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「非日常後の日常」3

 「はぁ~あ、これだから同年代の奴ら……特に陽キャ男子は、人に迷惑かける馬鹿ばっかだな。高校選びミスったなー、高校生にもなってあんな低脳な馬鹿がいるって分かってたら、こんな学校選ばなかったての。

 もうちょっと偏差値高いところ選ぶんだった……」


 帰り道、未だに沁みる唇にハンカチを定期的に当てながら、唯我は緒方グループ馬鹿どものことで忌々しげに舌打ちする。しかし彼の不機嫌な表情は、今日のことを思い返すことで次第に愉悦なものへと変わっていった。


 「っはは……こっちの世界じゃ俺たちプレイヤーってクソ強設定なんだな、すげー」


 教室で陽キャグループを力でねじ伏せてみせた時、唯我はゲームの対人戦で圧倒していると同じ万能感や優越感に浸っていた。

 ゲームを除けばどれをやっても平凡で退屈な現実だったのが、今ではゲームの主人公みたいに強キャラムーブがかませられる。人より優れて強い要素が増えたことに、これまでにない悦に浸っていた


 「案外俺に合ってるのかもな、異世界。命懸けとはいえ、悪くないじゃん!」


 第二回もクリアすればもっと強くなれる。そうなるのなら「次」が楽しみに思える唯我だった。






 「あ、出てきた………おーい、一葉ちゃーん!」


 同日の放課後…唯我が下校してから一時間ほど経った夕刻。校舎から出た一葉を迎えたのは、こちらに親しげに手を振りながら呼びかける璃音だった。


 「璃音、さん?どうしてここに……?」

 「今日久々に部活休みだったから、来ちゃった!ほら、あっちの世界じゃ連絡先交換とか出来なかったから、こうして直接顔合わせるしか会う方法が無くてさー」


 誰?他校の生徒?あの制服、同じ学区の女子高の……すげえ可愛いなど、周りから注目を浴びながら、一葉は璃音と一緒に下校した。途中でファミレスに寄り、色々な話をした。


 「へえー、一葉ちゃんの学校の手芸部ってそういう物も作ったりしてるんだー?あ、お願いしたら個人に向けた編み物とかヘアアクセサリーとか作ってもらえるの出来ちゃう?」

 「あ……うん。うちの部活ではそういう事もやって良いって、顧問から許可もらってるから、出来るよ。何か作ってほしいものあるなら言ってくれれば」

 「やったー!じゃあこういう柄のリボン作れる?今付けてるやつ大分ゴムが傷んでて、替えたいって思ってたのよねー」


 ジュースを飲みデザートが届くのを待ちながら、一葉に新しいリボンを作ってもらう約束をした璃音は、異世界から帰ってきてからの一週間についての話をした。


 「やっぱり一葉ちゃんも運動出来るようになってたかー。みんなに驚かれたんじゃない?」

 「う、うん。今日の体育の授業もつい目立ってしまって………」


 異世界の力の引継ぎで一葉の身体能力も現実世界では人並み以上となっていた。璃音は元より運動神経が良かったため、より一層向上していた。それにより他の運動部の助っ人を依頼されるようになり忙しくなったと、気だるげに愚痴をこぼした。そんな璃音の話を、一葉は楽しそうに聞いていた。


 他の四人もあれから異世界の力の引継ぎ恩恵を実感していることだろう、出されたデザートを口に運びながら璃音は唯我の様子もそれとなく聞いてみた。一葉は異世界から帰ってきた後、一緒に下校した時のことを話した。


 「えーマジ?六ツ川そんなこと言ってたんだ。異世界でもそうだったけど、あいつって変わってるよね」

 「う、うん…。同じクラスになって半年近くになるけど、私も六ッ川君のこと全然知らなくて」

 「六ツ川っていつも誰ともつるまず一人でいるんだってね?一人でいるのが好きなタイプなんじゃない?たぶん」


 一葉の話を聞いても、璃音は唯我のことが分からないままでいた。今までいなかったタイプの男子、未知数の存在とも言える。

 それ故に少し興味がそそられる人間であると認識もしていた。


 「……次のミッションが来たら、あっちの世界でも一葉ちゃんたちを守ってみせる。絶対に」


 でも……と璃音は一葉の手を包み込むように握り、


 「私がピンチになった時は、一葉かひかりさんにも助けられたいかなって。もちろん六ッ川あいつにも」

 「うん、助けるよ。絶対に…!」

 「次も頑張ってミッション達成して、またここに帰ってこようね」


 一葉も璃音の手を握り返し、みんなで次も達成しようと誓い合った。その後お互い連絡先の交換もし合った。




 それからさらに一週間経った日の夜、唯我たちプレイヤーに非通知のショートメッセージが届いた。


 「来やがったか。今から24時間後……明日の夜、またあの世界にとばされて、ミッションをこなさないといけない」


 宛先が「ゲームマスター」と表記され、メッセージの内容は『今から24時間後、第二回のミッションを開始するにあたり、プレイヤーの方々を異世界に召喚いたします』と簡素なものだった。


 「前回より強い敵が出て難易度が上がるってだけなら、まだ何とかなりそうだけど、誤解を招くクセのあるやつとなると、色々考えないといけねーよな。

 ま、何とかなるっしょ。俺より強い協力者プレイヤーが揃ってるわけだし」


 実際に体験した世界観と似たダーク要素有りのアクションゲームのプレイに熱中しつつ、楽観的にそうこぼす唯我だった。


 ゲームマスターからのメッセージが届いてから、23時間と55分が経過。自室にて簡単なストレッチで体をほぐしながら、唯我は「その時」がくるのを待っていた。


 「あと、一分………」


 いつもならゲームプレイあるいはお気に入りのチャンネルの動画視聴でもやっているところだが、今夜はそういう気分にはなれなかった。もうすぐ日常からかけ離れた非日常…命を懸けた戦いゲームを目前に、いつも通りを過ごす気は起こらなかった。


 「24時間経った………くる―――!」


 指定した時刻になった瞬間、前回と同様の強い光が視界いっぱいに広がる。予想していても目を瞑ってしまう唯我だった。


 ―――――――――


 そして目を開けると、景色が青い空と白い雲が広がるものへと変わっていた。足についてるのも自室の床ではなく、雑草と砂利が混じった地面へと変わり、見回すと前回と同じ奇怪な形の木や植物、虫が見られる。

 そして唯我の服装も部屋着から村人風衣装へと変わっていた。


 (スタート地点は毎回ここで固定される仕様なのかな)


 そう考えていると自分以外の人間…自分と同じ選ばれしプレイヤーたちと何人か目が合った。



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