「テキトーに待機してって……女の子二人をこんな森の中に置いて行ってからに……。それ以前に
「そ、そんなことはないと思いますよ、たぶん……。それにここにいる限りは魔物が襲ってくることはないって、六ツ川君言ってましたし。
六ツ川君がいなかったら私たちだけであんな魔物を倒すことはきっと出来なかったかと思います」
「それは、そうっすけど……あ~何だかあの子にありがとうって言いたくない自分がいるんですよねー」
唯我が使っていた森の「セーフポイント」にて待機中の一葉とひかりは、唯我のことで雑談していた(その間も一葉はひかりの介抱を続けている)。
「にしても六ツ川くん、私たちと同じこの世界に飛ばされて日が浅いはずなのに、めちゃめちゃ戦い慣れてた感じでしたよね。実は元の世界でも戦闘民族をやってたりとか?」
「そ、それはないと思いますよ。学校は帰宅部で体育の成績も凄いわけじゃないそうなんで」
「……っていうフリをしていて、裏では……なんて可能性もあるっすけどね。そういや一葉さんはあの子と同じ学校、クラスも一緒なんすよね?普段もああいう感じなんすか、あの子は」
「えと、その……学校ではほとんど話したことがないので、あまり分からないです。ただクラスの友達が言うには、六ツ川君が誰かと一緒にいたところを見たことは入学式から一度も無いと友達から聞きました」
「あーボッチくんかあ。いかにもって感じ出てたしね~。まあ私も学生の頃はそんな感じだったから、人のこと言えないんすけどねー」
その時システム通知が鳴り、二人の前に画面が表示される。
「おー、六ッ川くん無事に町長さんに依頼を遂行したって報告を―――って、え……?」
画面から目を離した瞬間、気が付くと二人は雑草と砂利が混じった地面の上にいた。見上げると青い空と白い雲…ここが外であることをすぐに把握する。
「こ、ここって……私たちが最初にいた場所?」
異世界一日目…ミッション開始時のスタート地点であることに気付いた一葉が困惑しつつ辺りを見回すと、マシロタウンへ向かって行った唯我の姿も確認した。
「あ、どうも。あの後町に戻って町長に魔物討伐の報告をして、依頼が達成してミッションクリアの通知が来たと思ったら、一瞬でここに飛ばされてました。
たぶんですけど、今回のミッション全て達成したらこうなる仕様なんじゃないかなと」
「そうなんだ………それじゃあ、これで私たちは…っ」
ようやく
(出て来たか…)
察した唯我が背後を振り返ると案の定、仮面の男…ゲームマスターがどこからともなく現れていた。
「おめでとうございます。全てのミッションの完遂が確認されたので、これにて第一回のミッションは達成でございます」
ゲームマスターの通告を聞いた瞬間、三人とも緊張の糸が緩み、歓喜したり安堵したりした。
「なら、途中で死んでしまった仲間たちも生き返るんですよね!?一日目の時そう言ってましたよね!」
一葉がゲームマスターに詰め寄り、これまで死んだ
「勿論にございます。こちらが提示したミッションを全て期限内に達成されましたので、これより死亡したプレイヤーの方々を蘇生させます」
そう返した直後、唯我たちの目の前にキラキラエフェクトがかかったデジタルが生じはじめる。
「あ……っ」
間もなくして、今回最後のミッションのさ中で命を落としたプレイヤーたち――璃音、シェリアイ、雅哉、征司が現れた。全員目立った外傷は見られず、健康の体そのもの。
「え、あれ?ここって最初の………」
さっきの一葉・ひかりと同じ反応を見せる璃音とシェリアイに、一葉が涙声を上げて駆け寄ってきた。
「璃音さん!シェリーさん!宇啓さんに野垣さんも………よかったっ」
「か、一葉ちゃん?」
一葉に抱きつかれ驚く璃音だったが、ふっと優しい笑みを浮かべてその頭を撫でてやる。
「………ありがとね。本当に」
「一葉、ひかり、そして唯我。三人とも本当によくやってくれた。君たちが頑張ってくれたお陰で私たちは生き返ることが出来た」
「見事だった。三人でよくあの魔物を討伐出来たな。心から称賛と感謝させて欲しい」
シェリアイと征司も頬を緩めて二人を労い感謝する中、雅哉は唯我の背中をバシバシ叩きながら彼を褒めちぎっていた。
「いやーマジで助かったぜ!正直お前らだけであのデカ熊に勝てるワケねーじゃんって諦めてたけど、いい意味で期待裏切ってくれたぜ!
