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「第二回の始まり」2

 前回同様、前衛が璃音と征司とひかり、中衛がシェリアイと一葉、後衛が雅哉、そして唯我は遊軍という布陣を組んで、プレイヤー一行は魔物ゴブリン・ホブゴブリンの群れとの戦いを繰り広げた。

 近接戦に特化した璃音と征司の活躍により魔物の群れはあっという間に玉砕した。あとは三人が討ち漏らしたのを中衛と後衛が狩るという、戦いというより作業に近いものとなった。

 一葉の弓矢、シェリアイと雅哉の魔術にゴブリンは右往左往したまま狩られていtった。


 (…っておい!このままだとまた俺だけ討伐数ゼロで終わっちまうだろ!)


 雅哉と同じ後衛から状況を眺めていた唯我は、ゴブリンの数が着実に数を減っていくことに焦りをおぼえ、討伐数を確保しようと単独でゴブリンを討ちに出た。彼が狙ったのは左端で硬直しているゴブリンだった。


 (何だよ……俺を無視して立ちぼうけしやがって、バカが…!)


 唯我を除くプレイヤーたちにしか気をとられてないゴブリンたちが狙い放題と喜ぶ一方、自分を脅威と捉えてない眼中にないのかと憤る自分唯我がいた。


 「おらぁああ!!」


 そんな感情を吐き出しながら、魔物の骨でつくった槍でゴブリンのがら空きの脇腹を抉り刺した。ゴブリンは短い悲鳴を上げ、あっさり絶命した。すると悲鳴を聞きつけ仲間の死を見たゴブリンとホブゴブリンが、一人でいる唯我にヘイトを向け、彼の方へ駆けだした。


 「孤立してる俺を集中して狙うとか、まるで弱い者虐めをしてるみたいだな!そういう狡猾さはゴブリンらしいというか―――」


 人間らしい――。


 迫りくるホブゴブリン含む魔物の群れに唯我は恐れるどころか笑ってみせ、ついさっき仕留めたゴブリンの死体をその仲間たちに投げつけてやった。ゴブリンたちが怯んでる隙に唯我の方から距離を一気に詰めにかかった。


 「風香さん、こっちにバフお願いします!」

 「分かった!敵の弱体化は必要かい!?」

 「いいです、強化呪文バフがけだけで十分ですっ!」


 手短なやり取りを経て唯我はシェリアイから「付与呪文」をバフがけしてもらい、身体能力値を著しく上昇させる。いつも以上に漲ってきた力に高揚感をおぼえつつ、手にしている槍を投擲した。槍はホブゴブリンの眉間あたりに命中、脳をも貫通していた。

 群れのリーダー格であるホブゴブリンが殺されたことでゴブリンたちの狼狽はピークに達していた。


 「群れのリーダー格を失った途端ダメになるところ、そっくりだな……と!」


 浮足立つゴブリンたちを、自分が通っている学校の陽キャグループと重ねて、馬鹿にしたように笑う。同時にその陽キャグループ…緒方たちに絡まれた時のことを思い出し、苛立ちを露わにする。

 さらには出発前にやったステータスの見せ合いによる鬱憤も再燃して、苛立ちを募らせる。弱い職業のせいで自分と他のプレイヤーたちとの身体能力における格差を思い知らされた、その腹いせをゴブリンたちに全力でぶつけ、殺しまくった。


 「おらあ!」ズバッ「ギャ……ッ」

 「死ねっ!」ザシュ「ギュエ!」

 「群れなきゃ何も出来ない、雑魚が!」ドスドスッ「ゴギャ……」


 やみくもに攻撃してるように見えて(手にしてる武器は軍用ナイフに似た料理包丁)、その実相手の急所を切り裂き、刺し貫いていた。スキル「料理人の目利き」でゴブリンたちの体の構造が手に取るように分かる唯我にとって、急所を当てることなど容易の範疇だった。


 (はは、全員殺せちゃった。風香さんのバフがけがあったからとはいえ、俺もこれくらいのこと出来るようになってんのな)


 一人で計五体の魔物をあっという間に討伐したことに、唯我は自身の戦闘力が向上していることを実感した。

 そんな彼の活躍を見ていた璃音とひかりは、


 (前回もそうだったけど、やっぱり強いわね、六ツ川あいつ………)

 (訳わかんないくらい強いなあ、六ツ川くんあの子……ちょっと気にくわないけど)


