「待ってくださいにゃ!」
乾いた空気を裂くように、少女――猫神ルナの声が響いた。
背後にはユニコーンを連れ、廃都の瓦礫の道を急ぎ足で駆けつけてくる姿が見える。
マリシャスヘイターとシャムが振り向くと、そこには憤りと決意を湛えたルナの表情があった。
「……あ、あんたは……!」
シャムは視線をそらすようにして、にがにがしげにルナを睨む。
過去に徹底的に潰したはずの相手が、こんな場面で乱入してくるとは思わなかったのだろう。
マリシャスヘイターは木製の顎をコクコクと動かし、ルナを値踏みするように観察する。
「ほう、あなたが“猫神ルナ”……ですか。
なるほど、ニニギの小間使いですかね? それとも自分で探し当てたのかな。」
ルナは一瞥もくれず、沈みかけたシャムに視線を注いだ。
「シャムさん……大丈夫ですかにゃ?」
その問いかけに、シャムはくしゃりと眉間を寄せる。
「誰があんたなんかに助けを……!」
だが、その言葉は震える声で、意地を張っているに過ぎないことは明白だった。
―――――――――― 【1時間前・配信中】
ルナはニニギから、最後の四天王が廃都ローウェンという場所に現れるという情報を聞いて、この地に赴いていた。
「ここが廃都ローウェンですにゃ……。この辺りに最後の四天王がいるらしいですにゃ。」
にゃん民: マジか、四天王ラスト!
にゃん民: 気をつけてね、ルナちゃん!
その時、コメント欄に突如、見慣れない名前の視聴者たちのが書き込みが現れる。
シャ民党員: ルナちゃん、お願い!シャムを助けてあげて!
シャ民党員: 魔王軍に追われてるんだ!
シャ民党員: どうか見捨てないで……!
シャ民党員。言わずと知れた、鬱猫シャムのファンネームである。
コメント欄が一気にざわつく。
にゃん民: はぁ?あのシャムを助けろって?
にゃん民: 自分勝手に暴れ回った奴、放っておけばいいだろ
にゃん民: 鳩行為は禁止でーす
にゃん民: ルナちゃんを追い詰めた張本人を助けろなんて、ムシが良すぎる
にゃん民: あんなやつ、手に負えないだろ。触れると燃えるぞ?
ファンの皆の強硬な反応に、ルナは苦悩しながらも、画面を見つめて唇をかむ。
「でも……私、誰かを見捨てるなんて、したくないんですにゃ。
ここで苦しんでる人がいるなら、助けたいにゃ……たとえそれがシャムさんでも。」
にゃん民: うわああ、ルナちゃん優しすぎ…
にゃん民: 心広すぎだろ…
にゃん民: これは盲目の善意か、あるいは真の勇者なのか…