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「ミッション達成」2

 皆にミッション達成報酬の余韻に浸る間を与える気はないと言わんばかりに、ゲームマスターは今後のあらゆるについての説明を始めた。


 今回のミッション達成に最も貢献したプレイヤー(=MVP)を除くプレイヤーたちはこの後速やかに元の世界に帰されること。

 帰還した先の元の世界の時間は、異世界に飛ばされた時と変わっていないこと。

 異世界で授かった職業、戦闘や鍛錬で培った身体能力は元の世界に引き継がれ、力を振るうことに関して特に規制されることもないこと。

 次回以降この世界にする際は、その旨を24時間前に全プレイヤーに告げるということ。


 それらの説明が終えたところでゲームマスターは今回のMVPの発表に移った。


 「今回のミッション達成に最も貢献されたMVPは―――六ツ川唯我様とさせていただきます」


 唯我が選ばれたことに異論を唱える者は、一人もいなかった。


 「まあ、そうなるよね」

 「二人も頑張ってたけど、今回は唯我がいちばん活躍がしていたかもしれないね」

 「そうだな」

 「まー予想してたっすけどねー。ちょっと気にくわないっすけど」

 「次は俺がエムブイピーてやつに選ばれてやるぜ!」


 皆の称賛に唯我は「ど、どうもっす……」と肩身狭げに応えるのだった。


 「それでは、MVPを除くプレイヤーの方々を先に元の世界にお帰し致します。皆様、次回もよろしくお願いいたします―――」


 すると唯我の目に映る景色が最初の風景から、無機質あるいは殺風景なものへと切り替わった。ここには自分以外のプレイヤーが一人も見られなかった。先の説明通り六人は先に元の世界に帰してもらったのだろう。


 「で、俺だけMVPとして居残りってわけか……。MVPてのは特別報酬ボーナス?がもらえるとか?」

 「MVPに選ばれたプレイヤーには、ゲームマスターである私に何でも一つ質問をする権利が与えられます」

 「は……それだけ?チャちい報酬だな!」


 思わずツッコむ唯我だったが、ゲームマスターが業務上の事しかことしか一方的に話さない奴であると分かってる以上これ以上突っかかるのは止めて、何の質問をしようかと思考する。


 (……決めた)


 そしてゲームマスターに質問を投げかける。


 「どうして俺たちにこんなことをさせるんだ?」


 聞きたいことは山ほどあった。何故自分や他の六名が選ばれたのか。異世界とは一体何なのか。自分たちは一体何をさせられてるのか。お前ゲームマスターは何ものなのか…など。

 数ある疑問の中から唯我が選んだのは、自分たちがこの世界でミッションをこなされる理由についてだった。


 「――この世界を救出していただく為、でございます」


 ゲームマスターから返ってきた答えは、そんなどこにでもありそうな勇者が魔王を倒す物語のゲーム、あるいはそのお伽噺を思わせるものだった。


 「世界の救出のため………?ならどうして俺たちが―――」

 「私への質問は一回限りでございます。

 それでは、次回もよろしくお願いいたします―――」


 唯我が詰めかかろうとしたところでゲームマスターを中心にキラキラした光が発生し、唯我の視界を奪った。


 「あ!?」


 視力が通常に戻った頃には、無機質なデジタル空間から見慣れた場所に変わっていた。


 「ここ、は、学校………?」


 ここが自分が通う高校の校舎、自分のクラス教室前の廊下であることを把握した唯我だが、しばらくその場で放心状態に陥る。


 (も…戻ってる………あの時、異世界に飛ばされる直前の場所に)


 戻ったのは場所だけでなく、自身の装いもだった。異世界用の衣装ではなく、学校の制服姿に戻っていた。

 ズボンのポケットからスマホを取り出し日付と時刻を確認したところ、異世界に飛ばされる直前のままとなっていた。


 「はは……(ほんと何でもありだなコレ)」


 頭の整理が追い付かずとりあえず笑うしかない唯我だった。


 「あ、六ツ川君……戻ってきた」


 少女の声に顔を向けると一葉が反対側の教室に立っており、唯我のもとに歩み寄ってきた。


 「國崎……さんは、いつここに戻ってきました?みんな俺より先に帰ってったと思うけど」 

 「それが……私がこっちに戻ってきた時には六ツ川君もそこにいるのが見えてて………」


 一葉の答えから、MVPのプレイヤーも含む全員が異世界に飛ばされた時に戻される仕様であることが推測された。


 「あ……そう言えば日直で鍵閉めてたんだっけ。鍵、職員室に持ってかないと」


 スマホを取り出した時に一緒に出てきた教室の鍵を見て、一葉に一言あいさつを述べてこの場を去ろうとした唯我だったが、


 「あの、六ツ川君!その……鍵返した後、良かったら話さない?帰りながら」


 女子から一緒に下校を誘われ、その場で固まるのだった。



 十分後、日直の仕事を済ませた唯我は、一葉と一緒に校舎を出て下校し、帰路についていた。一葉は電車で登下校しているとのことで、駅近くまでこうして並んで歩くことになった。


 (あれ……?冷静に考えてみたら俺って女子とこうやって二人きりになったの、初めてじゃね?

