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「ランク上げ」3


 ミッションの期限まで残り24時間。唯我は今日も朝からターゲットマグナグリズリーから離れた森で低級の魔物狩りを行い、ランク上げに努めていた。

 この日は一葉とひかりも唯我とは離れた箇所で魔物狩りを行っていた。一葉は弓矢か投擲用ナイフで、ひかりはショートソードで魔物の群れを協力し合って討滅していた。


 「は~~~っ!やっぱ動く相手の狙った箇所に攻撃を当てるのって、楽じゃないっすよね!あ、一葉さーん、次はこのコボルトっす!」

 「は、はい…!」


 ひかりの攻撃で両足の腱を切られ倒れ込んだコボルトに、一葉は弓矢で狙いを定める。


 (手足や胴体じゃ仕留められない……狙うのは、頭―――)


 集中力を上げ標的の致命部に矢の照準を定めたところで、一葉は弓の弦を放し、矢を放った。


 (―――ごめんなさいっ)


 矢を放った直後、一葉は反射的に目をつむった。そのすぐ後にコボルトの短い断末魔が上がると、彼女は目をつむったままビクっとさせた。


 「ナイスっす!じゃあ今度は一葉さんが私のサポートよろしく頼むっす」

 「は、はいっ」


 目を開けて、木々を飛び移りって自分たちを翻弄している子ザルの魔物エダザルを目で追う。敵の移動先を見切ったところで一葉は投げナイフを投げて、魔物が飛び移ろうとした先の木に当てた。

 魔物は驚いて木から落ちてしまい、そこにショートソードを握りしめたひかりがすかさず迫った。


 「猿も木から落ちる――ってね!」


 そんな言葉とともにエダザルの首に刃をグサっと突き立てて、討伐した。その瞬間も一葉は目を逸らしていた。


 「ナイスアシストっす一葉さん!私たちの連携さらに磨きがかかっ―――て、大丈夫っすか!?」


 地面にへたり込み汗だくで息を荒げている一葉に、ひかりは心配そうに駆け寄った。


 「だ、大丈夫です。怪我もしてません……。ただ、ちょっとまだ………」

 「あー……これは私が悪かったすね。配慮が足りてなくてごめんね………」

 「いえ、これは私が乗り越えなくちゃいけないことなんで。最後のミッションを達成する為にも………」

 「一葉さん……!その意気っす!ちょっと休んだらまた二人の連携プレーの精度上げやりましょー!」

 「はい。でも、六ツ川君も入れた連携もしないと駄目なんじゃあ………」

 「いやまあそうなんっすけど。あの子まーた一人でランク上げにいそしんでるし。言いだしっぺのくせに放っぽり出しちゃってさぁ、まったく」


 そう言ってひかりは二人から離れたところで魔物を次々討伐している唯我に非難の眼差しを向ける。


 「にしても凄いっすね六ツ川くん。最初はシェリーさんたちの援護が無いと低級一匹に苦戦してたのに、今じゃ戦闘職の私たちよりも強くなってるよね」

 「そうですね………一旦別行動してからずっと頑張ってたんだと思います。ミッションを達成する為に、必死に」


 ひかりとは反対に一葉は尊敬の眼差しを向けていた。昨日を通して彼の鍛錬に対する前向きかつ真剣な姿勢は、一葉にとって良き刺激となっていた。


 「強くなってくれてるのは良いんすけど、ボス戦の連携はどうすんだよって話なんすけどねー。つーかあの武器と服、どこで手に入れたんすかね」




 二人の話題に上がってるなど知らずに魔物狩り中の唯我はというと、今では単独で4~5体の低級魔物を狩れるようになっていた。

 ランクアップと身体能力値による単なる戦闘力の上昇もあるが、唯我の戦闘上手さがそれを可能とさせる要因となっている。


 (ゲームと同じだ。こいつらの習性・特徴さえ把握出来てれば、雑魚職でも殺れる…!)


 キャタピラーの群れを討滅してひと息ついた唯我は、一葉を一瞥する。


 (自分の手で魔物を殺せるようにはなってる。最初は金澤さんの手を借りてばっかりだった頃と比べるとマシにはなった。魔物が死ぬ瞬間目を逸らしてるところは相変わらずみたいだけど)


 コボルトの爪を加工してつくった二振りの短剣にこびりついた魔物の血を払ったところで、唯我もひと休みすることにした。


 (依頼された魔物マグナグリズリーの再戦の時までそろそろ一日を切る。今日の夜になったら改めて作戦を立てるか。

 まあ大体もう決まってはいるんだけど。あの二人の連携と俺が臨機応変に対応するって感じで)


 三人での連携訓練を提案した唯我だったが、その道を先に降りたのは彼本人だった。


 (やっぱり俺には無理だった。リアルに人と合わせるのがこんなにしんどい事だなんて……。まあ今日の二人の連携っぷり見てる限り、あれで上手くいけそうだから良いか。どっちも身体能力値は俺より上だし)


