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10-3 鳩行為

 「待ってくださいにゃ!」


 乾いた空気を裂くように、少女――猫神ルナの声が響いた。

 背後にはユニコーンを連れ、廃都の瓦礫の道を急ぎ足で駆けつけてくる姿が見える。


 マリシャスヘイターとシャムが振り向くと、そこには憤りと決意を湛えたルナの表情があった。


「……あ、あんたは……!」


 シャムは視線をそらすようにして、にがにがしげにルナを睨む。

 過去に徹底的に潰したはずの相手が、こんな場面で乱入してくるとは思わなかったのだろう。


 マリシャスヘイターは木製の顎をコクコクと動かし、ルナを値踏みするように観察する。


「ほう、あなたが“猫神ルナ”……ですか。

 なるほど、ニニギの小間使いですかね? それとも自分で探し当てたのかな。」


 ルナは一瞥もくれず、沈みかけたシャムに視線を注いだ。


「シャムさん……大丈夫ですかにゃ?」


 その問いかけに、シャムはくしゃりと眉間を寄せる。


「誰があんたなんかに助けを……!」


 だが、その言葉は震える声で、意地を張っているに過ぎないことは明白だった。


―――――――――― 【1時間前・配信中】


 ルナはニニギから、最後の四天王が廃都ローウェンという場所に現れるという情報を聞いて、この地に赴いていた。


「ここが廃都ローウェンですにゃ……。この辺りに最後の四天王がいるらしいですにゃ。」


 にゃん民: マジか、四天王ラスト!

 にゃん民: 気をつけてね、ルナちゃん!


 その時、コメント欄に突如、見慣れない名前の視聴者たちのが書き込みが現れる。


シャ民党員: ルナちゃん、お願い!シャムを助けてあげて!

シャ民党員: 魔王軍に追われてるんだ!

シャ民党員: どうか見捨てないで……!


シャ民党員。言わずと知れた、鬱猫シャムのファンネームである。


 コメント欄が一気にざわつく。


にゃん民: はぁ?あのシャムを助けろって?

にゃん民: 自分勝手に暴れ回った奴、放っておけばいいだろ

にゃん民: 鳩行為は禁止でーす

にゃん民: ルナちゃんを追い詰めた張本人を助けろなんて、ムシが良すぎる

にゃん民: あんなやつ、手に負えないだろ。触れると燃えるぞ?


 ファンの皆の強硬な反応に、ルナは苦悩しながらも、画面を見つめて唇をかむ。


「でも……私、誰かを見捨てるなんて、したくないんですにゃ。

 ここで苦しんでる人がいるなら、助けたいにゃ……たとえそれがシャムさんでも。」


にゃん民: うわああ、ルナちゃん優しすぎ…

にゃん民: 心広すぎだろ…

にゃん民: これは盲目の善意か、あるいは真の勇者なのか…




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