 当然、こうやって一緒に下校することも………)


 異世界から戻ってきたことの余韻が終わったところで、唯我は人生史上一度も経験したことなかった事態に意識が回り、キョどりながら一葉にちらちらと何度も視線をやる。そんな彼を一葉は不思議そうに見つめ返す。


 「は、話をするって聞いたけど……何の話を?」


 何とか動揺を隠しながらそう尋ねてみると、一葉は彼を再びジッと見つめる。


 「あの、六ツ川君はもう平気だったりするの?」


 一葉に見つめられ内心ドキドキしつつも、彼女の質問の意図を読み取りたどたどしく答える。


 「まあ、そろそろ落ち着いてきたかなーって感じですかね。考えるのは家に帰ってからにしようかなと」

 「そうなんだ………私はさっきからずっとドキドキしたまま、です」


 頬を赤らめながらそう言った一葉に、唯我はギョッとする。


 「私たちはついさっきまで違う世界にいて、何日もそこで過ごして……命懸けのミッションをこなして、現実には存在しない生物と戦って……。

 あの日々を思い出すと、心臓が早くなってきて………」


 それを聞いて「なんだそっちか……」と気が抜ける唯我だった。


 (まあでも、その通りかも。國崎さんの話を聞くと改めて実感させられる……俺たちさっきまでとんでもない事態に巻き込まれてたんだって)


 突然剣と魔法のファンタジー風の世界に召喚されて、訳が分からないままミッション攻略させられて(しかも達成しないと全員死ぬ)、現実世界には存在しない敵意持った生物と戦い、殺し合った。ミッションを全て達成する道中、協力者プレイヤーが死にもした。


 何も知らない人がこんな話を聞いたら、正気を疑われても仕方ないと言える。


 「不思議……ですよね。向こうでは十日以上の時間を過ごしてたのに、こっちに帰ってきたら時間は全く進んでなかったなんて」

 「確かに、普通に考えたらおかしいですよね。色々何でもあり過ぎるっていうか」


 駅へと続く通学路をしばらく無言で歩いていた二人だったが、突然こちらの前に立った一葉は、


 「その、ありがとうございました。六ツ川君がいなかったら私たち死んでたと思います」


 感謝の言葉を述べた。


 「い、いや……俺の方こそ最後は國崎さんに助けられたし。それが無ったとしてもあの世界にいる間は俺たち、一蓮托生ってやつだから……えーと」


 途中で言葉を途切れさせた唯我はここから何を言おうか思考するも、中々言葉が思い浮かばず、


 「俺や國崎さん、あるいは館野さんの誰か一人でも生き残りさえすれば良かったってわけで。俺が死んでも残りの二人がやり遂げてくれれば良し、逆に二人が死んだとしても最後に俺一人が成し遂げれれば、それで良いってわけで」

 「………え?」

 「その、だから要するに………なんですよ!俺がいつも遊んでるハンティングアクション系のゲームみたいなものだったから、やりやすかったんです。

 ああいう風にチームを犠牲にしつつも敵を倒しクエストミッションをクリアするの、俺には合ってる気がするんですよね。正直、ちょっと楽しかったなーって思ってました」

 「……そ、そうなんだ」


 ドン引きまではないもののぎこちない笑みで相槌する一葉を見て「しまった、言わなくていいことまで言ってしまった」と、心の中で後悔をこぼす唯我だった。



 それから一葉が登下校でいつも利用している駅の近くまで来たところで、二人は解散することになった。


 「ゲームマスターって人……“次回もよろしく”って言ってましたよね。最初の時も“第一回”って……。しばらく経ったらまた、あの世界に飛ばされて、ミッションをこなすことになるんですよね」

 「そりゃそうでしょね。後何回アレをやらせるのかはまだ分からないけど、少なくとも第二回はそのうちくるでしょうね」


 物憂げな表情で黙り込む一葉だったが、「次回も……」と唯我に頭を下げて、


 「次回も七人全員で頑張りましょうね!私もみんなに助けられるだけじゃなく、助けられるようしますから。もちろん、六ツ川君のことも」

 「あ……はい。じゃ、次回もまたよろしくお願いします」


 話を終えると一葉はもう一度会釈をして、改札の方へ行った。唯我も駅に背を向けて、自分の家に向かって歩き始めた。


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