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魔法騎士と魔法人形

 魔法人形と魔法騎士ってのは、ちょいと似ているよな?

 いや、字面がってのもあるがよ。

 どっちも、主に忠実だろ?


 魔法騎士の方も、なんかこう、感じるモンがあったんだろうな?


 討伐宣言をした魔法騎士は、一歩、二歩……と前に進み出て、剣の切っ先を白薔薇に向けた。

 そのまま切りかかって来るのかと思ったが、そういうつもりじゃねぇみたいだ。

 魔法騎士は、まあ得手不得手はあるんだろうが、剣と魔法の両刀遣いだ。どちらも、標準以上に達していなければ、魔法騎士にはなれねぇって小耳にはさんだことがある。まあ、家柄やら血筋やらが絡んだ例外はあるらしいけどな?

 この魔法騎士が、剣と魔法のどちらを得意としてるのかは知らねぇが、精霊相手にいきなり剣で切りかかるってのは、まあ悪手ではある。

 剣そのものに特殊な魔法が仕掛けてあるってんなら、話は別だけどな?


 だが、まあ。特攻を仕掛けるつもりじゃあ、ねぇみえーだな?


 魔法騎士は、切っ先を白薔薇に向けたまま、視線だけをツイと上げ、魔法人形と目線を合わせた。

 視線が絡まり合ったのかどうかは知らねぇ。

 魔法騎士の視線は真っすぐにこっちに向けられている。

 だが、魔法人形の造りモンの瞳が何を見てるのかは、オレには分からねぇ。

 たぶん、魔力が集まりつつある剣の先に注意を向けてんじゃねぇかね?

 いや、確かめればいいだけのことなんだけどよ。

 人形と騎士の目が合ったかどうかなんて、どうでもいい話だろ?

 注目すべきは、魔法騎士の動向だぜぇ!

 ま、とにかくだ。

 魔法騎士は、魔法人形にこう語りかけた。


「主を失くした魔法人形か。我が国のものではないようだが、何処かの国の魔法騎士に置き去りにされたのであろうな。哀れな…………」


 あー、いや。こりゃ語りかけたっていうよりは、独り語りの類だな。

 哀れなのは、魔法人形じゃなくて、おまえさんの方だしな?

 んー、いや、つまりこれは、自己投影した上での自己憐憫ってヤツなのかね?

 勝手に哀れまれた魔法人形の方を今度こそ見上げてみるが、こっちは相変わらずのお綺麗な澄まし顔を崩さず、涼しい面してやがる。

 ま、魔法騎士が向けてくる感情なんて、どこ吹く風だろうよ。

 それに対してどうこう思うような機能は、そもそも備わっちゃいねぇんだからな。


「ふう。最後の薬も、この身に流れる血と魔力によく馴染んだようだな」


 魔法騎士は、剣を白薔薇に向けたまま、大きく息を吐いた。

 感傷のお時間はお終いのようだ。

 しかし、経口丸薬ってな、そんなに早く効いてくるもんなのかね?

 小物とはいえ魔物のオレには必要のないモンだが、オレは人と寄り添って暮らす魔物だからな。割とこういう知識はあるのよ。

 まあ、丸薬に吸収を速める魔法でもかけてあったのか、もしくは。

 意味もなく白薔薇に剣を向けていたワケじゃなく、剣を抜いて、薬の効果を馴染ませるための魔法でも使っていたのかね?

 魔法騎士にとっての剣ってのは、杖の役割も果たすからな。

 しっかし、どんな薬なんだろうな?

