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11-10 理由

 「ちょっといいかしら?」


 ニニギがひときわ通る声を上げると、フジワラは苛立たしげに彼女へと視線を送った。


「私はたしかに“転生”したわ。でも、好き好んでそうしたわけじゃないの」


「……何だと?」


 フジワラが訝しむように眉をひそめると、ニニギはかつての回想を語りだした。


「ネコノミコトが軌道に乗りはじめた頃、あなたは変わってしまったのよ。現場に顔を出さなくなり、ネコノミコトのことは私に任せっきり。

 挙げ句の果てにキャバクラ通いに明け暮れて、たまに現場に来たと思えば泥酔状態……」


 猫神ルナやシャム、そしてコメ欄に集う視聴者たちは、固唾をのんで聞き入っている。


「ネコノミコト48とか言って、複数の“中の人”を集める企画を打ち出しては“お前もネコノミコトの中の人にしてやる”なんて声をかけて……

 性的なちょっかいを出してたって、あの子たちからクレームの嵐が会社に殺到したのよ。」


 にゃん民: うわぁ最低

 にゃん民: そりゃ炎上するわ……


 ニニギは苦い表情のまま続ける。


「私は演者としての活動だけじゃなく、フジワラ、あなたの起こす問題の尻拭いまでしなきゃいけなくなって……家に帰れない日が続いた。」



「ようやく久々に家に戻れたと思ったら、息子に“ママは次いつ来るの?”と聞かれたのよ。

 ――そこで限界を迎えて、私は卒業を決意したの。」


 コメント欄がさらに沸き立つ。


にゃん民: ネコノミコトって子供いたのか!

にゃん民: ママみがすごいと思ったらガチだった

にゃん民: 俺もニニギ様の子供になりたい……!


 ニニギは穏やかなまなざしで続ける。


「転生して“天照ニニギ”となったのは、息子が『またママにVTuberやってほしい』って言ってくれたからよ。

 今では夫も協力してくれて、無理のない範囲で配信ができているわ。

 誰もが私利私欲のために転生するわけじゃない。一人ひとりに事情があるのよ!」


 ニニギはフジワラをまっすぐ見据え、言葉に力をこめる。


「さあ、私たちを現実世界に帰しなさい!!」


「……俺のせいだと? ふざけるな、うるさいうるさいうるさい……!」


 フジワラの肉体が不気味に黒く染まり、ぼこぼこと膨張をはじめる。  皮膚の下に赤いラインが何筋も走り、見る見るうちに人外のフォルムへ変化していく。


「俺は悪くない……すべてお前たちVTuberが悪いんだあああっ……!」


 その声は怒りと憎悪に満ち、もう人間のものとは思えなかった。


 最後の戦いが始まろうとしていた。




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