ。恐怖と悲しみがぶり返したのか、リリアは無言で下を向き、俺の後ろをついてきている。村から十五分ほど歩くと、小屋が見えてきた。
「ああ、小屋は無事みたい」
リリアがやっと口を開いた。扉にカギはかかっておらず、小屋に入ると簡素なイス数脚とテーブルがあり、俺たちはようやく腰を下ろすことができた。
「ふう」
俺らしくもないため息をついてしまった。それにしても、まだ子供と言ってもいい二人がなぜこんなつらい目に遭わなければならないのだ。そして、魔王さえ倒せば平和が訪れると信じ込んでいた俺のバカさ加減にいっそう腹が立った。
「ああ、これから私たち、どうすれば……」
緊張が解けたリリアだったが、今度は不安に襲われたようだ。
「王都へ行こう」
俺はつい、そう口走ってしまった。
「え? 王都?」
「あ、ああごめん。ボク、とんでもないこと言ったかも。でもさ、連れ去られた女性たちは王都にいる可能性が高いと思うんだ。だからさ、とにかく行ってみようよ」
俺はまた一生懸命、十代半ばの少年らしくしゃべってみた。
(剣聖様、その話し方……)
頭の中でアルトが笑いをこらえている。おい、俺はお前と六つしか違わないんだぞ。まあ、少しでもアルトが怒りと悲しみを忘れられたのなら、よしとしよう。
「うん。アルトの言う通りね。ここで悲しんでいても始まらない……王都まで歩きだと五日はかかるけど、アルトと一緒なら大丈夫ね!」
不安を打ち消すようにリリアが言った。アルトのふりは通じたみたいだ。
「あ、そうだ。備蓄の食糧と……着替えもあるかもしれない」
そう言ってリリアは奥の部屋のドアを開けて入って行った。
(剣聖様、本当に王都へ行くんですか?)
(俺のことはアルノって呼んでくれ。バカな剣聖はもう死んだんだ)
(でも剣聖様は剣聖様なんじゃ……)
(俺は君の体を借りざるをえなくなったバカな男だ。その呼び名はふさわしくない)
(はあ……じゃあ、アルノさんでいいですか?)
(ああ、もちろんだ。その方が俺も心地よい)
(わかりました。これからはそうさせてもらいます)
(あと……)
(はい?)
(俺と君は、それほど年は離れていないのだが……)
(はあ……)
(なんだか年寄り扱いしてないか?)
(え?)
(俺はまだ二十二歳だぞ)
(え! そうなんですか。もっとずっと年上だと思っていました)
(まあ、君からしたら二十二歳でもおっさんに思えるかもしれないが、俺からすれば君とそんな大きな差はないんだぞ)
(はあ……)
(まあ、君も六年後にはわかるよ)
(はは、そうですね。あ、それで、王都ですけど……行っても大丈夫なんですか?)
(ああ、だって俺が入っているのは君の体じゃないか。俺だってバレることはまずないだろう。それから俺の師匠で育ての親、大魔術師バッソが王都にいる。きっと力になってくれるはずだ)
(あ、ああ、そうなんですね。それは心強いです)