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8-6 飯テロ

 大きな寸胴鍋に湯気が立ち上り、ルナは料理を完成させた。

 鍋の中には豊かな香りを放つシチューのような料理がぐつぐつと煮えたぎっている。


 役割を終えた“なーべ”とのコラボは解除され、ルナの姿は通常の巫女メイド服に戻っていた。

 それでも、「熊鍋調理」で作られたスープの香りは、ドワーフたちの空腹を満たすに十分な魅力を放っている。


「みにゃさん、できましたにゃ!

 ドワーフのみにゃさん、これをどうぞですにゃ!」


 ルナが用意した器にスープを注ぎ、一人ずつドワーフたちに手渡す。

 痩せこけ、力なき顔をしていた彼らは、初めこそ警戒していたが、立ち上る匂いに誘われ、スプーンを口に運んだ。


「……うまい!」「あたたかい……こんな食事、どれだけぶりだろう」

「味が染みてる……体に力が戻る!」


 ドワーフたちは驚きと喜びの声を上げ、次々にスープを平らげていく。

 配信越しに声をかけていた“なーべ”もコメントで喜びを表す。


なーべ: やったね! 私たちの料理が皆さんの助けになるなんてうれしい!


「そうですにゃ、なーべちゃん!

 これこそコラボの力ですにゃ!」


 にゃん民: てえてえ……

 にゃん民: 神コラボ!

 にゃん民: スペチャ投げとくわ!


 次々とスペチャが飛び交い、ドワーフたちは少しずつ顔色を取り戻していく。

 その中、里の長老らしきドワーフが前に進み出た。


「恩人よ、あなた方の優しさに心から感謝する。

 これで我らはしばらく飢えずに済む……本当にありがたい。」


 ルナは安堵の面持ちで笑顔を返す。


「よかったですにゃ……! でも、どうして皆さん、こんなに飢えた状態だったんですかにゃ?」


 長老は小さくため息をつき、周囲の仲間を見渡すようにしてから答えた。


「実は、この洞窟――我々ドワーフが住む地下空間に、魔王四天王の一人が現れてな。

 そいつは“インプゾンビーズ”なる悪魔のゾンビ軍団を放ち、食料を根こそぎ奪い尽くしたんだ。

 外から物資を運び込むルートも潰され、我々はじわじわと飢えていくしかなかった……」


 ドワーフたちが悔しそうにうつむく。


「ですが、あなた方のおかげでこうして食事にありつけた。

 しかし……インプゾンビーズは、まだ洞窟の奥に潜んでいるんだ。

 奴らがまた出てきたら、せっかくの食料も奪われてしまうかもしれない。」


「インプゾンビーズが……まだ……」


 ルナは神妙な面持ちで呟く。


「どうか、あなた方の力でインプゾンビーズを倒してくれないだろうか。

 再び飢える日々など、もうごめんだ……」


 頭を下げる長老に、ルナは拳を握りしめ、力強く頷く。


「わかりましたにゃ。

 ご飯が食べられないなんて地獄、わたしには許せませんにゃ。

 インプゾンビーズ、わたしが倒しに行きます!」


 にゃん民: ルナちゃん、がんばれ!

 にゃん民: ここでも戦闘か?


「恩人よ、重ねて感謝する。どうか無茶はしないでくれよ……」


 長老が深々と礼をすると、ルナは配信画面へ向き直り、真剣な眼差しを向ける。


「みにゃさん、この里を完全に救うために、わたし、やるですにゃ!

 インプゾンビーズを倒して、みんなの食卓を取り戻しましょう!」


 にゃん民: 了解!

 にゃん民: インプゾンビーズとか聞いただけでヤバそう…


 こうして、ドワーフたちを再び飢えさせないために――ルナは新たな戦いへと足を踏み入れる。

 スープの温もりが、彼女の心を奮い立たせていた。



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