「ファ、ファンです! 握手してください!」
ルナは思わず声を裏返しながら、手を差し出した。
かつて“ネコノミコト”と呼ばれ、VTuber界を席巻した伝説的存在。
その憧れのVTuberと、今まさに異世界で対面している。胸の高鳴りは抑えられない。
「昔からずっと推してて、ライブも最前で見てました! グッズも大量にあるし...
配信も全部見ました! バイトある時はリアタイじゃなくてアーカイブだったけど...
あ、あと、あなたに憧れてVTuberになったんです!」
緊張のあまりロールプレイを忘れ、素の口調が漏れてしまう。
コメント欄もそれに気づき、揶揄するような書き込みが続いた。
にゃん民: ルナちゃんロールプレイ外れてるぞ
にゃん民: 推しに会えて興奮しすぎw
にゃん民: これはガチ恋勢の声だ…
「あわわわ…ご、ごめんなさいですにゃ…」
ルナは照れ隠しに猫耳をピコピコ動かしながらも、ニニギへの崇敬は隠せない。
すると、天照ニニギは穏やかな微笑みを浮かべ、ルナの差し出した手を両手で包み込んだ。
「ありがとう。私に憧れてくれているの?
でも“昔から”って、私の活動歴は1年くらいなんだけどなあ?」
イタズラっぽい光が、その瞳に揺れる。
それが公然の秘密——天照ニニギの本当の前世を暗示していると、ルナはすぐに察してしまった。
「あわわわわ……」
ルナは動揺しつつ、興奮を隠そうとしない。
コメント欄も、そんな二人のやり取りを見て盛り上がっている。
にゃん民: シーだよルナちゃん!
にゃん民: 公然の秘密きたー
にゃん民: やっぱりニニギはあの人…!
ニニギはそんなコメントを見ても特に気にした様子はなく、優しい眼差しをルナに向ける。
「あなた、異世界でずっと戦ってきたんでしょう?
聞いてるわ、四天王を退けたり、ドワーフの里を救ったり…本当にすごいわ。」
「い、いえ、私なんかまだまだですにゃ…」
ルナが謙遜するように目を伏せると、ニニギはそっと微笑んで、ねぎらう言葉をかける。
「でも、一人で頑張ってきたのでしょう?
あなたの配信を見ている人がいる、それを糧に前に進む姿は本当に素晴らしいわ。」
その言葉に、ルナは胸がいっぱいになった。
ずっと憧れだったVTuberが、自分を認め、称えてくれている……感動のあまり、瞳に涙が浮かぶ。
「うっ……ありがとう…ですにゃ……。わたし、ほんとに……」
言葉にならない思いが込み上げ、ルナは泣きそうになる。
コメント欄は「てえてえ」「尊すぎる」とさらに熱狂し、スペチャも次々に飛び交う。
にゃん民: ママみがすげえ
にゃん民: こんなやりとり見せられたら俺らおぎゃるしかねえ
にゃん民: バブりたい…うわあああ
「ふふっ、泣かないで。さあ、ここでゆっくり休んでいって。
二人きりで話したいことがあるの。」
ニニギはルナの背をそっと撫で、教会の奥へと案内する。
ルナは溢れる感謝と喜びを抱きながら、その後ろ姿についていくのだった。