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「ゲームマスター/プレイヤー/職業」

 「はあぁーーーーーっ!?いきなり眩しいのきたと思ったら、何かわけわかんないところにいるんだけど!?」


 オシャレなヘアアクセサリーを付けた金髪ロングの女子高生(唯我ともう一人の女子とは違う制服)が慌てた表情で辺りをきょろきょろ見回しながら声を上げる。



 「うわあ!?なんじゃこりゃあ!?」


 ヘアワックスで固めた茶髪の青年も同じ感じで狼狽えている。



 「ですからその件につきましては先ほど………む?」


 スーツ姿の男性が、スマホで誰かと通話していたようだが、周りの違和感に気付くと通話を中断し、同じように辺りを見回す。



 「うわーお………これは何という、幻想的な………」


 肩口の長さに切り揃えた色素が薄いグレーの髪の眼鏡をかけた女性が、顔を引くつかせ苦笑いしている。



 「えええええっ!?なんすかこれぇ!?」


 そして唯我や金髪の女子と同じリアクションをとって驚く、黒髪ツインテールの女性。


 全員制服やスーツ、ジャケットなど現代の服を着た人間であり、彼らも自分と同じ境遇に遭遇中っぽいなと、唯我はいくらか落ち着きを戻した頭でそう判断する。


 (ここにいる全員、見知らぬ人だ……いや、一人だけ俺と同じ学校の生徒がいるから全員ってわけじゃないのか。でもあの子………誰だっけ?リボンの模様からして同じ一年?)


 自身の制服のネクタイ(縞模様の紺色)と同じ色と模様の色で彼女が同学年であることが判明したところで、その彼女と再び目が合う。


 「あ………」

 「………!」


 廊下では咄嗟に目を逸らしてしまった唯我だったが、この異様な状況のお陰か、今度は目を逸らすことなく、どうもと会釈してみる。するとその少女がとてとてと唯我のところに歩み寄ってきた。近くで見ると彼女の黒髪には猫のヘアピンが付けられていた。


 「あ、あの……六ツ川君ですよね。同じⅭ組の」

 「へ……?あはい、そうっすけど。えーと、君は………………」


 少女は自分の名前ことを知ってるに対し、唯我は彼女の名前が言えずにいる。それ以前に彼女の顔すらも記憶に希薄で出てこない。入学以来クラスメイトの顔を全然把握してない弊害がここにきて顕著に表れてしまった。

 いつまで経っても名前が言えずにいる唯我に、少女は若干ショックを受けながらも名前を名乗った。


 「國崎一葉くにさきかずはです(この人、私のこと本当に知らないっぽい。同じ学年、同じクラスなのに……。まあ、私クラスでも影薄い方だから、知られてなくて仕方ないか……でも何かショックだなあ)」

 「あ、そうそう國崎さん!すみません、いきなりこんなところに飛ばされたから、混乱しちゃってど忘れしちゃってたみたいで……」


 それっぽい言い訳を並べる唯我に少女…一葉は苦笑いで応じるのだった。


 「え、何?あんたら同じ学校同士なわけ?」


 金髪の女子高生が二人の会話に割って入ってきた。花柄のヘアピンとリボンを付けた、ギャルっぽい女子高生だ。スカート丈も一葉と比べて短め。


 「あ。あたし金澤璃音かねざわりおんっていいまーす。都内の女子高に通ってるんだけど。あ、いきなりタメ口で話しかけちゃったけど、二人ともあたしと同い年でよかった……ですか?」

 「え、あ……はい。俺も同じ高1なんで、タメ口で構いませんよ。あ、俺六ツ川唯我っていいます」

 「わ、私も同い年!國崎一葉です…!」

 「そかそか、あたしら全員タメだね!学校は違うけど年が同じ人がいるって分かるだけでも何だか安心するよね?」

 「う、うん。私もちょっと安心したかも」

 「あ……はい。そうっすね(いきなり距離詰めてくるタイプじゃん、正直苦手なタイプだわー。可愛いけど)」


 唯我ら三人だけでなく、残りの四人も各々会話をしていた。「新手のドッキリだったり!?」「今頃相手は勝手に電話切ったと思って………」「そうか、君もあの強い光に………」「そうなんですよ!何だったんですかねあれ………」などと自由に喋ったりここに飛ばされた直前のことを教え合ったりしていた。


 (この中でいちばんまともな話が出来そうなのは、グレー髪で眼鏡かけてるあの人かな)


 黒髪ツインテールの女性と話しているその女性にこの異常についてどう思っているか聞きに歩み寄ろうとしたその時、唯我たちの近くでボン!と爆音が鳴り、煙が立ち上がった。


 「……!?」「こ、今度は何っ!?」


 硬直する一葉と彼女を庇うように前に出て警戒を強める璃音。唯我たちも警戒の眼差しで煙の方を見つめる。やがて煙が晴れ、そこには何者かの姿が目視された。


 「どうも皆さん。初めまして。」


 仮面で素顔を隠しているが、背丈からして男性であると推定される。謎に満ちた男が突然現れたことに誰もが警戒する中、仮面の男の挨拶は続く。


 「私のことは『ゲームマスター』と以後そう呼んで下さい」

 (ゲームマスター……?)


 仮面の男…ゲームマスターは挨拶と自己紹介を済ますと間髪入れずに、こんなことを告げた―――


「これより『プレイヤー』であるあなた方には、こちらの指定する“ミッション”を達成していただきます」


 いきなりそんなことを言われても、唯我たちはただ困惑するばかりだった。


 「お、おい!こっちはいきなりこんなところに飛ばされて、何が何だか分かんねーんだよ!どういうことか説明しろよな!」


 茶髪の青年が苛立たしげにゲームマスターに詰め寄って、説明を要求する。唯我たちも同じ意見であり、説明の要求を視線で訴える。


 「では、ルールの説明を始めます」


 青年の言葉が届いたのか、ゲームマスターは色々説明を始めた。


 「ここはあなた方が住んでいる世界とは異なる世界でございます。

 あなた方は以後この世界にいる間は「プレイヤー」として、私が提示する期限付きのミッションを達成してもらいます」

 「だ か らぁ!何で俺たちがそんなことを―――」

 「待って。まずは彼の話を全部聞こうじゃないか」


 再び声を荒げようとした青年を、唯我がさっき話しかけようとしたグレーの髪の女性が宥めた。それからもゲームマスターの説明は続く。


 「この世界には、あなた方の敵となるものが多数存在します。魔物、魔人、盗賊団など…。

 そこであなた方にはこれから、この世界にいる敵と戦える為の力を授かってもらいます」


 そう告げてゲームマスターが指を鳴らした瞬間、彼の真横にパワーポイントを思わせるホログラムの画面が表れた。

 今さらそんなものにツッコむ気にならない唯我がそれを凝視していると、プレイヤーと呼ばれた自分たちの中から名前…一葉の名前が表示された。


 『國崎一葉 職業:狩人』


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