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「第二回の始まり」


  「あ、こんばんは……?」

 「一葉ー、こんばんは!さっきまで夜だったからこんな空でもそう言っちゃうよねー。あと、六ツ川も前回ぶり」

 「ああ、はい。どうもです」

 ((相変わらず敬語………))


 一葉(狩人の衣装…羽が挿さった帽子と緑色の衣装)、璃音(銀色の甲冑)と挨拶を交わし、残りの四人シェリアイたちとも挨拶を済ませたところで、唯我は視線をさまよわせ肝心の人物を探す。


 (あいつは……そろそろ出てくるか?)


 そうよぎらせたその時、ボン!と爆音が鳴り、煙が立ち上がった。第一回の最初と最後に見たのと同じ光景から、この後の展開も前回通りだろうと、唯我たちは予想する。

 煙が晴れると予想通り、仮面で素顔を隠した男性(と思われる)の姿があった。


 「………ん?」


 ただ一点だけ、前回と違う箇所が見られた。


 「どうもプレイヤーの皆様、ゲームマスターでございます」


 素顔を隠している仮面が、地味なものから道化師ピエロを思わせるものへと変わっていた。


 「ねえ、アイツの仮面、前回と違うような………」

 「う、うん」


 小声で囁き合う璃音と一葉。


 「おい、そのピエロみてーな仮面は何だよ?イメチェンか?」


 本人に直接尋ねてみた雅哉。


 「ではまず前回のおさらいを兼ねて、ルールの説明から始めさせていただきます」


 質問を無視されて「またシカトかよ!」と愚痴を漏らす雅哉と「ミッション達成した時しか質問に答えないんじゃないすかねこの人」と呆れるひかりをよそに、ゲームマスターは一方的に話を進める。

 プレイヤーの職業発表を省いたこと以外は、第一回の時と同じ内容だった。


 「では、第二回のミッションの内容を発表いたします」


 そしてパワーポイントを思わせるホログラム画面を表し、第二回のミッションを映し出した。



『各プレイヤー一人ずつ、不特定の低級~中級の魔物を二十体討伐・王が指定した魔物を討伐する』


『三つの都市を全員で来訪する *生存者のみで、死亡したプレイヤーはカウントされない』


『騎士団と接触する』


*ミッションの期限は480時間以内




 「それでは、また―――」


 全三つのミッション内容を発表した後、ゲームマスターは短い挨拶を残して、粒子となって消えた。機械みたいに一方的なことしか話さないのはいつものことだと割り切り、今は目の前のミッションについて考えるべきだと、唯我は思考を切り替える。


 (こなさないといけないミッションの数は前回と同じだけど、期限は前回のちょうど二倍……。それだけ難易度が増しているというわけか?討伐しないといけない魔物の数が増えてるし、訪れないといけない箇所も増えている。

 今回は都市か……ということは今回の目的地は日本みたいな国の都市へ行けってことか?)


 他にも考えるべき事がいくつかあるが、一人でまとめるには時間がかかる。ここは自分と同等かそれ以上に頭が切れる人物の意見を聞いた方が良いと判断した唯我は、この中で一番頼りになれる人物…シェリアイに話を伺った。


 「…まずは魔物の討伐ミッションだけど、各自の必要討伐数は前回の4倍に増えてる。ついでに今回は中級も討伐対象に入ってる。

 これだけなら特に気にする必要は無いけど、最後の『王が指定した魔物』というのが引っかかるね。“王”というのは文字通り王様のことだと思っていいのかな」

 「俺もそうなんじゃないかって思ってます。この次に表記されてある『三つの都市を来訪する』と連動していて、都市にいる王様から魔物の討伐依頼を受ける……とか?」

 「そう考えるのが妥当だね。三つ目の『騎士団と接触する』も、その都市とかで情報を集めていけば、会えるかもしれない」

 「となると、まずはその国の位置の特定を……って言いたいんですけど」

 「うん……これはどういうことなんだろうね」


 二人を悩ませている要因は、プレイヤー機能の一つマップ画面にあった。現在地と一度行ったことのある地形は詳細に表示され、ミッションに関わる目的地の位置は赤い点で表示される仕組みとなっている。

