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「終わりの始まり…?」

 「おお……あなた方は、勇者様!みんなー、勇者様ご一行が来られたぞー!」 

 「へぇー、俺らって勇者らしいぜ?カッコイイじゃん」

 「この世界での私たちプレイヤーの呼び名なのだろう。何故勇者なのかは現段階では分からないけど」


 町に着いて早々、人々から勇者勇者と呼ばれ、もてはやされた唯我たち。これも唯我が知るゲームと似た仕様で、この世界の人類から見たプレイヤーたちは「勇者」と認識されている。よって唯我たちは町中で手厚い歓迎を受けることとなった。

 ミッションの最後の一つ「マシロタウンの町長から魔物討伐の依頼を受けなおかつクリアする」を成し遂げるべく、一行は町民たちに町長のもとへ案内してもらった。


 「どうも、勇者ご一行様。私が町長のシロキといいます。実はあなた方にとある魔物の討伐をやっていただきたいのです………」


 町長の話によると、近頃町の近隣の森で暴れている魔物がいるという。その魔物はマグナグリズリーといって、これまで唯我たちがまだ戦ったことのない中級の熊の化け物だとか。


 「へぇー、コイツが依頼対象の魔物か。見た感じ角が生えてるだけのただのクマじゃん」

 「サイズも日本のよりかはちょっと大きい程度っぽいね。これなら全員でかかれば楽勝かも」


 「うわあ……私今回役に立たなそう。こんなショートソードでクマなんて斬れるんすかね?」

 「うぅ……実際はもっと大きいんじゃないかな。私の弓矢なんて全然通らなそう………」


 町長が差し出したマグナグリズリーの絵写真を見て、雅哉と璃音は楽観的に、ひかりと一葉は悲観的にそれぞれ言葉をこぼした。


 「大丈夫だよ一葉ちゃん!ひかりさんも。あたしらバリバリ戦闘派でサクッと倒しちゃうんで。それに危なくなったらあたしが守ってあげるから!」

 「璃音さん……ありがとう」

 「おおおっ、頼りになるっす璃音ちゃん……いや、璃音先輩!」


 三人(主に璃音とひかり)できゃっきゃと話したのち、璃音は唯我にも言葉を投げかける。


 「六ツ川も、ヤバくなったら助けてあげるから」

 「あ……はい。そん時は頼みます」

 「うん。ていうか六ツ川って何で私に対しても敬語なの?あたしら同い年だよね?」

 「え、それは……気が付けばそういう話し方になってたと言いますか」 

 「あはは、何それ」

 「ほんと何だそりゃ。六ツ川って女子と話す時キョドるタイプじゃね?絶対そうでしょ」

 「ははは、まあ……合ってますけど(うるせえよクソ陽キャ大学生)」




 町長からマグナグリズリーが現れると予想される地点ポイントを聞いた後、唯我たちは町の民宿でひと休みを挟み、森へ出発した。


 「今回のミッションの最後となる標的、マグナグリズリーとやらの討伐だけど、中級の敵はこれが初めてとなる。敵の戦力が未知数である以上、璃音が町で言った通り、全員で仕留めようと思う」


 森への移動中、シェリアイはマグナグリズリーとの戦闘作戦を持ちかける。

 作戦内容は単純で、戦闘力が高いかつ近接戦が得意な璃音と征司が前衛、同じく戦闘力が高く遠距離攻撃が得意な雅哉と戦闘力は低いが機動力に長けるひかりが中衛、そして仲間への指示・サポートが出来るシェリアイと戦闘慣れしていない一葉は後衛と決まった。

 なお唯我に関してはそのどれにも該当せず、プレイヤーのLP回復、他の魔物が出た時すぐに対応出来るよう周囲の見張りなど、シェリアイとは違った支援役を任された。この役割は唯我本人が提案し立候補した。