 ちゃんと効果があるといいんだがなー……。


「さて、この程度の魔法で打倒せるとは思っていないが、それでも。少しでも弱体化できれば、薬の効果もより高まるだろう。大陸の安寧のためにも、どうか大人しく眠りについてくれ。来たれ、炎よ! 悪しきものも聖なるものも、等しく焼き払え!」


 …………あ、あーあ。やっちまったよ。

 剣の先に、魔力が集まっていく。

 だが、その魔力が呼んだ炎が噴き出す前に、剣は白灰の上に落ち、白灰に崩れる。


「……………………っお、ぐぅっ……!」


 そして、剣の持ち主である魔法騎士は、一本の白薔薇に胸を貫かれ、一本釣りされて、白薔薇の園の真上に運ばれてくる。

 いやー、ものすごい瞬発力だったねぇ。

 目にもとまらぬ早業だったぜ。

 薔薇の…………精霊だから、炎に弱いと踏んだんだろう。

 たぶん、そいつは、間違っちゃいねぇ。

 だが、だからこそ、魔法騎士は手痛い反撃にあった。

 弱点を突かれそうになったら過剰に反応しちまうのは、人も精霊も同じってこった。


「ふ、ふはっ。やは……り、小手先の業は……効かない……か。だが、本命は……この俺自身だ」


 絶体絶命のはずの魔法騎士の目からは、まだ光は失われちゃいなかった。

 命の光って意味でもあるが、希望の光って意味でもある。

 魔法騎士は、まだ諦めちゃいねぇみてぇだな?

 もしかして、さっきの丸薬の仕込みか?

 自爆でもすんのか?


「ふ、ふふ……っ。渇きに……対抗する、ための、契約の対価として、求められるのは、魔力持つ者の……血と、相場が、決まっている……」


 魔法騎士は、切れ切れに語った。

 だが、まあ、確かにその通り。

 魔力持つ者の血って言うのは、人ならざるものに力を与えてくれる。

 少しでも魔力があれば何でも構わないってヤツもいれば、強い魔力が込められた血を求めるヤツもいるし、なんか特定の魔力じゃなけりゃ受け付けないってな編食のヤツもいる。

 薔薇の精霊は、偏食系なんだろうな。

 魔力の違いとか、オレにはサッパリなんだがよ。

 まー、なんにせよ、オレみたいな小物には縁のない話だ。

 小物が下手に血に手を出すと、血に狂っちまうとかいうからな。

 つーか、そもそも、魔力ある人間の血を頂くとか、オレには難易度が高すぎるしな。


「くっ……ふっ…………。毒餌となった、この血と、魔力っ。存分に、喰らうが、いいっ……」


 誇りと狂気が混じり合った瞳が魔法人形を捉え、フッと一抹の憐憫が混じり、そして――――。

 薔薇の儀式は完了した。

 降り注いだ赤は白に吸われ、抜け殻は白灰に崩れた。

 毒を振る舞われたはずの白薔薇は、特に苦しがるそぶりもみせず、依然として楚々と咲いている。


「毒餌のお味は、どうだったんかねぇ?」

「少々、不純物が混じってはいましたが、血と魔力がもたらす恩恵でほぼ相殺されますね。客人のすべてに毒が仕込まれては困りますが、今期については問題ないでしょう」


 白薔薇のヤツが答えを返してくれるわけもないし、ひとり言のつもりだったんだがな?

 なぜか、魔法人形から答えが返って来た。

 なんで、おまえさんにそんなことが分かるんだ、なんて野暮は聞かねぇ。

 オレ同様、白薔薇の魔力を無断で頂戴して、ここに在る身だ。

 オレには、サッパリだが、なんかこう、感じ取れるものがあったんだろう。

 性能の差ってヤツだな。

 まあ、ほら、あれだ。

 魔力を感知するような機能が元々備わってるのかもしれねーしな?

 知らんけど。


 しかしまあ、魔法騎士ってのは、哀れなもんだな?

 命令一つで、自ら毒餌になりにくるとは、恐れ入ったぜ。

 主を失くした魔法人形と、一体どっちが哀れなんだろうな?


 だが、まあ。

 オレにとっては、朗報なのか?

 方向性は間違ってねぇみてえだし、薬の改良を続けていけば、いつか逆転もあり得るか?

 気の長い話にはなりそうだが、呪いからも解放も、少しは望みが出て来たかもな。


 てなわけで、魔法騎士様方の今後のご活躍にご期待申し上げるぜ。


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