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5-4 みけのすけ

 マスコット化スキルを発動すると、ホワイトタイガーの子供は淡い光に包まれ、ゆっくりと空中に浮かび上がった。


 ルナは息を呑み、コメント欄も固唾を呑んで見守る。


「対象の損傷が甚大。再構成してマスコット化を進行します。」


 VTubeスタジオから聞こえてくる不思議な声は、まるでAIがプロセスを説明するようなトーンだった。


 光が収束し、ホワイトタイガーの身体が淡く歪み、輪郭が変化していく。


 次第に光が消え、地面にひょこんと座っていたのは、白い体毛に三毛色の模様、長い黄色いマフラーを首に巻いた小さな猫のキャラクターだった。


「こ、これは……みけのすけ!?」


 ルナは驚きで目を見開く。


 みけのすけはVTuber猫神ルナがデビュー当初から設定していたマスコットキャラクター。

 いつも配信画面の隅でふわふわと漂っているだけの存在だったが、今ここに、実体を持って現れた。


「やっと会えたね、ルナ。」


 みけのすけが優しい声で話しかける。


 見習い巫女メイドであるルナを導くキャラクターという設定はあったものの、実際には画面の片隅で存在感を示す程度だった。


「み、みけのすけ……どうして、ここに?」


にゃん民: マジでみけのすけが実体化したwww

にゃん民: トラを乗っ取ったのか?

にゃん民: やば、しかも喋ってる!


 みけのすけはコメント欄を覗き込み、ため息混じりに笑う。


「こらこら、滅多なこと言わないでよ。

 僕はホワイトタイガーを『乗っ取った』わけじゃなくて、融合した感じかな。

 ホワイトタイガー君の記憶も、ちゃんと残ってるんだ。

 ルナ、助けてくれてありがとうね。」


「よかったですにゃ……何はともあれ、本当に嬉しいですにゃ!」


 ルナは目を潤ませながらみけのすけを抱き上げる。

 みけのすけはマフラーを揺らしながら、ルナに擦り寄るように体を傾ける。


にゃん民: マスコットキャラで自我持ちって珍しいよな

にゃん民: 人語を喋るのもレアかも

にゃん民: キュ◯べえ的な感じか?


「失敬な!

 僕はこわいマスコットキャラじゃないよ?」


みけのすけは目をうるうるさせながらコメ欄に訴えかける。


「みけのすけ......」


にゃん民: ルナちゃん騙されないで!

にゃん民: 魔◯少女にされるぞ!!

にゃん民: エントロピーがどーたらであーたらだ!


「まったく、僕は猫神様に頼まれて、ルナを助けるために来たんだからね......

 そこんところ、よろしく頼むよ "みにゃさん"」


みけのすけとコメ欄のじゃれあいはしばらく止まらなかった。




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