 ところが今回のマップ画面には、その赤い点座標がどこにも表示されていないのだ。


 「この場合、手探りでマップを踏破して回るしかないね、現状としては」

 「そうするしかなさそうですね(めんどくせー)……」


 二人して嘆息をこぼしたところ璃音も話に混ざってきた。


 「それって………やみくもに回ろうってことですよね。てかあの仮面男何でこんなイジワルするのよ!」

 「いや、俺に当たらないで下さい………」


 璃音の八つ当たりに巻き込まれ渋面する唯我をよそに、シェリアイが号令をかけ、唯我と話して決めたことを皆に伝えた。


 「そうだ、出発する前に各自のステータスを確認しておこうか。今の自分がどの程度の強さか把握しておきたいしね」


 シェリアイの提案に従い、唯我は早速自分のステータス画面を開いてみた。



―――六ツ川唯我―――

職業:上級職人 ランク3

LP

200

体力 

163

筋力

165 

耐久力 

150

反射性 

155

精神力 

165

技巧

260


上級職人スキル

「農民⁺」

「料理人の目利き」

「鍛冶職人」

「整備士」

「裁縫職人」

「彫刻」

「陶芸」

「調合」

――――――


 前回のミッション対象だった中級魔物マグナグリズリーを自身の手で討ったことと全てのミッション達成報酬で、各能力値はさらに上昇し、ランクもそこそこ上がっていた。スキルの数はそのまま。


 (とはいっても、スキルの数はともかく、能力値はランクの割にはみんなと一緒かまだ劣ってたりしてるんだよなあ………)


 唯我はこっそり他のプレイヤーのステータスを盗み見してみた。前回共に生き残った一葉とひかり……二人とも技巧を除けば自分とほぼ同じあるいは上回っていると言っていい数値だった。



 「私は……ランク12になりました」

 「私のランクは11っすね。職業昇格まであと4かあ。今回の冒険でいけそう」

 「二人ともいいわねーランク二桁になってて。六ツ川に至っては職業までパワーアップしてんじゃん」


 三人のステータスを羨ましがる璃音だが、そう言う彼女の能力値もランクの割には三人と引けを取らない。むしろ、凌駕している。



―――金澤璃音―――

職業:剣闘士 ランク9

LP

195

体力 

180

筋力

275 

耐久力 

177

反射性 

171

精神力 

159


剣闘士スキル

「剣術」

剣速および威力の向上

「真空斬り」 

遠距離に斬撃を飛ばす攻撃

――――――


 「す、すごいね璃音さん。筋力が特に私たちより上だね……」

 「や、ヤバい数値っすね。ほぼ全部私より上じゃないっすか……。シェリーさんたちもめちゃ強だし」


ひかりの視線の先には十字架模様の刺繡が入った青い服、白いローブを纏ったシェリアイがいた。


―――灰村シェリアイ風香―――

職業:僧侶 ランク9

LP

227

体力 

188

筋力 

165

耐久力

330 

反射性 

160

精神力 

350

MP

290


僧侶スキル

「付与呪文」

味方の身体能力値(一部除く)を向上させる(バフ強化)。敵の身体能力値を減少させたり状態異常(麻痺、毒、眠り)を付与させたり出来る(デバフ)。

「回復呪文」

傷の治療、LPおよび体力の回復が可能。有機物にのみ有効。

「魔術」

初級までの魔術使用可能

――――――


 「さ、三百超えの能力値が二つも………半端無過ぎぃ!」

 「俺も一個だけ三百超のやつあんぜ!野垣さんもすよね!」

 「ん……まあそうだな」


茶色のローブ姿の雅哉が割って入り、自慢げにステータスを見せてきた。赤い格闘装束の征司も流れで自らのステータスを見せた。



―――宇啓雅哉―――

職業:魔法使い ランク8

LP

188

体力

155 

筋力

160 

耐久力

145 

反射性

150 

精神力 

205

MP

380


魔法使いスキル

「魔術」

中級までの魔術使用可能

――――――




―――野垣征司―――

職業:武闘家 ランク9

LP

250

体力 

220

筋力 

350

耐久力

290 

反射性

205 

精神力 

188


武闘家スキル

「剛体術」

あらゆる打撃の威力の向上

「柔体術」

相手の攻撃をタイミング良くガードすることで攻撃を受け流し、跳ね返すことが可能。ガードが出来ない攻撃に対してはスキルが発動されない。

――――――


 (四人とも上位職の俺より能力値上回り過ぎだろ………。全員、前回は途中退場したはずなのに。この差は何だよ……くそっ)


 ランクアップしてもなお埋まらない格差に唯我は嫉妬の感情を抱くのだった。


 「何だよ唯我、むすっとしてよお。つかお前スキルの数ヤバ過ぎな?」

 「いや……俺としては上位職になっても能力値がみんなと同じか下回ってんのがちょっと………」

 「そうか?それで強弱が決まるってわけでもなくね?前回お前がそれを証明したじゃんよ」

 「それは、言えてますね………(こいつ、たまに核心を突くこと言ってくるな………)」


 雅哉の意図してか分からないフォローにたじろぐものの、評価されてるのは悪い気分じゃない唯我だった。


 各自ステータスのチェックが終えたところで、一行は第二回の異世界冒険を始めた。しばらくは都市が存在する地を探しつつ、魔物の討伐数を稼ぐ方針をとることにした。


 そして一行は、ゴブリンおよびホブゴブリンの大群と遭遇した。

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