長い廊下を駆け抜け、猫神ルナ・鬱猫シャム・天照ニニギの三人は、魔王城の最深部とされる“謁見の間”へとたどり着いた。
扉を押し開けると、そこには玉座が鎮座している――のだが。
玉座に座っていたのは、スーツを着てメガネをかけた30代ほどの男性。
忙しなくノートパソコンを操作している様子に、ルナは思わず首をかしげた。
「え……あれが、魔王なんですかにゃ? どう見てもサラリーマンさんですにゃ……」
にゃん民: え?まじでリーマンじゃん
にゃん民: リモートワーク中かな?
男はちらりとルナたちを一瞥したが、すぐにノートパソコンへ視線を戻す。
その動きに苛立ちを覚えたニニギが声を張り上げる。
「フジワラ! 来たわよ! 一体どういうことなの? ちゃんと説明しなさい!」
“フジワラ”と呼ばれた男は、ようやくノートパソコンから顔を上げ、口の端をつり上げて微笑んだ。
「ああ、真琴さん。ようやくいらっしゃったんですね……お待ちしてましたよ」
その一言に、コメント欄がざわつく。
にゃん民: 真琴って誰?
にゃん民: まさかニニギの中の人の名前?
にゃん民: いきなり個人情報晒してくるのは強烈だな
「やばそーなやつね……」
シャムが息を潜めるように呟くが、ニニギは言い返す言葉も出ずに唇を噛んでいる。
「説明ねぇ、わかりました。
あなたたちにも……いや、配信を見ている“お客さん”にも、ご説明差し上げましょうか」
フジワラはノートパソコンをパタンと閉じ、立ち上がる。
その姿はまるでビジネスマンと変わらないが、背後に漂う黒いオーラがただならぬ邪気を放っていた。