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4-8 歌枠!

 宴の喧騒の中、ルナはVTubeスタジオからの新たなスキル通知を確認するため、瞳を細める。

 画面に浮かんだアイコンをタップすると、スキル名が表示された。


「Vスキル: 歌枠……!?」


 瞬間、ルナは小さく息を呑む。

 彼女は歌が大好きだった。

 毎週金曜日には歌枠を必ず開催し、ファンのにゃん民たちに自慢の歌声を届けてきた。


 しかし、異世界に来てからは、オケの用意もなければ、マイクもない。

 異世界への突発的な転移で、歌枠ができないまま日々を過ごしていたルナは、ずっとこの時を待ちわびていた。


「やったですにゃ! これなら歌枠ができるんですにゃ!」


にゃん民: 歌枠きたー!

にゃん民: なんという神展開

にゃん民: 今まで戦い漬けだったから、ここで癒やしの歌キタコレ!


「町長さん、ちょっとお願いがあるですにゃ!」


 上座から少し身を乗り出し、ルナは町長に話しかける。

 町長はすっかり機嫌が良く、笑顔を浮かべている。


「なんじゃね?ルナさん、何でも言ってくれ。」


「そこの広場の脇にあるステージを使わせてくださいにゃ。

 今から歌を歌いたいんですにゃ!」


「歌を……?ほほう、面白い。

 いいぞ、存分に使いなさい!」


 町長の快諾に、ルナは嬉しそうに頷く。

 にゃん民たちも「やった!」「生歌枠!」と大盛り上がりだ。


 ルナはステージへと足を運ぶ。

 辺りの人々も「何をするんだ?」と興味津々で近づいてくる。


「みにゃさん、そしてこの街のみなさん、今日は本当にありがとうございましたにゃ。

 私、ここで歌枠を始めさせていただきますにゃ!

 にゃん民さんも、町のみにゃさんも、楽しんでいってくださいですにゃ!」


 Vスキル「歌枠」を発動すると、ステージが急に光り輝き始める。

 まるで近代的なアイドルライブのセットが、この中世ファンタジー世界にぽんと現れたような不思議な光景だ。


 カラフルなライトがステージを染め、マイクスタンドが生えるように出現する。


「このマイク……オケも流れてる!

 それではいきますにゃ、『ねこねこメイドはまっしぐら!』」


古参にゃん民: こ、これはルナちゃん唯一のオリ曲ではないか!

にゃん民: 原点回帰!

にゃん民: 泣いていいかな?


 ルナが歌い出すと、柔らかくも力強い歌声が広場いっぱいに響く。

 旋律は異世界の夜空へと上り、優しい光がステージを包み、さらに高く昇っていく。


 光は上空の一点に集まり、パッと花火のように光の粒が散る。

 その瞬間、ドーム状のバリアが街を覆うように貼りめぐらされる。


 人々は目を見開き、歓声と感動の声を上げる。

 にゃん民たちも「守られた!」「歌の力すげえ!」「マジでVTuber最強説」とコメント欄で大騒ぎ。


 こうして、勝利の宴は歌声に包まれた特別な空間となり、朝方まで歌枠は続いていった。

 ルナは歌い、にゃん民は聴き、町の人々は踊り、笑い、涙を流す。


 全てが一つになった夜だった。




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