「えーと、何か?」
「前も思ってたんだけど、六ツ川って何でいつも敬語なの?あたしたちって高1のタメだよね?」
「え?えーと……気が付けばそういう話し方しか出来なくなってたからとしか、言えない……かな?」
「またそれかー。ヘンなの」
「えぇ、変ですかね?」
「うん、ちょっと。あたしの同級生なんか先輩にもタメ口使ってる子とかいるくらいだからね」
「ふふっ、親の教育かあるいはアニメ・ドラマか何かの作品にふれて自然とそうなってるだけなのかもね。私は気にしなくていいと思うよ」
「あー、そういうのもあるのか。ごめん六ツ川、今の話忘れて」
「別に気にしてないですよ」
やがて日が沈んで夜を迎え、唯我が作った料理で夕飯を済ませ、第二回の一日目を終えた。
二日目の朝。シェリアイは唯我と昨日話して決めたことを、全員に伝えた。璃音はもちろん、残りのプレイヤーも彼女の提案に皆賛成した。
二手に分かれるということで、出発する前に二つのチームを形成した。唯我・一葉・璃音・ひかりの唯我チーム、シェリアイ・雅哉・征司のシェリアイチームという構成となった。
(うぅ、また六ツ川くんと同じ
前回のこともあってか、ひかりは唯我と行動を共にすることに若干抵抗を覚えていた。その唯我も少し戸惑った様子で璃音とシェリアイ交互に視線をやりながら疑問をぶつける。
「俺がリーダーで良いんですか?実力的に金澤さんが妥当と思うんですけど」
「単に戦闘力で見れば璃音が適任だろうね。けれど前回の唯我の魔物討伐における活躍、今回も昨日の私との話し合いから考えて、君がチームのリーダーに相応しいと思うよ。想定外の事態への対処や難しい判断においては唯我が一番上手くやれると思ってる」
「そうですねー、あたしも六ツ川がリーダーってことに文句無いですし。難しいこと考えて指示出すの、あたし割と苦手だから。てことで、そこのところ全部お願いね、
「え、まあそういうことなら、俺が仕切ってくことにしますけど」
璃音とシェリアイに認められた唯我は一葉とひかりにも確認をとる。二人とも了承の意を込めた首肯で応えた(ひかりは若干苦い顔をしていた)。
「六ツ川のこと、あたしも結構高く買ってんだから、しっかりお願いね!」
「お、おう……はい。ちゃんとやります」
「別に言い直さなくていいし」
そうして唯我チームはマシロタウン方面(南)へ、シェリアイチームは未踏エリアの北に向かってそれぞれ行動を開始した。後者が未知で危険が多いかもしれないルートを選んだのは危険な役目は大人の自分たちに任せて欲しいとシェリアイと征司たっての希望から。雅哉も異論はなく、むしろ乗り気だった。
唯我チームは昨日来た道から少しズレた道…マップで不明瞭となっている箇所を辿ってマシロタウンへ下って行った。
その道中の森で魔物と遭遇したが、低級ばかり相手だったので四人で難無く突破出来た。
昼過ぎに第一回に訪れたマシロタウンに到着し、四人はそこで一時休憩をとった。
「えぇ~?おかしくないっすか?ランク15になったのに、職業の昇格がこないんっすけどー!」
「わ、私も……今ランク16になってるんだけど、昇格してない……です」
休憩時間、一葉とひかりはそれぞれステータスを見せて、どちらも職業の昇格がないことを打ち明けていた。
「ランク15になったら六ツ川くんみたいに上級職になれると思ってたのにー!」
「あれじゃないですか、俺みたいな非戦闘職はランク15で昇格するけど、そうでない場合……みんなみたいな普通の戦闘職はもっとランクを上げないと昇格しないのかも。少なくとも17以上は必須じゃないですかね」
「へえー?それじゃあ強い職業ほど昇格させるにはランクたくさん上げないといけないんだ。あたしの場合、20以上とか必要なのかな」
「たぶん、そうなるんじゃないですかね」
マジかーと璃音は気だるげに息を吐いた。ちなみに璃音の職業ランクは現在13。
午後からはマシロタウンから西の方角(前回はそこから南方角から町にやってきたので、そこは避けて通った)へ進んだ。未踏領域だった先は荒野と砂漠が混じった地が続いていた。
