ミッションのうち一つ「マシロタウンを訪れる」を第一にクリアすることにしたプレイヤー一行。ただそのマシロタウンがどこにあるのかについて、この世界に飛ばされたばかりの唯我たちには知る由も無いのだが、その問題はすぐに解決した。
先ほど自身のステータスを確認するのと同じように、現在地と目的地が分かるマップ表示を意識した瞬間、この世界のマップが画面に表示された。ただし、目的地であるマシロタウンの座標は赤い点で表されているものの、その周辺は白い靄で埋め尽くされていて地形が一切分からずだった。
これもゲームではよくある仕様で、そのエリアがプレイヤーの未踏の地であった場合、そのエリアの地形は不明瞭で見えづらくなっている。
唯我たちは
迂回を挟んだのは、その先が危険な崖路だったり、同じく危険な水路だったりが理由である。また、今の全員が束になってかかっても敵わなそうな魔物との遭遇を避けるべく、深い森もなるべく回避もしていた。
ちなみにこの進み方で行こうと決めたのはシェリアイであり、彼女にその提案をしたのは唯我だったりする。
(唯我の言った通り、ここまでは誰一人欠けることも大した怪我も負うことなく順調に目的の町に近づけているよ。唯我の提案のお陰だね)
(ああ、はい。そりゃどうも………)
(あまり元気が無いようだけど、本当にもう平気なのかい?)
(はい、もう大丈夫っす。さっきまで十分休ませてもらったんで)
(そうか。ならいいが)
小声で唯我の調子を確認したシェリアイは、続いて一葉にも声をかける。
「一葉も、体の具合はもう平気かい?」
「はい、シェリー(=シェリアイの呼び名)さん、もう大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」
一葉は笑顔で答えたが、唯我にはそれが無理に作ったものであるかのように見えた。
(よくあんな作り笑い出来るよな。俺なんかそんなことする余裕ねーよ……)
笑顔で取り繕う一葉を眺めつつ、唯我はスタート地点からここまでのことを思い返してみる―――
*
プレイヤー一行が出発してから数分後、魔物と遭遇した。人間の子どもサイズの二足歩行で頭頂部のコブが特徴の低級魔物…ゴブリン。その群れに唯我たちは行く手を塞がれた。
ミッションの一つ「各プレイヤー一人ずつ、不特定の低級の魔物を五体討伐する」がある以上、魔物との戦闘は避けては通れない。
雅哉やスーツの男性、さらには黒髪ツインテールの女性が戦闘を提案したことで、唯我たちはゴブリンの群れ(十体)と戦うこととなった。
彼らにとって初となる魔物との戦闘。結論から言うと大勝利を収め自信をつけた者四名、思い通りにいかず苦い失敗で終わった者三名に分かれた。
前者側の一人…金澤璃音。剣闘士である彼女の武器は鉄製のオーソドックスな剣で、彼女の筋力でも容易に扱うことが出来た。
正確には、剣闘士を授かった時点で彼女の筋力は現実世界にいた頃と比べて格段に増している。授かる職業によって、身体能力の初期値は異なる。
剣闘士など近接戦闘系の職業の身体ステータス…特に筋力は最初から高い数値に割り振られている。そのお陰で彼女はやぶれかぶれの剣技でゴブリンをばったばった斬り倒すことに成功した。
(うっわあ……魔物とはいえ初めて生き物殺しちゃった。しかも本物の剣で。けっこうエグいかも)
璃音は二体目のゴブリンを討伐したところで引き下がった。初めてにしてはよくやれた方ではないかと彼女はそう自己評価した。ちなみに彼女の剣は、プレイヤーの初期装備の一つである空間収納ポーチから取り出したものである。ゲームと同じ、自身の意志で自由に出し入れすることが可能。
「うおおおおおっ、スゲスゲェ!?マジで火とか電撃とか出てきてんじゃん!」
二人目、宇啓雅哉。魔法使いの彼の手には魔術を放つ為の魔法ステッキがあり、それを媒体に火や電撃など様々な魔術を放つ。
『
魔術を放つ際は、このように詠唱を口に出す必要がある。
「あーでもやっぱ、璃音ちゃんみたいに剣でぶった斬ってみたかったなー」
そう文句を垂れつつも、彼は一体のゴブリンを難無く討伐してみせた。
「フンッッ」
気合いのこもった掛け声とともに、強烈な打撃がゴブリンの腹部を穿った。ゴブリンは勢いよく吹っ飛んで木に激突して、そのまま動かなくなった。
「これが武闘家の力か」
三人目…ゴブリンを拳で殴り飛ばした男…
大学まで空手部に所属していた征司にとって、武闘家ほど適性な職業は無いと言っていい。
「……悪くないな」
征司は短く笑うと、背後から迫っていたゴブリンに大柄な体格でありながらも鋭い廻し蹴りを叩き込み、二体目を討伐してみせた。
「はっっ!」
指一本動かせずにいるゴブリンの頭部に、四人目…シェリアイ(本名
彼女の職業は僧侶…回復呪文、味方の強化、敵の弱体化(状態異常)付与をメインとする、サポート寄りの戦闘職である。衣装も十字架模様が刺繍された服と白いローブとなっている。
今回シェリアイが行使した呪文は状態異常系で、『
(雅哉のように攻撃系の魔術はまだ使えないから……この杖で直接攻撃するしかないか)
呪文によるギミック技とそれを放つ為の錫杖による近接攻撃を上手く使い分けて、シェリアイも上手く魔物を討伐していた。
一方、後者側の一人目…黒髪ツインテールの女性、
「たぁっ!てやあっ」
職業は軽装戦士(璃音と似た軽量の甲冑服)。初期武器であるショートソードを振り回すも、ゴブリンに躱されてばかりいる。反対にゴブリンからの攻撃をライトシールドで防ごうものなら、的外れな場所に盾をかざすものだから、攻撃をくらう羽目に。
「いたぁ……っ う、うぅう~~~あーもうっ!こっちの攻撃は全然当たらないし、ガードも全然出来てないし!私が求めてたのと全然ちがあああう!!」
ゴブリン一体相手に苦戦するひかりは、涙目で不満を上げていた。
(求めてたのと全然違う……俺もそれには激しく同意)
二人目、六ツ川唯我も、口には出してないものの、誰よりも不満を抱いている自信はあった。
「おらあっ」
背後からゴブリン目がけて、汎用職人の初期武器(?)である草刈り鎌(刃渡り10㎝程度)を突き立てたが、刃が頭部に刺さることはなく、逆に鎌の木柄部分がボキリと折れてしまった。
「く……ならこれはどうだ!?」
めげずに二つ目の農具…鍬で殴りつけたが、結果は同じ。ゴブリンの反撃をくらい、地面に転がされてしまう。
「ってえ、この!雑魚のくせに…っ」
悪態をつきながら鍛冶で使う木槌を手に殴りにかかる。が、ゴブリンの棍棒で弾かれ、逆に殴りつけられる。
(ウソだろ!?非戦闘職だとこんな雑魚にすら苦戦するのか……?)
未だ
(筋力・耐久力ともに初期値が他のプレイヤーと比べて低い…。それもこれも全部、この
周りとの格差を思い知らされた唯我は、悔しさに歯を食いしばるしかなかった。
そして三人目、國崎一葉はというと、
「……………っ」
初期武器である弓矢を弦に手をかけたまま、半泣きで硬直していた。