大きな寸胴鍋に湯気が立ち上り、ルナは料理を完成させた。
鍋の中には豊かな香りを放つシチューのような料理がぐつぐつと煮えたぎっている。
役割を終えた“なーべ”とのコラボは解除され、ルナの姿は通常の巫女メイド服に戻っていた。
それでも、「熊鍋調理」で作られたスープの香りは、ドワーフたちの空腹を満たすに十分な魅力を放っている。
「みにゃさん、できましたにゃ!
ドワーフのみにゃさん、これをどうぞですにゃ!」
ルナが用意した器にスープを注ぎ、一人ずつドワーフたちに手渡す。
痩せこけ、力なき顔をしていた彼らは、初めこそ警戒していたが、立ち上る匂いに誘われ、スプーンを口に運んだ。
「……うまい!」「あたたかい……こんな食事、どれだけぶりだろう」
「味が染みてる……体に力が戻る!」
ドワーフたちは驚きと喜びの声を上げ、次々にスープを平らげていく。
配信越しに声をかけていた“なーべ”もコメントで喜びを表す。
なーべ: やったね! 私たちの料理が皆さんの助けになるなんてうれしい!
「そうですにゃ、なーべちゃん!
これこそコラボの力ですにゃ!」
にゃん民: てえてえ……
にゃん民: 神コラボ!
にゃん民: スペチャ投げとくわ!
次々とスペチャが飛び交い、ドワーフたちは少しずつ顔色を取り戻していく。
その中、里の長老らしきドワーフが前に進み出た。
「恩人よ、あなた方の優しさに心から感謝する。
これで我らはしばらく飢えずに済む……本当にありがたい。」
ルナは安堵の面持ちで笑顔を返す。
「よかったですにゃ……! でも、どうして皆さん、こんなに飢えた状態だったんですかにゃ?」
長老は小さくため息をつき、周囲の仲間を見渡すようにしてから答えた。
「実は、この洞窟――我々ドワーフが住む地下空間に、魔王四天王の一人が現れてな。
そいつは“インプゾンビーズ”なる悪魔のゾンビ軍団を放ち、食料を根こそぎ奪い尽くしたんだ。
外から物資を運び込むルートも潰され、我々はじわじわと飢えていくしかなかった……」
ドワーフたちが悔しそうにうつむく。
「ですが、あなた方のおかげでこうして食事にありつけた。
しかし……インプゾンビーズは、まだ洞窟の奥に潜んでいるんだ。
奴らがまた出てきたら、せっかくの食料も奪われてしまうかもしれない。」
「インプゾンビーズが……まだ……」
ルナは神妙な面持ちで呟く。
「どうか、あなた方の力でインプゾンビーズを倒してくれないだろうか。
再び飢える日々など、もうごめんだ……」
頭を下げる長老に、ルナは拳を握りしめ、力強く頷く。
「わかりましたにゃ。
ご飯が食べられないなんて地獄、わたしには許せませんにゃ。
インプゾンビーズ、わたしが倒しに行きます!」
にゃん民: ルナちゃん、がんばれ!
にゃん民: ここでも戦闘か?
「恩人よ、重ねて感謝する。どうか無茶はしないでくれよ……」
長老が深々と礼をすると、ルナは配信画面へ向き直り、真剣な眼差しを向ける。
「みにゃさん、この里を完全に救うために、わたし、やるですにゃ!
インプゾンビーズを倒して、みんなの食卓を取り戻しましょう!」
にゃん民: 了解!
にゃん民: インプゾンビーズとか聞いただけでヤバそう…
こうして、ドワーフたちを再び飢えさせないために――ルナは新たな戦いへと足を踏み入れる。
スープの温もりが、彼女の心を奮い立たせていた。