 「正直この作戦、場合によっては唯我にもっとも負担がかかるかもしれない。危なくなった時は無理せず後衛の私か一葉のところに来てくれ」

 「分かりました。まあ、このメンバーなら他の魔物が襲ってくる前にちゃっちゃと討伐出来そうだから、俺の働きなんて全部無駄に終わるんじゃないですかね」

 「…そうなるのが我々にとって一番安全な結末だろうね。それはそうとあまり卑屈な言動は控えた方がいいよ。そもそも君がその作戦を立てたのだろうに」

 「それはそうでしたね。ところで俺不貞腐れたそんな感じ出てました?」


 唯我が尋ねるとシェリアイは「ちょっとだけね」と苦笑いで答えた。他のプレイヤーたちも同様の反応だった。


 (あー………そんなつもりは無かったんだけど、無意識に顔にも言葉にも出てたか)


 初日で授かった職業が他と比べて弱く、戦闘面でも一人だと雑魚にすら苦戦する始末。あまりの格差を見せつけられたことで、唯我はちょっとした被害妄想…「プレイヤー全員から下に見られている」「こいつはお荷物でしかない奴だ」と思っているに違いないどといった思い込みを抱きがちになってしまっていた。


 事実、二日目以降の冒険で雅哉から「仕方ないから守ってやるよ」「あんま俺の足を引っ張るなよ」「はーっ、死なないよう加減するの難しいんだよな。せめて館野ちゃんくらいには強くなれねーの?」など、マウント発言を何度も浴びせられている。

 それが唯我の卑屈心に拍車をかけ、劣等感にまみれた蟠りを抑えきれずつい不貞腐れ拗ねた言動をとってしまった。半分は宇啓クソ陽キャのせいだと思いつつ、空気を悪くさせる言動はなるべく避けようと心がける唯我だった。


 (つっても、もうほとんどのプレイヤーからハブられそうな感じっぽいんだけど)


 璃音やシェリアイといったコミュ力に特化した人がいるお陰で自分はまだハブられてないに過ぎない。あとは全員命がかかっているという使命のお陰でもある。


 (ま、この中で力が一番弱いのは俺で違いないんだけど、戦力なら俺が最弱ってわけでもなさそうなんだよね………)


 唯我は一葉を一瞥してそう独白する。自分と違い戦闘職を授かった身でありながら自分と同じくらい足を引っ張っている。初日の戦闘、敵を前にして弓の弦を引いたまま硬直し、矢を放てずにいた彼女は、戦闘に対する免疫が極度と言っていいくらいに低い。自分を脅かす魔物にすら弓を引けないプレイヤーなど無価値と言っていい。何なら自分よりも足手まといなのではとすら思っている。

 自分は魔物…敵を殺す気満々でいるが、一葉はそうでない。この世界に未だ馴染めておらず敵を含む生き物を殺すことに忌避を抱いている彼女を、唯我は勝手に格下と見定めていた。


 (ま、やる気があるだけまだマシか。あーでも、“やる気のある無能”って一番必要とされないって、前に国内の動画サイト創設者の切り抜き動画で聞いたような気がするなあ。やっぱ要らないかも。俺もここでは人のこと言えない立場だけど)




 しばらくして一行は森の地に足を踏み入れ、町長の情報(マグナグリズリーの居場所)を頼りに中を進んでいった。

 森に入ったばかりはゴブリン、コボルト(中型犬サイズの赤い眼をした狼の魔物。強さは低級)などとの戦闘に遭ったが、町長が教えてくれた道を辿ってるうちにその機会は無くなっていった。


 「こういうところって魔物がじゃんじゃん出てくんのかと思ってたけど、あんま出てこないよな?」

 「確かに、妙だね。目的地に近づくにつれて他の魔物がいなくなってる気がする。近頃マグナグリズリーとやらが暴れているということと関係しているのかもしれないね」

 「その通りかもしれないな。その証拠に……何か異様な気配が感じる――」


 普段無口の征司がそう言った直後、進行方向から獰猛な咆哮が上がった。


 「いよいよお出ましか。気合い入ってきたー!」 

 「あれは間違いなく町長さんの依頼のやつでしょ!野垣さん、作戦通りあたしらが前に出ましょ!」


 そう言って璃音は征司とともに咆哮が上がった所へ先に向かった。唯我たちもすぐに後を追って、そしてとうとうご対面した。


 「………思ったより、デカくね?」


 現実世界に存在する最大のクマをさらに上回るサイズの、角が生えた大熊モンスター、マグナグリズリーを見て、唯我たちは戦慄の汗を垂らした。


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