膨張を続けるフジワラ――いや、もはやフジワラだったものは、その巨大化した肉体で謁見室の壁を破壊し始めた。
石造りの壁が次々に砕け、崩落の音が響く。まるで城全体を飲み込むかのような圧倒的な力だ。
「まずいわ……このままじゃ城が崩壊する!」
ニニギが鋭い声をあげ、ルナとシャムも一瞬顔を見合わせる。
彼らは慌てて乗ってきた幻獣へと飛び乗った。
「急いで脱出しますにゃ!」
ルナがユニコーンを指揮し、シャムはバイコーンに身体をあずけ、ニニギはトライコーンを駆る。
一足先に砕け散る天井から降り注ぐ瓦礫を避けながら、三人は一気に城から離脱する。
後ろを振り向くと、廊下や壁が一瞬で崩れ去り、建物全体が音を立てて崩壊していった。
凄まじい爆音と粉塵が舞い上がり、その中心にある謁見室の跡地が、じわじわと崩落の渦へと巻き込まれていく。
「フジワラ……人を辞めるなんて……!」
ニニギが息を詰め、シャムも表情をこわばらせながら見つめている。
そこには、見る間に膨張を極めていく闇があった。
やがて、一際大きな轟音が響き渡った。
瓦礫の山を突き破るようにして現れたのは、漆黒の鱗に覆われた、見上げるほどの巨大なドラゴン。
「ドラゴン……!?」
シャムが息を呑む。マグマのような赤銅色の光が、ドラゴンの鱗の隙間からチラチラと漏れ出ている。
その姿は、まさしく邪竜と呼ぶにふさわしい異形だった。
「……これがフジワラさんの、魔王の最終形態……?」
ルナがごくりと唾をのむ。
もはや人型の要素はどこにもなく、完全に巨大な化け物と化していた。
崩壊する城の残骸を踏みしめ、漆黒のドラゴンはゆっくりと首を持ち上げ、空へ向けて咆哮を響かせる。
その咆哮は地を震わせ、大気を揺らすほどの威圧感を伴っていた。
「……最後の戦い、正念場ね!」
ニニギが呟き、拳を握りしめる。
空には濃い灰色の雲が垂れ込め、周囲には剣呑な風が吹き荒れる。
フジワラはもはや理性を失い、ひたすら破壊衝動に従うだけの怪物へと成り果てた――
魔王城の完全なる崩壊とともに、最終決戦の幕が、今まさに上がろうとしていた。