(くっそー、使えねーのしか残ってないじゃん。なんで残ったのが金澤さんとか風香さんとかじゃないんだよ。最悪だ………)
最弱職である自分のことを棚に上げ、心の中で愚痴をこぼす唯我。
「り、璃音さん………シェリーさんも、みんな……みんな魔物に殺されちゃった………うぅ」
(いや確かに殺されたけど、まだ完全に死んだわけじゃないって。ミッションを達成すれば死んだプレイヤーたちは生き返るって、最初の説明にあったじゃん。達成出来ればの話だけど………)
森に残った仲間たちが死んだことで悲しみに沈む一葉に、唯我は心の中で冷淡にツッコむ。
「ミッションを達成すれば生き返るんだから別にそんなに悲しむことないのに……って言ってんじゃないすか?心の中で」
唯我の一葉に向けた視線から察したのかひかりが非難の目で彼に突っかかる。
「六ツ川……くんは、平気なんすか?仲間たちが死んだことについて。自分たちの命と引き換えに私たちを逃がしてくれたシェリーさんたちに思うことは何か無いんすか?」
「いや、何も思ってないわけじゃないですけど。というか何か俺に対する当たり強くないですか?」
「そりゃあ、私たちを置いて君だけ先に逃げて行ったから……ってこともあるんすけど………」
「けど?」
「璃音さんと野垣さんに回復アイテムを渡した後、二人ともあっさり置いて行きましたよね?あの時、二人を連れて逃げようって考えは無かったんすか?」
「あるか無いかと聞かれれば、無かったですね。あれはああするしかなかったと思ってますし、二人も納得してくれてましたしね」
そう答えながら唯我は心の中で何なんだこの不毛な問答は……とうんざりしていた。
「こんな時に言うのもアレなんすけど、六ツ川くんって冷たいっていうか、仲間のこと大事にしようと思ってないっすよね?シェリーさんが森に残ると言った時も、一葉さんが止めようとしてた中、六ツ川くんはシェリーさんの言われるがままにすぐに撤退したっすよね」
「あれは風香さんが正しいと思ったから、そう即決したまでです。それに、館野さんも國崎さんを説得してまでして逃げることを選んたじゃないですか。それってあなたもシェリーさんの指示が正しいと思ったから、そうしたんじゃないですか?」
「そ、それは………」
言葉が詰まったひかりに唯我はため息をこぼしつつ、話の切り替えに出た。
「それより、これからについてどうするかについて考えて、話し合いません?俺が言うのもなんですが、残りのプレイヤーは戦闘力が低い人んで、真正面からアイツと戦うのは避けるべきだと思います」
「それよりって……まあ確かにそうっすね。ミッションの達成がかかってるし。
確かに、私たちってそれぞれ戦闘力たったの5みたいなものだから、璃音さんたちみたいな戦いは無理っすよね。ていうか彼女たちですら正面から戦って敵わなかったわけだったし」
死んだ仲間たちのことでまだ言いたげなひかりだったが、グッとこらえて唯我と作戦会議をすることにした。二人が話している間も、一葉は地面に座り込んで俯き、沈んだままでいた。
「――というわけで、ミッションの期限が残り一日を切ったところで、この三人でまた集まってアイツの討伐作戦をもう一度立て、アイツの討伐に向かう……ってことで。二人とも異存は?」
「無いっす」
即答するひかりとは反対に、一葉は俯いたまま何も答えない。
「國崎さんは?今話した方針に何か不満とかはある?」
語気を強めて尋ねる唯我に一葉はようやく顔を上げて、「ありません」と答えた。彼女の目は泣き腫れており、仲間たちの死に未だ立ち直れていない様子だった。
「(いつまで引きずってんだよ……)じゃあ全員、約束の時まで死なないようにして下さい。特にアイツがいる所には近づかず。森に行くのは良いけど他の魔物に殺されないようにも気を付けて。
