マスコット化スキルを発動すると、ホワイトタイガーの子供は淡い光に包まれ、ゆっくりと空中に浮かび上がった。
ルナは息を呑み、コメント欄も固唾を呑んで見守る。
「対象の損傷が甚大。再構成してマスコット化を進行します。」
VTubeスタジオから聞こえてくる不思議な声は、まるでAIがプロセスを説明するようなトーンだった。
光が収束し、ホワイトタイガーの身体が淡く歪み、輪郭が変化していく。
次第に光が消え、地面にひょこんと座っていたのは、白い体毛に三毛色の模様、長い黄色いマフラーを首に巻いた小さな猫のキャラクターだった。
「こ、これは……みけのすけ!?」
ルナは驚きで目を見開く。
みけのすけはVTuber猫神ルナがデビュー当初から設定していたマスコットキャラクター。
いつも配信画面の隅でふわふわと漂っているだけの存在だったが、今ここに、実体を持って現れた。
「やっと会えたね、ルナ。」
みけのすけが優しい声で話しかける。
見習い巫女メイドであるルナを導くキャラクターという設定はあったものの、実際には画面の片隅で存在感を示す程度だった。
「み、みけのすけ……どうして、ここに?」
にゃん民: マジでみけのすけが実体化したwww
にゃん民: トラを乗っ取ったのか?
にゃん民: やば、しかも喋ってる!
みけのすけはコメント欄を覗き込み、ため息混じりに笑う。
「こらこら、滅多なこと言わないでよ。
僕はホワイトタイガーを『乗っ取った』わけじゃなくて、融合した感じかな。
ホワイトタイガー君の記憶も、ちゃんと残ってるんだ。
ルナ、助けてくれてありがとうね。」
「よかったですにゃ……何はともあれ、本当に嬉しいですにゃ!」
ルナは目を潤ませながらみけのすけを抱き上げる。
みけのすけはマフラーを揺らしながら、ルナに擦り寄るように体を傾ける。
にゃん民: マスコットキャラで自我持ちって珍しいよな
にゃん民: 人語を喋るのもレアかも
にゃん民: キュ◯べえ的な感じか?
「失敬な!
僕はこわいマスコットキャラじゃないよ?」
みけのすけは目をうるうるさせながらコメ欄に訴えかける。
「みけのすけ......」
にゃん民: ルナちゃん騙されないで!
にゃん民: 魔◯少女にされるぞ!!
にゃん民: エントロピーがどーたらであーたらだ!
「まったく、僕は猫神様に頼まれて、ルナを助けるために来たんだからね......
そこんところ、よろしく頼むよ "みにゃさん"」
みけのすけとコメ欄のじゃれあいはしばらく止まらなかった。