出現する魔物は見慣れたゴブリンのほか、キツネと似たフォルムのヤードフォクス、カニのような形の手のスナサソリ、石あるいは砂に紛れる迷彩機能をもつレオスネークなど初めて見るものも多くいた。
「あのキツネ魔物はすばしっこいんで、足場を不安定にさせて機動性を奪ってやりましょう!」
「あのサソリ魔物の尻尾には毒がありそうなんで、背後はとらない方が良いです!」
「あのヘビ魔物、國崎さんの近くの石に擬態しました!左が魔物です!」
唯我の柔軟な対処と指示出しのお陰で、全員初見の魔物相手にも大事に至ることなく戦闘に勝利することが出来た。
「すごいね六ツ川君、全部六ツ川君の言う通りに対処したお陰で、無事に突破出来ました。ありがとうございます」
「いえ、俺普段からこういう敵が出てくるゲームとかやってるんで(まさかゲームと同じようになるとは思ってなかったけど)」
一葉に頭を下げての礼にぎこちなく返す唯我のやり取りを聞いた璃音は「最近のゲームってこんなのが出てくんだー」と感心をこぼしていた。
そうして荒野と砂漠が混じったエリアを進むこと数時間(途中見つけたセーフポイントで小休を挟みながら)。唯我チームは明らかに人の手によって拓かれたものと思われる道を発見した。
その道を辿って行くと、白い城壁で覆われた国らしき人里を発見した。
「これってもしかしなくても……“当たり”じゃないっすか?」
「絶対そうだよ!早速行こう!」
逸る気持ちを抑えられず城壁の方へ駆けだして行った璃音とひかりに「あ、ちょっと…!」唯我と一葉も後を追った。とはいえ彼もここが「当たり」だろうとほぼ確信していた。
「おお、あなた方は勇者様…!ようこそ、『騎士国家シオンゲイト』へ!」
プレイヤーたちはこの世界では勇者として認識されており、手厚く歓迎してもらえるようになっている。前回のマシロタウン同様、この小国でも唯我たちに歓迎の言葉をかけてきた。
「あのお、どうして皆さんは見ず知らずの私たちを歓迎してくれるんすかね~?なんて……」
「それは、昔とある偉大な預言者があなた方勇者によってこの世界が救われると予言されたからです。それ以降あなた方勇者には手厚い歓迎とおもてなしをしなければならない。そういうしきたりが確立されました」
「な、なるほど~。ちなみにどうして私たちが勇者だって分かったんすか?」
「あなた方が勇者かどうかは、素顔を一目みただけで分かることが出来ますが、何か?」
「そ、そうっすか……いえ何でもないっす。歓迎感謝しまーす」
城壁の真横には入国審査を行う検問所が設えてるが、
『三つの都市を全員で来訪する:0/3』
「あれ?ここって都市だよね。なのにどうして0のままなの?」
「このミッション、
まあ、彼女たち全員が死亡してたら、これで一つ達成したことになるんですけど」
「え、縁起でもないこと言わないで下さい!それで、私たちが都市に着いたこと、シェリーさんたちにも伝えられたりは出来るんでしょうか?」
「えーと、マップで見る限りだと私たちがいる場所の地名まで表示されてるから、シェリーさんたちにも分かるんじゃないっすかね。彼女らの方も踏破した後の地形が鮮明になってますし」
別行動でもそれぞれが踏破した地形は片方それぞれが把握出来るようになっている。シェリアイチームは唯我チームが一つ目の都市に着いたことは分かっているだろうし、唯我チームもまた彼女たちが踏破した地形が分かるようになっている。
この日都市を来訪したのは唯我チームのみで、シェリアイチームの収穫は特に見られなかった。その代わり彼女たちの魔物討伐数が皆半数を超えていた。唯我チーム以上の頻度で魔物戦と遭遇したことが伺える。
市長のもてなしで唯我たちは宿を無償で使わしてもらい、そこで夜を過ごすことにした。
(そういやここって「騎士国家」って言ってたな。てことはここには「騎士団」がいる可能性が高いな。騎士団と接触することもミッションの一つだし、明日会いに行ってみよう)