特に六ツ川……いや唯我!お前全然雑魚じゃねーじゃん!何だよあの神回避、サーカスの劇団員かっての!デカ熊の挑発もしてて度胸もあるしよぉ?お前ってスゲー奴なんだな!」
「ってぇ、痛いって…!(こいつだけ生き返らなくてもよかったのに)」
「ああ悪ぃ。あと、お前のこと雑魚だと見くびって色々言ったことも謝らせてくれ。悪かったな。お前は雑魚なんかじゃねーよ」
そう言って唯我の胸に拳をトンと当てて、屈託ない笑顔で唯我を評価する雅哉だった。この瞬間彼は唯我に対する認識を改め、対等な仲間として認めたのだった。
思いもよらない彼の謝罪に唯我は毒気が抜かれた調子になった。
「……次のミッションで俺がミスってもまた手のひら返ししてお荷物扱いするのは勘弁して下さいね」
「っはは、しねーよそんなこと!お前面白え奴だな!ますます気に入ったぜ!」
雅哉の絡みに辟易する唯我だったが、ふとある違和感に気付いた。
「……っていうか四人とも、魔物に殺されたはずなのにどうして俺たちのその後の行動知ってるんですか?」
「あ、確かに!私たちの魔物との戦いも詳しい感じじゃないっすか。何で?」
「それについては私が答えよう。私たちが死んだ後、気が付くと私含む四人は殺風景なデジタル空間にいたんだ。傷一つ無い状態でね。恐らくは霊体…この場合では分子集合体と言えば良いのかな。
簡単に言うと、仮死状態として異空間に転送されていた…と言えば分かりやすいかな」
唯我とひかりの疑問にシェリアイが分かりやすく答えてくれた。
「……って知った風に答えてみたのだけれど、合ってるかい?」
「灰村様の言葉通りでございます。ミッション遂行中に死亡したプレイヤーにはミッションが達成されるまでの間、私が創り出した
残りのプレイヤーの全員死亡あるいはミッションの期限が切れてしまった場合、本当の死が訪れます」
ゲームマスターの補足説明に一同はゾッと顔を青くさせた。
「それではこれよりミッションの達成報酬ならびに達成した後のことについての簡単な説明をさせていただきます。
まずは達成報酬について。ミッションを達成されたことで全プレイヤーのステータスの上昇」
ゲームマスターがそう告げた後それぞれがステータス画面を表示し確認してみる。唯我の職業ランクは1から2に上がり、身体能力値もそれぞれ20~30上昇していた。
(最弱職とはいえ昇格してからはランクアップしにくくなってるな。まあ能力値が上がってるからいいや。新しいスキルも追加されてるし……戦闘には役に立たなそうだけど)
職業ランクと能力値の大幅アップが見られたのは一葉とひかりも同様だった。一葉のランク10、ひかりは12にそれぞれアップし、身体能力値は平均30以上、上がりやすい能力値は50近く上がっていた。
「うーん、いちおうあたしたちもステータス強くなってるけど、生き残った3人と比べると大した伸びじゃないわね」
「生存プレイヤーには特に上乗せされる仕様なのかもね。次のミッションで死なずに達成すれば私たちも今回の3人のようになれるよ」
璃音とシェリアイが談笑する一方で、一葉の表情は少し曇っていた。
(こんな命懸けのことを、後何回やらされるのかな………)
仮であるとはいえ次回のミッションで今度は自分が死ぬかもしれない、最悪全滅かミッションに失敗し本当に死ぬかもしれない……。
そんな想像を浮かべてゾッとする一葉だった。
(次のミッションも今回と同じ難易度とは限らない。少なくとも難易度が下がることは考えにくい。今回以上に強い敵の出現、難解でクセのあるミッションとかきそうだな……)
そんな一葉とは対照に、唯我は沈静な面持ちで既に「次」のことについて色々考察していた。