 唯我が強者であると評価したのだった。


 「あたしも、負けてられないよね!」


 唯我に触発された璃音は、少し離れたところにいるホブゴブリン目がけて、剣を振るった。


 「くらえ、『真空斬り』ぃい!!」


 剣の間合いから離れた敵に当てる遠距離への斬撃を飛ばし、ホブゴブリンの胴体を分断してみせた。


 「マジか!璃音ちゃんもそういう遠距離攻撃できんのかよ、いいなあ!」


 璃音の「真空斬り」を見た雅哉は羨ましげにそう言いつつ、中級の魔術をホブゴブリン目がけて撃ち放っていた


 『火炎弾フレイム・ブレット


 一度に十発の火炎の弾がホブゴブリンを撃ち抜き、蜂の巣と化した。


 「――!征司、ホブゴブリンがそっちに行った!」


 シェリアイの声を聞いて、征司はこちらに向かってくるホブゴブリンに防御の構えをとった。魔物の攻撃が振り下ろされるのに合わせて、武闘家スキル「柔体術」を発動し、タイミング良くガードに成功。


 「ぬんっ」


 「柔体術」の本領はガードした相手の攻撃を跳ね返すことにある。征司の掌に命中したホブゴブリンの拳が自身の顔面に激突する。思わぬ反撃によろめいたホブゴブリンは足払いをくらって地面に倒れ、がら空きとなった魔物の胸部に征司の「剛体術」による下段突きがモロに入った。胸椎が破壊され心臓も破裂したことで絶命したのを確認して、征司は「終わったぞ」とシェリアイたちに告げた。


 「ひぇえ~、頼もし過ぎる怪物味方が勢ぞろいしてると、やっぱ負ける気がしないっすねー。何だか魔物側が可愛そうにすら思っちゃうっす」


 戦闘が始まって5分程でゴブリン&ホブゴブリンの群れの撃破に成功した。


唯我:魔物討伐数5体

一葉:魔物討伐数2体

璃音:魔物討伐数5体

シェリアイ:魔物討伐数2体

ひかり:魔物討伐数2体

雅哉:魔物討伐数3体

征司:魔物討伐数5体


 (個人での魔物討伐数ノルマ達成まで、残り15体。王が指定した魔物を俺が討伐した場合ならあと14体とも言える。この程度の魔物ばかりで良いなら、一つ目のミッションはすぐに達成出来そうだ)


 初日で5体討伐に成功したことから、指定魔物の討伐という例外を除けば魔物討伐ミッションは容易であると唯我は確信を得ていた。

 それから一行は未踏のエリアを進み続け、マップの明瞭化に努めつつ遭遇した魔物たちを討伐していった。一日目が終わる頃には全員魔物の討伐数が10を超えていた。

 ステータスも唯我を含む全員が上昇し、ランクが上がった者もいた。


 「みんな、お疲れ様。前回唯我たちが見つけてくれた『セーフポイント』なるものが見つかったんで、少し早いが今日はここで朝まで休むとしよう」


 夕焼けが差してまだ間もない時間帯だが、一行はここで一日目を終えることにした。「セーフポイント」は魔物が寄り付かないことが保障されている、プレイヤーにとっての安全地帯を指す。マップ画面には緑色の点として表示される。


 「今日ずっと未踏の地を進んだけれど、都市は一つも見つからなかったね。明日の探索で見つかるといいんだけど」

 「あのゲームマスターが俺たちにミッションをクリアさせる気があるのなら、明日か明後日あたりにでも見つかるところにあると思うんですよね」

 「ゲームマスターか……彼は何者なんだろうね。今回のミッションを達成した時の質問で尋ねてみようか」

 「良いですね。俺も気になってますし。ところで話は変わるんですけど、今俺たちがいる場所から結構離れたところにあるマシロタウンの周囲にも、白い靄が結構ありますよね」

 「そうだね。明日はマシロタウンの周囲を探索したいということかい?」

 「それはそうなんですけど、全員で行く必要は無いかなぁと」

 「そうか……二手に分かれて効率良く都市を探そうってことだね?」

 「そういうことです」

 「え?明日二手に分かれて行動するの?」


 唯我とシェリアイの話を聞きつけた璃音が割って入る。


 「あたしは賛成かな。シェリーさんが言ったようにその方が効率良さそうだし」

 「あざます。まあ、ファストトラベル機能とかついてたら二手に分かれるとか手間は不要で済むんですけどね」

 「ファス……何?」

 「あ、ファストトラベルってのは、一度行ったことある場所に一瞬で移動出来る、ゲームでよくあるシステムのことです」

 「あーゲームの話か。ゴメン、あたしそっち系の知識疎くてさー」

 「いえ、俺の方こそ専門用語ばっかり使ってすんません」


 営業マンを思わせる笑顔で応じる唯我に、璃音は何か引っかかる感じの顔で彼を見た。


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