久しぶりの再会を祝して、裏家業の人物でも安心して飲める酒場で二人は乾杯した。
そこは店主など居なくて無人なのだが、ちゃんとお金を払わなければ酒は飲めないという裏家業達の思いやりと野心を見抜いたシステムで、この酒場には法律などない。
ハンターや、裏家業、賞金首などという職業も、此処では互いに問わない。
それならば自警団に狙われそうなのだが、誰もが恐れるという「赤蜘蛛」というボディーガードのついた貴族がこの店をかくまっているので、誰も手出しは出来ない。この店に手を出すと言うことは「赤蜘蛛」は勿論、此処でつかの間の平穏を望む皆を敵に回すことになるからだ。
厄介な集団が、厄介に団結することほど、厄介なことはないと、自警団はこの店を見ないふりをしている。
「最初、名前を紙で見たとき、どっかで聞いたことあるなぁって思ったんだ」
陽炎はげらげらと笑いながら、リンゴ酒を口にして、一気飲みした。
一方劉桜は極上のビールを口にして、口に白ひげを作りそのままに陽炎へ笑った。
「まさかあの頃のガキが、こんな大層な有名人になっちょるとはな!」
「どうせ、あの頃は貧相だったよ。しょーがねぇじゃん? 飯なんて一日に一回出るか出ないかだったしさ?」
昔の酷い食生活を語ってるも語る方も聞く方も、懐かしげに笑い、それからまた乾杯と祝うだけ。
昔、劉桜と陽炎は囚人時代を過ごした。
劉桜は暴力で、陽炎は窃盗で収容所の牢屋に入れられて、その時に仲良くなり、そして二人は無事同じ時期に刑期を終えて、さよならをしたのだった。再会の約束などせずに。
「わしですら八しか痛み虫を宿せんのに、まさかなぁ……」
お前が? と未だに疑わしげな眼を、無遠慮に陽炎へ劉桜はやるが、陽炎はそれに半目でにやりと笑いかけて、頷くだけ。
記憶の中での年があってれば、この男はもう二十代前半の筈だが、少し子供っぽいと思って劉桜は、ふんと鼻で笑い、また酒を煽った。
「お代わりなど如何でしょうか、我が愛しの君」
そう言って、黒髪の美しいとまではいかないものの、物腰が柔らかめで顔が並より上という程度のウェイターが現れた。
黒い髪の毛に、黒い瞳。東洋系かと思ってしまいそうな程の、黒の美しさに包まれた男。
闇、そういう言葉を身に纏って生きているような男に見えた。
かといって暗いわけではなく、静かに包み込み安らぎを与えそうな空気を身に纏い、その様子が益々闇を連想させて、闇と言えば夜空、夜空のような男だった。
ウェイターなど居ない、この店には。
突然現れて、陽炎に親しげに、しかも変な呼び方で微笑む。
その笑みだけを見ればきっと第一印象は優しい人、で終わるのだが、その後に続く言葉に、嗚呼この男は……
「代金はいりませんよ、私が払っておきますので、後で貴方の愛でお返しを」
気障でナンパ師でそして、腐ったれたホモ野郎なのだなぁと劉桜は思った。
男が現れて幾分か嬉しそうな笑みをした後、呆れてる劉桜に気づいたのか、陽炎は男を殴り、金を渡して酒を持ってくるよう頼み、男が殴られた箇所を押さえながら苦笑を浮かべ酒を取りに行ってる間に説明する。