 多少の不安はあるものの、ミッション達成の希望を見出してはいた。



 それから6時間後…ミッション期限まで18時間を切った夜―――



 「お……?」


 マグナグリズリーの討伐作戦会議の時間を前に自主鍛錬をしていた最中、職業ランクが15に到達した瞬間、唯我の意識とは関係無くホログラム画面が勝手に表示された。


『おめでとうございます。職業が“汎用職人”から“上級職人”に昇格いたしました』


 「へ――?職業の、昇格…?上級職人!?」


 思わぬ通知に唯我は呆けていたが、すぐに我に返りステータス画面の確認に移った。


―――六ツ川唯我―――

職業:上級職人 ランク1

LP

180

体力 

150

筋力

155 

耐久力 

140

反射性 

145

精神力

150

技巧

235 


――――――


 「本当だ、職業が上位に変わってる。しかもどの能力値も20程度上昇してる…!」


 決戦を前に自身の能力値が大幅アップしたことだけでも嬉しい収獲だが、唯我にもたらしたのはそれらだけではなかった。

 能力値欄の下に表記されてある職業スキルにも変化が見られた。



―――上級職人スキル―――

「農民⁺」

農作業の正確性がさらに向上、作物が早く育ち熟すようになる。

「料理人の目利き」

食用となる物の知識をさらに深く得られる。あらゆる生物の外郭・体内の構造が分かる。

「鍛冶職人」

より上等な農具、調理具、工具の作製、道具(武器・防具含む)の製造が可能。

「整備士」

道具の手入れの技術がさらに向上。破損した道具の修復が可能。*現在、中程度の損傷までの修復が可能。消耗品は修復不可能

「裁縫職人」

服飾作業の速度と正確性がさらに向上。

new「彫刻」

美術系統の技術が向上。

new「陶芸」

陶芸技術が向上。

new「調合」

特殊な植物や実を材料に、様々な消耗品の生成が可能


――――――



 これまでの職業スキルが強化されたほか、新たなスキルも手に入れていた。 


 「すげぇ、スキルまで強くなれんのかよ。新しいスキルも、二つはどうでもいいけど“調合”てのは使えそうだぞ。

 そうだ、こいつで良いものを作れるんじゃあ――」


 新しいスキルを得たことで、唯我は新しスキルによる作業を始めた。約束の時間ギリギリまで行い続けた。




 「えっ!?六ツ川くんの職業が昇格した!?ランク15になるとそんなご褒美もらえちゃうんすか、すっご!」


 マシロタウン…プレイヤーたちが使わせてもらっている家屋にて、唯我、一葉、ひかりはこれから行うマグナグリズリー討伐に向けての作戦会議を行っていた。会議に入る前に唯我は自身のステータスのことを二人に話した。


 「ていうか六ツ川くん職業ランク上がるの早くないっすか?私なんかまだ9っすよ」

 「私は……今日の魔物狩りで7まで上がりました」


 昨日から今日にかけての二人のランクアップはそれぞれ2~3である。とはいえ魔物を討伐したことで身体能力値は順調に向上していた。



―――國崎一葉―――

職業:狩人 ランク7

LP

193

体力

145 

筋力

150 

耐久力

135 

反射性 

160

精神力 

140


狩人スキル

「狩猟」

狩猟における技術が向上。

「精密射撃」

矢・弾の命中精度が向上。


――――――




―――館野ひかり―――

職業:軽装戦士 ランク9

LP

201

体力 

170

筋力 

182

耐久力 

157

反射性 

151

精神力 

150


軽装戦士スキル

「軽量化」

身に付けた防具・盾の重量が半減する。

「回避強化」

敵の攻撃を回避しやすくなる。


――――――



 「二人と比べて俺のランクが上がりやすいのは、俺の職業は非戦闘職だからだと思います。低種族とか雑魚職とかだと、序盤はレベルアップが早いってやつ」


 ゲームあるあるを交えた唯我の説明に二人はなるほどと納得する。


 「にしても六ツ川くんスキルどんだけあるんすか。私たちは二つしかないのに」

 「それはまあ、職人だからじゃないですかね。現実でも職人って色んな種類があるわけですし」

 「ところで、凄い量の荷物だけど、どうしたんですか?」


 一葉は唯我が持ってきた大量の荷物(植物、木の実、魔物の部位など)についてふれる。


 「こいつらで今から色んなアイテムを作るつもりです。アイツを討伐するのに役立つアイテムを」


 上級職人への昇格・様々なスキルを得たことで、自身の職業の特性がどういうものかを把握した唯我は、マグナグリズリー攻略の糸口を掴むその手前に立ててる気がした。


 「六ツ川くんが何を考えてるのかさっぱりっすけど、そうすることであのデカいクマさんとの勝率が上がるってことっすよね?」

 「はい。なので作業しながらでの会議になりますけど、どうか了承をってことで」


 そうして、三人は仮眠をとるまでの間マグナグリズリー討伐の作戦会議を行った。




 ミッションの期限まで残り10時間を迎えた明朝。


 「ふぁ……あ~~、これがラストチャンスで、失敗=全滅=死なんだって思ってたせいで、あんま寝れなかったっす」

 「わ、私も……あまり」

 「俺もですよ。でも、覚悟の方は大丈夫なんですよね?」


 唯我が尋ねると二人とも頷いて笑みを浮かべる。


 「アイツは今頃俺たちが来てるとも知らず寝ているはず。今しか殺るチャンスは無い」


 最初、プレイヤー全員で来た時と同じ場所にて、マグナグリズリーは三人に背を向けて寝ている。


 (やってやる………こんなところで死んでたまるか!俺と、俺を認めた人たちの為に、何が何でもこの戦いゲーム、絶対勝ってやる―――)




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