魔王四天王エンジョルノが倒れてから3日、バズリディアの街には穏やかな日常が戻っていた。
街並みは明るく、行き交う人々もどこか浮き立っているようで、ルナが通りを歩くと、子供たちが手を振り、大人たちが笑顔で挨拶してくれる。
「平和ですにゃ……」
ルナは手元に映る配信画面とコメント欄を眺めながら、小さな溜め息をつく。
静かで心地よい。苦難を乗り越え、宴まで開いてもらえた。
にゃん民: のんびりムードいいな
にゃん民: 戦わなくてもルナちゃん可愛いし
だが、その心の片隅には「これでいいのか?」という微かな疑問があった。
登録者数は10万を超え、同接も何もしなくても3000は行くようになった。
以前と比べれば天国のような数字である。
(でも、これでいいんだろうか)
その時、VTubeスタジオから再び通知が来る。
アイコンが点滅し、彼女を次のステージへ誘うかのように光っている。
「また通知ですにゃ……押してみますにゃ」
軽くタップすると、画面にメッセージが表示される。
「『視聴者にクリエイティブなコンテンツを届けましょう!
おすすめスポット:
・エルフの里
・ドワーフの地下洞窟』」
ルナは目を瞬かせる。この世界にはまだ様々な場所がある。
エルフの里やドワーフの地下洞窟……どちらも興味深い。
「わくわくしてきましたにゃ!」
同時に、ルナは考える。
VTubeスタジオが示すこのガイダンス、もしかすると女神インフルエンシディアの意思が反映されているのかもしれない。
だとすれば、神の導きに従った方が、この世界でのVTuber活動をより面白く、視聴者も楽しめるに違いない。
「みにゃさん、これはきっと神の啓示ですにゃ。
猫神ルナはここで止まっているわけにはいかないですにゃ!」
にゃん民: おお、旅に出るのか
にゃん民: エルフの里もドワーフ洞窟も魅力的
「よし、アンケートを取りますにゃ!
エルフの里とドワーフの地下洞窟、どっちがいいですかにゃ?」
結果はすぐに集まり始める。
「美人エルフが見たい!」という声や、「ドワーフの地下洞窟でマジカルスミス見たい」など意見が飛び交うが、最終的には80%がエルフを選ぶことに。
「決まりですにゃ!エルフの里に行きましょう!」
ルナは荷物を整え、街を出る準備を始める。
シアや、おばさん、母親、そしてギルド支部長のガルド、それに町長が揃って見送りに来てくれた。
「ルナさん、本当に行ってしまうんですか……?」
シアは寂しそうな顔をする。
「ごめんなさいですにゃ。でも、これが配信者のサガですにゃ。
この世界をもっと探検して、みにゃさんに色んなものを見せたいんですにゃ。」
町長は困ったような笑顔で頷く。
ガルドも「気をつけてな」と渋く言葉をかける。
「ルナさん、いつでも戻ってきてくださいね!」とおばさん。
母親も微笑み、感謝を込めて手を振っている。
「皆さん、お世話になりましたにゃ!
また必ず来ますから、元気でいてくださいにゃ!」
にゃん民: 別れか…寂しいな
にゃん民: 冒険者VTuberだから仕方ない
にゃん民: 次のエルフの里編も楽しみ
ルナは笑顔で手を振り、石畳を歩き出す。
門を抜けると、夕陽がオレンジの光を投げかけ、旅立ちを祝福するような暖かさを感じる。
こうして、惜しまれつつもルナはバズリディアを後にした。
次なる冒険の舞台、エルフの里へと向かう。その背中を、多くの人々とにゃん民たちが見守っている。