「ひかりさんたちにはもう話しましたが、私は元々運動音痴で運動が苦手な子で、体育の成績もずっと一番下の評価しかもらえてませんでした。
だけどこの世界にきて戦士職を授かった途端身体能力が上がって、嘘みたいに体が動くようになったことが、すごく嬉しくかった。もちろんビックリもしましたけど」
少し嬉しそう笑う一葉だったが、「でも……」と顔を曇らせる。
「初めて魔物と戦った時、みんなが戦ってる中私だけ武器を使うことはおろか、動くことすら出来ませんでした。
その後もずっとみんなの足を引っ張ってばかり。せっかくみんなと同じ戦う力を授かったのに、その力を持て余し続けてばかり………」
戦闘職でありながらも暴力と血が飛び交う戦いに対する耐性が極度に低い自身の臆病さのせいで、これまでずっと仲間たちの足枷になっていたと…自身の卑屈な思いを吐露する。
「この世界にくる前からも、私はいつも……人の足を引っ張って迷惑かけてばかりでした。そのせいで虐められたこともありました。だけど、そんな私を助けてくれる人がいた。元の世界にも、こっちの世界でも」
そう言って一葉はひかりに感謝の眼差しを向ける。
「い、いやいや私なんか一葉さんのことあまり助けられてないっすよ!むしろ私もみんなに助けられる側だったし……」
「森から撤退する時、ひかりさんが手を引いてくれてなかったら、今頃私も死んでたと思います。その前からも璃音さん、シェリーさん、野垣さん、宇啓さん……皆さんにいっぱい助けてもらってました。
そうやって改めて気付かされました……私は誰かに助けてもらえないと生きていけないような人なんだって」
(俺の名前は出てこないんかい。いやまあ助けたことなかったから当然なんだけど)
こっそり盗み聞きしている唯我が心の中でツッコを入れる。
「だけど、この世界ではいつまでもそんな自分のままでいられない…。仲間たちが半分以上死んでしまった時、そう思ったんです。ミッションを達成出来ないと私だけじゃない、ひかりさんも六ツ川君も死んでしまう。璃音さんたちも本当の意味で死んでしまう。みんな、死んでしまう……っ」
「……!」
拳をギュッと握りしめ、悲痛で震えた声で告げる一葉は涙をこぼす。今さら分かりきったことを…と唯我が呆れたその時、「だから」と一葉は涙を袖で拭い、
「これからは足を引っ張ってばかりじゃいられない。生き残ったひかりさんと六ツ川君に助けられてばかりの私じゃ駄目なんです…!生き残った二人を助け、死んでしまった仲間たちを復活させる為に、私は変わらなくちゃいけない…!みんなのこと助けられる自分に変わりたくて………それで、それで……っ」
その先を一葉は上手く言葉にすることが出来ずに終わった。
「ごめんなさい、上手く言えなくて……。とにかく、私も精一杯頑張るって決めました!魔物を前にしても固まったり躊躇ったりもしません。私に出来ることをちゃんと全力でやります。
これからは誰かを助けられる人になりたい。元の世界に帰れたら家族や友人……私を助けてくれた人たちを助けたい。その為に、私は絶対にこのミッションを達成したいんです!
だからひかりさん……私と一緒に戦って下さい!ひかりさんのこと助けますので!」
そこまで言ったところで、一葉はひかりに近づき過ぎてることに気付いて慌てて離れた。
「ご、ごめんなさい!いつの間にかあんなに近づ―――」
頭を下げようとしたところ、ひかりに両手をガシッと掴まれた。
「私ぃ、一葉さんの気持ちめっちゃ分かるっすぅ!一葉さんの言葉全部、私の心に染み込みました!」
「ひ、ひかりさん…?」
手を握ったまま涙を流し洟をすすりながら話しかけるひかりに、一葉は戸惑いの笑みを浮かべる。
「ずっと辛かったんすよね?心細かったんすよね?私も同じっす。いきなりこんなわけのわからない世界に飛ばされて、変な力授かったり意味不明なミッション押しつけられたり失敗したら死ぬって言われたり……。正直私もめっちゃ不安だった。でも一葉さんの話を聞いて、私も覚悟決めたっす!二人で全力尽くしてあの魔物を討伐するっす!
そして私たちで成し遂げてやりましょう、ミッションを。二人生き残って死んだ仲間たちも生き返らせて、みんなで一緒に帰りましょう、元の世界に!」
「は、はい!あと、二人じゃなくて三人で頑張りましょう。六ツ川君とも一緒に」
「あ、あー……はいあの子ね。あの子と上手くやれるか私不安っす。職業も戦闘向けじゃないし」
「あ、あはは………」
そうして二人はマグナグリズリーの討伐、ミッションを達成して全員で元の世界に帰ることを誓った。
「………………」
唯我は二人に気付かれないようその場から離れて、町の道をぶらついていた。先ほどの一葉の話が脳裏に何度も浮かぶ。
(この世界に飛ばされる前もだったけど……俺はこの世界に来てからずっと、自分のことばかりだった)
―――この世界にくる前からも、私はいつも……人の足を引っ張って迷惑かけてばかりだった。
(人に迷惑かけようが、俺は別に構わないって考えてた。犯罪にふれない範囲でなら別にいいかなって)
―――誰かに助けてもらえないと生きていけないような人なんです
(そんな人間、世の中ごまんといるわけだし)
―――この世界ではいつまでもそんな自分のままでいられない。
これからは足を引っ張ってばかりじゃいられない。
(雑魚相手に固まってたような奴が、どういう心境の変化だよ)
―――これからは誰かを助けられる人になりたい。元の世界に帰れたら私を助けてくれた人たちを助けたい。その為に絶対にこのミッションを達成したい!
(何だよそれ……どこでもよくあるド定番ものじゃねーかよ。
なのに………そんな彼女を認めちまってる俺がいる。俺よりも強いって認めてしまってる…!)
最初は同じクラスメイトであることにすら気付かないくらい、興味が無く眼中にも無かった。自分より弱く無力な存在であると自身の物差しではかっていた。
そんな考えは、さっきの話を聞いたことで覆った。
國崎一葉は強い。物理的な意味ではなく心が。否、あの様子だと実力でも自分より強くなり得る。
(彼女は俺より価値のある人間だった。金澤さんや風香さんと同列の存在だ。だから、死なせてはいけない。
あーあ、何だか急に背中が重たく感じてきたなあ)
唯我は他者と関わることが得意ではない。しかし、自分より強くて価値がある人間は生きるべきだと考えている。プレイヤーの中では璃音とシェリアイがそれに該当していた。
そしてたった今、一葉も新たにその一人となった。ちなみに征司はどっちつかず、ひかりと雅哉に関してはこれまで通り眼中に無いままだ。
(さて、そろそろ頃合いかな)
歩くこと5分程経ったところで唯我はUターンをして、さっきのところに戻り、たった今来たばかりを装って二人に話しかける。
「あ、どうもっす」
「あ、六ツ川君」
「あれ、町に戻ってたんすね。約束の時間までずっとあの森に籠ってるのかと思ったけど」
「さすがにそこまでの危険は冒せませんよ(セーフポイントあるから危険なんて無いけど)。それより、俺から提案があるんですけど」
その途中で唯我は緊張した感じで言い淀んでしまう。二人から怪訝な眼差しを向けられてますます気まずくなるが、どうにかその先を告げるのだった。
「明日からこの三人で魔物狩りをしつつ、