俺は早速、鍛錬や雑魚狩りでもしてランク上げしてきます」
そう言って唯我は二人を置いて再び森へ…マグナグリズリーがいる地点を避けた場所へ向かって行った。
「はーあ、もう行っちゃった。言ってることは正しいんだけど、なーんかアレなんだよなー………って一葉さん、大丈夫っすか?とりあえず私たちは町に戻って休みましょ!」
ひかりの差し伸べた手を一葉は「ありがとうございます」と取って、二人一緒にマシロタウンに戻ることにした。
(六ツ川君……もう“次”を見据えて自分を鍛えに行ったんだ…。璃音さんやシェリーさん、仲間たちが死んだこと何とも思ってないのかな)
一葉の頭の中は未だに、仮初めとはいえ人のリアルな「死」に直面したことに対するショックに囚われていた。
マグナグリズリーがいる地点からだいぶ離れた森の中、唯我は単独で行動している雑魚魔物を求めてさまよっていた。
(――俺だって、風香さんが森に残ることには反対だった。あの人のサポート能力はめちゃめちゃ使えるし、あの人自体も有能なわけだったし)
ひかりとの言い合いを思い出し、心の中で本音をこぼす。
(だけどあの人は残ることを決意した。あの意志を覆すことは俺には出来なかった。だから説得する間を惜しんでさっさと逃げることに徹した。完全正解ではなかったものの、あの行動は間違いじゃなかったはずだ。
それを分かってなお、
思わず舌打ちしてしまう。鍛錬で少し上がった身体能力を活かして、木に登って高い位置から魔物を探して回る。
(ま、別にわけ分かんないままでいいけど。わざわざ仲良くする必要だって無いし)
唯我は好きで孤立しているわけでも、なりたいわけでもない。ただ他者との円滑なコミュニケーションが人より上手くとれない、コミュ障を拗らせてしまっているに過ぎない。
いつからか、あるいは初めからだったか、自身の対人関係能力が欠落していることは自覚していた。そしてそれをどうにかしようとする努力はしなかったし、そもそも考えたこともなかった。
「お、コボルト発見。辺りには………よし、いないな、一匹だけだ」
単体でうろついているコボルトを見つけた唯我はニヤリと笑い、静かに木から降りて、標的に忍び寄る。
(俺は、単独行動が好きだ)
コボルトとの距離を十分に詰めたところで唯我は一気に駆けて、相手の首に鎌の刃を突き立てた。鍛錬で筋力が上がった成果か、今度は折れることなく首を掻き切ることに成功した。コボルトは悲鳴を上げる間もなく絶命した。
(学校は苦手だ。というか、嫌いと言って良い。同じ年頃の他人……特に陽キャどもが嫌いだ)
この世界に飛ばされる前、教室に陣取っていた男子同級生たちを思い出し、苛立ちから歯を強く噛み鳴らす。
(群れなきゃ何も出来ない雑魚どもと…俺みたいな一人の奴を囲って見せ物みたいにからかうような奴らと仲良くなんて、出来るはずが無い。そう思って友達づくりを…無理に群れることを避けてきた。
仲間はずれにされないために気を遣い続けるくらいなら、一人のままでいた方が気楽だし、居心地も良い)
学校にいる間、唯我は虚だった。屋内で遊ぶゲーム以外で自身の存在を燃やせる何かが、あそこには見つからなかった。
しかし、唯我は今になってようやく、他に熱中出来ることが見つけられた気がした。
(ここは……この世界は、命の危険はあるけどリアルよりも刺激があって、退屈しない。ゲームみたいな
コボルトを討伐したことで自身の身体能力値が上昇したことを確認し、唯我は歪んだ笑みを浮かべる。
(こっちの世界でもやることは変わらない。最終的に一人ででもミッションを達成して、この
そして唯我は次の獲物を求めて、森の中をさまようのだった。
ミッションの期限まで 残り110時間