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10-7 シーク

 シャムが横たわり、意識を失っているそばで、猫神ルナは険しい面持ちで彼女を抱き留めていた。


 マリシャスヘイターは、少し離れた場所でニヤニヤとしたお面の奥からこちらを窺い、あざけるように手の糸を操っている。


「……よし、これしかないですにゃ。」


 ルナは配信カメラに向き直り、静かに宣言した。

 コメント欄がざわめき立つ。


「みにゃさん……私は、新しいスキルを使いますにゃ。」


にゃん民: ルナちゃん、まさか

にゃん民: なにか手があるっての?


 そう告げると、ルナはVTubeスタジオを開き、視線を一点に集中させる。

 そこには新たなスキル――**〈シーク〉**の文字が浮かび上がっていた。


 この戦いの前、ルナの登録者数が75万を超えた時に発現した新たなるVスキル

それがシークだった。

 このスキルは配信の時間を自由に巻き戻すことができる。まさに神の如きスキルだった。


「ただ、1秒につき100万円かかってしまうんですにゃ……」


 その費用に、コメント欄が悲鳴を上げる。


にゃん民: はぁ?高すぎだろ!

にゃん民: 誰が金出すんだよ…

にゃん民: そもそもシャムなんかにそんな金使う必要あるのか?


 荒っぽい声が飛ぶが、ルナは小さく首を振って答えた。


「わたしは、シャムさんともう一度お話ししたいんですにゃ。

 彼女が命を落とす前に……ちゃんと伝えたいことがある。

 だからこれは、わたしにとって“コラボ代”みたいなものですにゃ!」


 にゃん民たちは言葉を失いかける。

 それでも「せっかくだし出すか……」「ルナちゃんがそう言うなら応援するしかないだろ」と、一部の視聴者がスペチャを投げ始める。

 金銭的負担は大きいが、ルナの思いに心を動かされたのだ。


「では……スキル〈シーク〉、発動しますにゃ!」


 ルナが操作を行うと、周囲の空気がぎゅるぎゅると歪み、配信画面がノイズを帯びはじめる。

 時間が逆行するかのような感覚に、視聴者たちも唖然と目を見張った。


「狙いは……シャムさんが糸に貫かれる直前。そこまで戻せれば……!」


 廃都の景色が揺れ、マリシャスヘイターのお面がブレるように歪む。

 ニヤついていたヘイターが「ん?」と首をかしげ、世界が巻き戻る流れに気づいた時には、すでにルナの“シーク”は完了していた。


背景がぐにゃりと歪み、マリシャスヘイターのデスストリングスがルナを襲う直前の状態へと戻っていく。



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