宴の喧騒の中、ルナはVTubeスタジオからの新たなスキル通知を確認するため、瞳を細める。
画面に浮かんだアイコンをタップすると、スキル名が表示された。
「Vスキル: 歌枠……!?」
瞬間、ルナは小さく息を呑む。
彼女は歌が大好きだった。
毎週金曜日には歌枠を必ず開催し、ファンのにゃん民たちに自慢の歌声を届けてきた。
しかし、異世界に来てからは、オケの用意もなければ、マイクもない。
異世界への突発的な転移で、歌枠ができないまま日々を過ごしていたルナは、ずっとこの時を待ちわびていた。
「やったですにゃ! これなら歌枠ができるんですにゃ!」
にゃん民: 歌枠きたー!
にゃん民: なんという神展開
にゃん民: 今まで戦い漬けだったから、ここで癒やしの歌キタコレ!
「町長さん、ちょっとお願いがあるですにゃ!」
上座から少し身を乗り出し、ルナは町長に話しかける。
町長はすっかり機嫌が良く、笑顔を浮かべている。
「なんじゃね?ルナさん、何でも言ってくれ。」
「そこの広場の脇にあるステージを使わせてくださいにゃ。
今から歌を歌いたいんですにゃ!」
「歌を……?ほほう、面白い。
いいぞ、存分に使いなさい!」
町長の快諾に、ルナは嬉しそうに頷く。
にゃん民たちも「やった!」「生歌枠!」と大盛り上がりだ。
ルナはステージへと足を運ぶ。
辺りの人々も「何をするんだ?」と興味津々で近づいてくる。
「みにゃさん、そしてこの街のみなさん、今日は本当にありがとうございましたにゃ。
私、ここで歌枠を始めさせていただきますにゃ!
にゃん民さんも、町のみにゃさんも、楽しんでいってくださいですにゃ!」
Vスキル「歌枠」を発動すると、ステージが急に光り輝き始める。
まるで近代的なアイドルライブのセットが、この中世ファンタジー世界にぽんと現れたような不思議な光景だ。
カラフルなライトがステージを染め、マイクスタンドが生えるように出現する。
「このマイク……オケも流れてる!
それではいきますにゃ、『ねこねこメイドはまっしぐら!』」
古参にゃん民: こ、これはルナちゃん唯一のオリ曲ではないか!
にゃん民: 原点回帰!
にゃん民: 泣いていいかな?
ルナが歌い出すと、柔らかくも力強い歌声が広場いっぱいに響く。
旋律は異世界の夜空へと上り、優しい光がステージを包み、さらに高く昇っていく。
光は上空の一点に集まり、パッと花火のように光の粒が散る。
その瞬間、ドーム状のバリアが街を覆うように貼りめぐらされる。
人々は目を見開き、歓声と感動の声を上げる。
にゃん民たちも「守られた!」「歌の力すげえ!」「マジでVTuber最強説」とコメント欄で大騒ぎ。
こうして、勝利の宴は歌声に包まれた特別な空間となり、朝方まで歌枠は続いていった。
ルナは歌い、にゃん民は聴き、町の人々は踊り、笑い、涙を流す。
全てが一つになった夜だった。