「アルト! こっち来て!」
リリアが叫んだ。俺は驚いてすぐに隣の部屋に駆けつけた。
「どうした?」
「見て。冒険者みたいでしょ」
リリアは女性用の戦闘服と防具を身に着けていた。
「なんでそんなものがここに?」
「わからない。納戸の奥の方の行李に入ってた。剣と弓矢もあった。
「どう見ても冒険者用の装備だ」
「男物もあるよ。アルト着てみてよ」
俺はリリアに言われるがままに戦闘服を着てみた。袖の裾とズボン丈が少し長いが、まくればなんとかなりそうだ。防具はほぼぴったりだ。
「なんか似合ってるね、アルト」
リリアが微笑みながら俺を眺めている。
(これ、ボクの両親が残したものかもしれません)
頭の中でアルトが俺に言った。
(ボクの両親はこの村に落ち着くまで冒険者をしてました。二人とも死んじゃいましたけど。ボクはまだ小さくて、冒険者時代に知らずにかけられた呪いが原因だったみたいだって後から聞きました)
(その両親の装備がなんでここに?)
(わかりません……冒険者をやめても捨てられなかったのかもしれません。それで家じゃなくて、ここに隠して……)
「アルト?」
「え? あ、ごめん。また考え事してた」
「考え事?」
「ああ、この装備、お……ボクの両親のものかもしれないって思って」
どうしても俺と言ってしまいそうになるが、なんとかごまかした。
「え? そうなの?」
「証拠はないけど……たぶん」
少年口調はだいぶ板についてきたと自分では思うのだが。
「たぶん?」
「ボクの両親が冒険者をやってたのは知ってるよね?」
「え? 知らない。初耳だけど」
(おい、言ってなかったのか)
(すいません、黙ってました)
(どうごまかす?)
(うーん、言ってた気がしてたとか?)
「それはちょっとなあ」
「え? 何? アルト」
俺はつい口に出してしまっていた。
「あ、いや……何でもないよ。記憶を思い起こしてた。言ってたような気がしてたんだけど、ごめんね。ボクの両親は冒険者をやめてこの村に来たんだ。でも、ボクらが小さい頃に死んじゃったでしょ。それ、冒険者のときに受けた呪いが原因だったみたいなんだ」
「そうだったんだ……」
リリアは悲しそうな顔になった。なんとかごまかせたようだ。
「あ、ボクは大丈夫だよ。それより、ボクの両親が残してくれた装備が役立つならうれしいよ」
俺は精一杯少年っぽい口調でしゃべり続けた。
「うん。あ、そうだ。あと食糧や旅の装備がないか探してみるね。アルトはそこでもうちょっと休んでていいから」
リリアはそう言って、狭い調理場へ移動した。
(なんか話し方、板についてきましたね、アルノさん)
(まあな。って俺だってまだ若いんだって)
(はいはい、そうでしたね)
アルトは俺に打ち解けてきてくれているようだ。
(それでアルト。今のうちに打ち合わせしておこう。今後のために)
(はい)
(まず、君はあの子、リリアをどう思っているんだ?)
(え? それはその……まあ、幼なじみっていうか、っていきなりなんですか!?)
(あ、いや、彼女にどんな態度を取ればいいか計りかねて……)
(もう! いいですよ。アルノさんの好きなようにしてください)
(あ、ああそうか。で、彼女は君をどう思ってるんだ?)
(もう! ボクが知るわけないじゃないですか。アルノさん、デリカシーなさすぎです)
(あ、ああそうか。そうだな、悪かった。変なこと聞いてすまない)
(そうですよ)
(……まあ、だいたいわかったよ)
(え? それ、どういう意味ですか?)
(わかったから)
(何がですか?)
(大丈夫だって)
(もう……いいです)