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第2章 魔法騎士と薔薇の秘宝

囚われの魔物と魔法騎士

 魔法騎士には、ちょいと因縁がある。

 オレをここに置き去りにしやがったのは、魔法騎士だった。


 つーても、そもそもの元凶は、鶏の蒸し焼きだ。


 とあるでかい街の場末の酒場がオレのねぐらだった。

 たいした力は持っちゃいねぇが、姿隠しの魔法だけは得意でな?

 姿を消して、こっそりとお客の料理を勝手にお裾分けしてもらうのが日課だったんだよな。

 で、いつものように姿を消して、配膳されたばかりの鶏の蒸し焼きにガブリと一口食らいついたが運の尽き。

 気づいたら、口の中の鶏肉ごと、狭くて暗い場所に閉じ込められていた。

 どうやら、蒸し焼きを頼んだのは、腕の立つ魔法使いか魔法騎士だったみてーでな。

 いやー、油断したぜ。

 普段は、飲んだくれの傭兵崩れみたいな連中しか来ないような、場末も場末の酒場だったからよ。

 蒸し焼きに誘われるまま、注文客がどんなヤツか確かめないまま、手を出しちまったんだよな。

 いやいや、反省、反省。


 それから、しばらくは真っ暗やみでの囚われ生活だ。

 小型の魔物を生け捕りにする為の魔法道具かなんかに閉じ込められちまったんだろう。

 手も足も出ねぇから、諦めて昼寝して過ごしてたぜ。

 だから、真っ暗囚われ生活がどのくらい続いてたのかは曖昧だ。

 そんな真っ暗生活の終わりは、突然訪れた。

 外の情報は一切入って来なかったからよ。

 何がどうしてそうなったのか、詳しいことは分からねぇ。


 なんか知らんが、視界は光を取り戻して。

 明るくなったなと思ったら、視界の端に盛大に吹き出す赤が見えた。

 背中からどっかに着地して、身を起こすと、薔薇人間ならぬ薔薇甲冑が見えた。

 巻きつく白薔薇の下に見える青銀の甲冑は、魔法騎士の甲冑だ。

 オレが住んでた国の魔法騎士だ。

 蒸し鶏の注文客と同じヤツかは分からねぇ。

 魔法道具にされたオレを買い取っただけかも知れねぇからな。

 どっちにしろ、本人に聞くことはもう出来ねぇ。

 噴水になった甲冑は、中身ごと兜をなくしちまってるからな。

 まあ、大方生け捕りにしたオレに呪いの肩代わりをさせるつもりだったんだろうよ。

 結局、そいつは失敗して、発動途中の不慮の事故だったのか何なのか、オレは魔法の檻から解放されて、宙を舞うはめになった。

 落下地点は、魔法人形の頭の上だった。

 特等席から、命が吹き出していく様を眺めていた。

 えらい目にあったが、なかなかおもしれぇ見世物のありつけたとこの時は喜んでいた。

 やがて、甲冑の中の赤が出尽くすと、出がらしの甲冑は白灰の上に放り捨てられ、白灰と同化していった。

 赤い噴水は楽しんで見ていられたが、さすがにこいつはゾッとしたね。

 もしや……と思って人形の頭上から探してみたんだが、オレを閉じ込めていた魔法道具らしきものが何処にも見当たらねぇんだよ。

 つまり、あれだ。

 出がらしの甲冑同様、白灰になっちまったってことだ。


 たぶんではあるが、閉じ込められたままだったら、オレも魔法道具と一緒に白灰の砂になっていたんじゃねーかと思う。


 無事だった理由は、今でもよく分かってねぇ。

 オレが、魔物だからかもしれねぇ。

 落ちた先が魔法人形の頭の上だったから説もある。

 その場合、魔法人形はなんで無事なのかって話ではあるんだがな。

 現状だけの話をするなら、コイツは白薔薇の魔力を魔法動力の供給源にしているから、眷属としてみなされて存在を許されてるとも言えるが、そうなるまでの過程が分からん。

 一朝一夕で眷属認定されるとも思えねーしな。

 普通は、そうなる前に白灰になっちまうはずなんだが、そうはなってねぇんだよな。

 オレもコイツも人外だからかね?

 うん、分らん。


 さて、さて。


 何でいきなり昔語りが始まったのかと言えば、答えは簡単。

 二人目のお客人が魔法騎士だったからだ。

 白銀の鎧の魔法騎士。

 オレを呪いに巻き込んだ魔法騎士とは違う国の魔法騎士だ。

 兜は被ってねぇ。

 金髪頭の苦み走った中堅どころって感じの騎士だ。

 目にはまだ、理性の光が宿っている。

 魔法騎士は、呪いの魔力に対して、ある程度の耐性がある。

 ま、なんかそういう訓練とかしてるんだろうな。

 野盗とは、ひと味違うぜ。


 魔法騎士は厳しい表情をしていた。

 背後の茨壁からは少し距離を取りつつも、迂闊に白薔薇へは近寄らない。

 まー、慎重だろうが性急だろうが、最終的に行きつくところは一緒なんだがな?

 それでも、魔法騎士は、たまーにではあるが、オレが知らん情報や面白い考察なんかを落としていってくれるからな。

 オレとしては、歓迎だ。

 じっくりやってくれ。


 魔法騎士は目を眇めて、まずは白薔薇を検分した。

 そして、低くて渋めの声でこう言った。


「その白薔薇が、精霊にして秘宝の正体というわけか」


 そーの通り。ご明察。

 やっぱ、野盗風情とは、ひと味もふた味も違うねぇ。

 ま、この程度は魔法騎士としちゃ平均点だがな。


「持ち帰れるものならば持ち帰れと言うのが王命ではあったが、やはり、討伐するしかないようだな」


 魔法騎士は、鋭い声で静かに宣言した。

 野盗とは段違いだが、魔法騎士としちゃ、珍しい展開じゃねぇ。

 だが、まあ。

 出来るもんなら、ぜひともお願いしたい。


 魔法騎士とは因縁がある。

 オレをここに連れ込んで、結果的に置き去りにしたのは魔法騎士だからな。

 だからさあ。

 責任取って、呪いを何とかして、オレをここから出してくんねぇ?

 ま、オレをここに置き去りにした魔法騎士とは、国も違えば時代も違うしで、縁もゆかりもねぇってことは分かってんだけどよ?

 それは、それってヤツだ。

 ほら、魔法騎士繋がりで、なんつーの? そう、連帯責任ってヤツだ。

 人間は、好きだろ? そういうの?

 だから、頼むぜ。

 相手は精霊だし、人間風情にゃ、難しいとは思うけどよ。

 ここに招待される客人の中で、何とかできそうなのは、おまえら魔法騎士くらいのもんなんだよな。


 そんなわけで、応援してるぜ?


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