一葉・ひかりと分かれて一人ランク上げに努めることにした日の夜。
唯我は「セーフポイント」と呼ばれる、魔物が寄り付かない地点で野宿していた。魔物を狩りつつ森を探索し続けていたところマップ画面に緑色の点が確認されそこに行ってみると、ここがプレイヤーにとっての安全地帯であることが新たに判明された。
「一人で
テントの中で寝ころびながら、ステータス画面を表示して自身の能力値を確認してみる。
―――六ツ川唯我―――
職業:汎用職人 ランク5
LP
155
体力
125
筋力
130
耐久力
120
反射性
120
精神力
130
技巧
195
――――――
「能力値の上昇値は5~10か。金澤さんや野垣さん、あと宇啓のやつはランク1アップにつき平均15以上上がったとか言ってたっけ。それと比べたら大した成長じゃねーよなやっぱ。
ただ、技巧だけけっこう上がってるな。そういや職業柄いちばん伸びやすい能力値は上昇値が高いって風香さん言ってたっけ。20~30上がったとか……」
戦闘職の彼女たちと比べるとやはり上昇値が劣っていることが確認され、ため息をつく唯我。続いて職業スキルの方も確認する。
―――汎用職人スキル―――
「農民」
農耕作業の速度と正確性が向上。
「料理人」
食用となる物、その調理方法の知識が得られる。
「鍛冶」
農具、調理具、工具の製造が出来る。
「整備」
道具の手入れの技術が向上。破損した道具の修復が可能。*現在、軽微な損傷までの道具の修復が可能。消耗品は修復不可能。
「裁縫」
服飾作業の速度と正確性が向上。
――――――
職業によって得られるスキルは大きく異なる。璃音の場合…剣の腕が向上する「剣術」、雅哉の場合火や電撃を放つ「魔術」、シェリアイは自身や味方の能身体能力の上昇・敵に状態異常をかけられる「付与呪文」など。
唯我の場合、汎用職人であるからか他のプレイヤーよりも多くのスキルを持っている。
「といっても戦闘に使えるのは鍛冶と整備くらいだけどな。壊れた武器(農具の鍬と鎌、工具の木槌)も元に戻せたし」
今日の戦闘で消耗し軽度な損傷をした農具と工具は、全て新品に近い状態まで修復されている。
「お、そろそろ食べ頃かな」
魔物狩りがてら採取しておいた今日の食料になり得る植物と木の実、食用になり得る魔物の肉をいくらか削ぎ取ったのを、今晩の食事の献立にした。職業スキル「料理人」もこういうところでは重宝出来るなと思いながら、野草と木の実のスープと肉の丸焼きを食らい腹を満たす唯我だった。
食後、調理に使えず捨て置いた魔物の骨を見て、唯我はあることを思いついた。
「こいつらの骨で、武器つくれるんじゃね?それと毛皮も加工すれば、防護服に変えられることも―――」
職業スキルで得た知識、加えて現実世界のゲームで似たようなクラフトゲームによる経験を駆使して、唯我はそれらの実行に移った。
結果、目論見通り新たな武器(骨を削った加工した刃のナイフ、同様の刃と壊れた鍬の柄をくっつけた槍、重さと硬度が増した鎚)と耐久力を向上させてくれる装衣の作製に成功した。
「農具の鍬とか工具の木槌なんかよりも殺傷能力がだいぶ増したぞ…!これでより魔物を狩りやすくなりそうだ。非戦闘職だって最初は嘆いてたけど、案外使えるんじゃねーの、汎用職人。
明日が楽しみだな」
翌日以降、唯我の魔物狩りの効率が日に日に上がっていった。低級の魔物と正面から戦い苦戦することなく勝利するようになった。また二体、三体で行動している魔物に対しても単独で制圧出来るようにもなった。
武器と装衣を強化させたのもあるが、唯我自身の身体能力が上昇したのが大きな要因となっている。
―――六ツ川唯我―――
職業:汎用職人 ランク8
LP
160
体力
130
筋力
133
耐久力
123
反射性
125
精神力
133
技巧
201
――――――
身体能力の上昇値は戦闘職のプレイヤーたちと比べて渋いが、職業ランクの方は着実に上がっている。またランクが上がるにつれて職業スキルも上達する仕様になっている。
それにより討伐した魔物の骨や皮を拾ってはより強い武器を作製し、魔物討伐の効率性を上げていった。
(着実に強くなってはいるけど、町長が依頼している
レベルアップシステムが搭載されたゲームのように成長し続けていることに喜ぶ一方で、この程度のステータスでは
単独行動を始めてからおよそ二日が経過。ミッションの期限まで残り60時間を切ったその日の夜、唯我はマシロタウンに戻ってきた。
あれから
町民たちから二人の居場所を聞いて、そこへ向かったが、彼女たちの姿は見られなかった。
「こんな時間にどこ行ってんだよ」
探すのも億劫だと思い視察は諦めようとしたところで、遠くから声が聞こえた。
その方に行ってみると、そこで意外なものを目にした。
「ふ―っ」
離れた位置にある木にぶら下げられている丸型の的に向けて矢を放つ一葉。
「はっ、そりゃ!」
発声とともに剣を振ったり盾を構えてガード姿勢をとったりしているひかり。
(鍛錬してたんだ)
彼女たちの鍛錬風景を、唯我はしばらく眺めていた。やがてひかりが「よし、今日はこれくらいで良いかな」と鍛錬の終わりを告げるも、一葉はずっと弓矢、投擲ナイフの訓練を続けていた。
元々運動が苦手で体力が無いと聞いていたが、唯我の目に映っている一葉は汗をかき辛そうにしながらも鍛錬の手を止めずにいた。
「一葉さん、そのくらいにしておいたらどうっすか?体力が0になるとしばらく動けなっちゃうんだし」
「いえ…もうちょっとだけ続けます。体力が無くなっても時間が経てば元に戻りますし。ここなら動けなくなっても魔物に襲われることもありませんし」
「それはそうっすけど…。ここ最近ずっとそんな感じっすけど、どうしてそこまでやれるんすか?」
ひかりが尋ねると一葉は弓矢の構えを解いて、彼女の隣に腰を下ろした。
「今から話すのは、町に着いてから森に行く前の休憩の時に、璃音さんにも話したことなんですけど………」
そう前置きして、一葉は自身の身の上話をはじめた。