目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

「ゲームマスター/プレイヤー/職業」2

 「え、私の名前?それに、狩人って……え、服装が変わってる!?」

 「それが國崎様の職業、すなわち“力”でございます。ちなみにこの世界にいる間、プレイヤーの服装は職業に合わせたものとなります」


 学校の制服からアニメなどで見る森の狩人を思わせる衣装へと変わったことに戸惑う一葉にゲームマスターは相変わらず一方的にそう説明する。


 「うっはー!?これまでの話からして、私たちが巻き込まれたのってアニメやラノベ、マンガでよくある異世界召喚もので間違いないっすよこれー!

 すっごーー!こんなことがとうとうリアルでも実現するなんて!しかも、私がそれに選ばれるなんて!子どもの頃の自分が、こんなところで叶うなんてーーー!」


 黒髪ツインテールの女性が興奮気味に騒いだ。すぐさまハッと我に返り、真っ赤な顔で「失礼しました……」と引き下がった。


 「ははは、何だあの子、おもしれー」


 茶髪の青年が笑う中、璃音が「あっ」と声を上げた。


 『金澤璃音 職業:剣闘士』


 「あたしの名前出てきた!剣闘士……って何?剣士とかじゃなくて?」


 訝しげに画面の文字を凝視する璃音(装いは銀色の甲冑)だが、それに答えることなく画面は次のプレイヤーの名前に切り替わった。


 『宇啓雅哉 職業:魔法使い』


 「お、今度は俺じゃん。魔法使いか~、俺も剣闘士とかが良かったんだけどなー」

 「え~良いじゃないっすか魔法使い!私もそれになりたいっす!」


 文句を垂れる茶髪の青年…雅哉(茶色のローブに衣装チェンジ)に、黒髪ツインテールの女性が羨ましげに話し合欠ける。その流れで二人が談笑する中、唯我はこの世界の仕組みや自分たちが置かれている状況について把握しつつあった。


 (…いかにもオタク系女子の人が言ったように、この世界は俺が普段遊んでいるゲームと変わらないファンタジー世界だ。例えるなら、仮想空間バーチャルゲームに入り込んだようなもの………。

 てことはここってゲームの中ってことか!しかも流れからして使えそうな戦闘職も序盤からもらえるっぽい。

 俺もあの三人みたいな…いやそのさらに上級職を引けば、俺の時代くるんじゃないか―――!?)


 黒髪ツインテールの女性とは違ったハイテンションに浸る唯我


 「あ、六ツ川の名前が出てきた」


 璃音の言葉に弾かれたように、唯我は画面に目を向ける。上級職強いの来い!と願望しながら画面に目を向けたところ―――


 『六ツ川唯我 職業:汎用職人』


 「は、汎用…職人……?」


 これまでの三人とはまた違った、そもそも戦闘職かどうかも怪しい職業が出てきて、戸惑いと落胆が混ざった表情になる唯我だった。ちなみに衣装はどこにでもありそうな村人風の衣装となった。


 (え?職人って何?何の職人なわけ?剣は?魔法は?何で俺だけそういう分かりやすい戦闘系のやつが出てこねーんだよ)


 唯我が頭を悶々とさせてる間、残りの三人の職業も発表され、ゲームマスターの説明が再開される。


 「たった今授かっていただいた職業の説明については、後で各自でご覧ください」

 「え?ご覧くださいって言われても、そんなのどうやって………」


 疑問の声を上げる璃音だったが、ゲームマスターは答えることなく一方的に説明を続ける。


 「ミッションを達成すればあなた方がいた場所…つまり元の世界へ帰します。その間この世界で死亡したプレイヤーは、全てのミッションが達成された後に生き返ります」

 「し、死亡って………」

 (途中で誰かが敵に殺られたとしても、ミッションさえ達成すればその人の死は無かったことになる……というわけか)


 動揺する一葉にとは反対に、唯我は冷静にゲームマスターの言葉を解釈していた。


 「反対にミッションを達成出来なかった場合、あなた方の心臓と脳は停止します」

 「はあ!?失敗しても死ぬのかよ!?」


 雅哉が声を張り上げて理不尽を訴える。他のプレイヤーたちも死がかかってくると知って顔色を悪くさたり表情を曇らせたりしている。唯我だけは「やっぱりそうくるかー」と納得した様子だった。


