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襲撃者と剣の墓標

 俺とシミター使いは、何をするでもなく、墓地に佇んでいた。

 黒い月の光が、朝もやに揺れる墓標を黒く照らす。

 静寂が包む墓所に、転がる兵士の骸。

 そこに剣が墓標のように突き立てられている。


 シミター使いは、兵士の死体から剣を抜き取り、マジマジと見つめた後に、死体に突き立てていた。

 彼は墓標を建てているのか?

 死体に敬意を示して?

 そんな風に考えていたが、どうやら違うようだと気付いた。

 死体の懐や、足首に装備している小さなナイフや、予備ので持っているショートソードなども見て、死体に突き立てていた。

 しかし、一本のナイフは気に入ったようで、自身の腰ベルトに装着していた。


 そんな霧の立ち込める墓地に朝日が差す。

 赤い陽光を背に迫る「赤い影たち」を、俺もシミター使いも見つめる。

 影は総勢二十人か二十一か。

 皆お揃いの革鎧に何かのマークが入っている。

 墓地に入る前に隊列を整え、奴らは進入してきた。


「打て」

 その合図と共に、複数の矢が飛来する。

 墓地門前に陣取る奴らは盾と弓が交互に並ぶ陣形を取っている。

「愚か者どもめ、スケルトンの俺に、俺たちに矢など通じるか」

 肉の無い体を矢は通過していく。

 骨に当たるも、たいしたダメージも無く矢は逸れる。

 丸い骨に矢尻を見事に当ててみろ、骨の芯に。

 そんな事を考え、俺は手を広げ、的になるように軍の隊列に迫る。

 俺の背後には、シミター使いがひっそりとついてきている。

 俺でも注意しないと存在がわからないように気配を消している。

 何かのスキルなのかもしれない。


 弓隊に迫ると、盾を持った数人が押し寄せる。

 俺はなんとなく「そうしたほうが多くを殺せる」ような気がして、なるべく多くの盾部隊が集まるように、複数人の盾を蹴り、殴り、挑発するようにおどけて下がる。

 四人、五人、六人。

 盾を押し出し、迫ってくる。

 俺は盾部隊の中心で暴れていると、俺の頭を踏み、盾を踏み、シミター使いが


 飛んだ


 両手に持った二本のシミターを翼のように広げ、羽ばたくように盾部隊を飛び越える。

 弓隊まで、後数歩といった場所に着地したシミター使いは、二刀流のシミターで舞う。

 時に両手を広げ、時に二本を重ねるように。

 右に左に回り、前後左右に動き、上下に左右にシミターを振るう。

 独特のリズムで、革鎧を切り裂き、舞う。


 あいつ、俺との戦いで一本のシミターしか抜かなかったのは、手を抜いていたのか。

 僅かな怒りがこみ上げる。

 それを盾を持った兵士の盾に拳で当たる。

 盾を持った兵士たちも、背後で渦巻くシミターに巻き込まれまいと注意力が散漫だ。


 後はもう、俺とシミター使いの敵ではなかった。

 剣を抜く兵士や槍を構える兵士もいたが、隊列の崩壊した兵士と、立て直せない無能な指揮官では、なにもしていないのと同じだ。


 俺たちは手傷などほとんどなく、兵士を殲滅した。

 その後もシミター使いは兵士の骸から剣を抜く。

 メイス持ちや槍持ちもいたが、シミター使いは素通りしていた。

 俺は武器に興味があるのかと思ったのだが違うようだ。

 ナイフを真剣に見つめるシミター使い。

 彼は「刃物」にしか興味は無い。

 そして、気に入らない刃物は死体に突き立て返却している。

「あれは彼なりの優しさなのだろう」

 そんなことを思い見つめていた。








 俺たちは相変わらず墓地にいる。

 人間の多い街が近くにあることはわかっている。

 ここはその墓地で、規模も大きい。

 そして、静寂に満ち、死の香りが強く居心地がいい。


 生者を殺したい。

 その気持ちをも、この墓地は満たす。

 愚かな兵士たちは徒党を組んで殺されに来てくれる。


 俺たちは会話が出来ないが、意志はある程度通じた。

 そして、無言の連携ができた。

 呼吸をしない俺たちに息を合わせる必要はない。

 俺が殺したい相手に抱きつけば、シミター使いは俺のあばらの隙間に刺突を通し差し殺す。

 また俺のそばでシミター使いが足首を浅く切れば、バランスを崩した相手に俺が突きなり拳なりを叩きこむ。

 そんな戦いの楽しさを学んでいた。


 そして、毎回刃物を漁る「シミター使い」を俺は「エッジ」と呼ぶことにした。

 刃物マニアということで、安直な名付けだが、似合っていると思った。

 名前はあるのかもしれないが、会話ができない。

 あまり覚えていないが、昔出会ったゴーストのように接触で会話なりができたら便利だったのだが、特に不便とは感じていなかった。

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