 「では最後に初となる第一回のミッションの内容を発表いたします」


 プレイヤーたちの心情など知らんとばかりに、ゲームマスターは淡々と説明を進め、先ほどのホログラム画面にミッションの詳細を映し出した。


『各プレイヤー一人ずつ、不特定の低級の魔物を五体討伐する』

『マシロタウンを訪れる』

『同町の町長から魔物討伐の依頼を受け、これを達成する』

*ミッションの期限は240時間以内。


 「それでは、また―――」

 「え?ちょ―――」


 唯我が何か質問しようとした矢先、ゲームマスターは短い挨拶を残して、粒子となって消えてしまった。


 (くそ、あの仮面野郎、ほとんど一方的な説明だけして消えやがった…!聞きたいことまだあったってのに)


 不満に思っているのは唯我だけではなく、璃音、雅哉なども不満の声を上げていた。


 「ねえ、職業の説明ってどうやったら見れるか分かる?あたしこういうの全然ダメなのよね」


 偶然目が合った璃音にそう聞かれ、唯我は思ったことをそのまま話した。


 「さっきのホログラム画面を出すイメージをしてみたらどうっすか?ゲームと一緒で、メニュー画面を開く感じで」


 そう言いながら唯我は自分で検証してみた。すると自分で言った通り、さっきのよりも小さなステータス画面が、目の前に表れた。続いて璃音も「あ、ほんとだ何か出てきた」と呟いた。

 画面には自身の職業とそのランク。LPライフポイント、筋力、耐久力など身体における能力値。さらには職業スキル、現在所持しているアイテムや武器などが閲覧出来るようになっている。


 (………で。俺のステータス……というか、職業に関してだけど―――)


 『汎用職人』ランク1 *あらゆる雑職に精通した職業。非戦闘職。


 「ひ、ひ………ひ―――っ」


 職業の欄を目にした唯我は、さっきよりも深くうな垂れた。


 (非戦闘職!?ハズレ……!?ウソだろ?)


 地面に手をつきガックリする唯我に璃音が訝しげな視線を向け、一葉が心配そうに眺めていると、グレー髪の眼鏡の女性が皆に呼びかける。


 「一旦、お互いに自己紹介とこれまでの話の整理、各自の職業・ステータスなどの情報共有をしようと思うのだけど、良いかな?」


 彼女の提案に全員賛成し、唯我たちは名前や現実世界ではどうしていたかの紹介、自身のステータスの詳細などを簡単に話し合った。


 結果、唯我は残酷な現実を突き付けられることとなった。


 (お……俺以外全員、戦闘職じゃねーか…!てことは、マジ?俺がこの中でいちばん弱い職業ってこと?マジ、か………)


 話し合い司会役の女性をはじめ残りの三人も何かしらの戦闘職であることを知り、唯我は自分がこの中で唯一戦闘職ですらない最弱職であると把握し、改めて心底落胆するのだった。そんな彼にプレイヤーたちは憐みの視線を向ける者、運悪いなと笑う者、心配そうに見つめる者など反応は様々だった。


 「ミッションの期限が240時間以内…つまり今から十日以内で私たちは三つのノルマをクリアしなければならない。

 全員この世界に来たばかりで何が何だか分からないことだらけだと思う。無論、私も例に漏れずだ。だからまずは一番難易度が低そうなマシロタウンを訪れるところから始めようと思う。どうだろう?」

 「シェリアイさんにさんせー!」

 「私もシェリアイさんの提案に賛成でーっす!」


 雅哉と黒髪ツインテールの女性が挙手して賛成を述べる。スーツの男性も「異議なし」と頷き、璃音も「あたしもそれで良いですよー」と答え、一葉も同じ意思を示した。


 「唯我はどうかな?」

 「………俺も賛成です。それが良いと思います」


 シェリアイと呼ばれた女性の問いかけに、唯我は力無い言葉で賛成を表した。全員の賛成を得たことでプレイヤーたちは話を終え、最初の目的地であるマシロタウンに向けて出発した。



 こうして、唯我たちプレイヤーの異世界での冒険が始まった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?