太陽が真上にある。
黒い月はまん丸よりも少し欠けているが地平よりも昇っている。
以前に遠くから様子を見ていた奴らが来た。
柵の前で準備を整えている様子だ。
黒い月が輝きを増して黒い影が墓地に降り注ぐ。
俺たちを祝福するかのように。
転がる死体から上がる死臭が骨身に沁みる。
柵から出れない訳ではない。
エッジもここから動く気がないようだし、生者達は勘違いしてか、ここに強者を送り込んでくれる。
強い相手が来るのならば、この怒りや殺戮衝動を抑えられる。
しかし、いつも生者を前にすると湧き上がる怒りで体が震えている。
あの赤い影から昇る青い光。聖職者め、お前は楽には殺さんぞ。
エッジは強者の気配で周りに湧いたスケルトンやゾンビを切り刻み、破片を蹴り飛ばし足場を整えている。
そして聖職者を睨む俺の横に立つ。
おそらく戦士らしい前衛職2人を指差した。
そして自身の腰のシミターの鞘を握る。
俺は頷く。
わかった。奴らは任せよう。
聖職者を殺れるのならば、文句はない。
しかし、エッジは両手で俺を突き飛ばし下、地面を指差した。
そして片手を広げて俺に見せる。
待て?戦うなと言っている?
俺は不満を感じ殴りかかる。
顔面にヒットしてエッジは後方によろめく。
だが、左手を広げて右手の人差し指と親指を少しだけ広げた。
ちょっとだけ待っていろ、か?
そして人差し指と中指で自身の両目を指してから奴らを指差して拳を握った。
見ていろ。そして戦えか。
いいだろう。だが、時期を見て勝手に動くぞ。
聖職者に殺意を高める俺の身体はお前の指示に従えきれんだろう。
後退しながら、自身の気配と殺気を押し殺す。
奴らは、俺たちの様子を不思議そうに見ながら、強化魔法を掛け、強化薬を飲んでいた。
何か不快な感じの後に驚いていたが、今は落ち着いた様子だ。
さて、エッジ相手にどう戦うか見せて貰おう。
エッジはシミターを抜く前に腰の後ろからナイフを数本取り出して地面にばら撒いた。
そして二振りのシミターを腰から抜き、ダラリとし動きで冒険者たちに向かう。
体のほとんどを覆うような大盾の戦士が前に出てくる。
武器は小ぶりの分銅をつけたフレイルか?
もう1人は丸盾に長剣、ロングソード。
なるほどエッジの好きそうな相手だ。
腕もかなりたちそうだ。
後方に白い聖職者の衣装。布を丸めた、てるてる坊主のようなものを両手で握りしめている。もう1人は赤いローブに黒い杖を構えた、いかにもな魔法使い。
陣形を組み、声を掛け合う奴らに、エッジは…
突貫した。狙いは剣士。
ダラダラと接近していたのに、急速に低い姿勢から左右の連撃を繰り出す。
丸盾と剣で防ぐが、たまらず後ずさる剣士。
すぐに隣りの大盾が盾で突進するのを、待っていたかのように盾に足を添えて、押される勢いを利用し飛翔した。
二本のシミターをはためかせ、後衛の2人に迫る。
魔法使いは魔法の構築が終わったのか、白い雷撃がエッジに向け伸びた。
一瞬の光
一瞬のはずだ。
光線を切る。
伸びる光を二本のシミターを小刻みに動かして、雷撃をいくつものかけらに切り裂き霧散させた。
目玉が落ちるかのごとく、目を見開いた魔法使いに接近するエッジに、聖職者から小さな白い球がいくつも飛び出し迫る。
その玉は直線的な物もあれば、曲がりながら上下左右からエッジに迫る。
速度も早かったり遅かったりだが。
エッジはそのまま魔法使いに迫る。
片手のシミターで迫る光の玉をすべて切って捨てた。
そして魔法使いの首を…切らない。
杖を縦に両断し、赤いローブのフード部分のみを綺麗に切り取ると、シミターの先に引っ掛けクルクルまわしている。
背後に迫る剣士に振り返り、フードを顔に被せると、その背後の大盾に向かう。
構えた大盾をガンと蹴ると、大盾ごと戦士はのけぞる
そして、シミターの峰で足を掬い転倒させると、手に持つフレイルの柄の部分のみを切断し、ジャラリと鎖と分銅が地に落ちた。
そして飛び退くように距離を取り、おかしな舞を舞う。
おそらく挑発なのだろう
あの剣士なら乗りそうだか
大盾が立ち上がり、剣士は赤いフードを顔から外し地面に叩きつけると、飛び出しそうになるのを大盾に止められる。
しかし、エッジは踊りながらも地面に蒔いたナイフを立て続けに蹴った。
それは四人全員を襲う。
盾もちと剣士は反応できたが、後衛の2人は手傷を負った。
そして戦士2人はエッジに迫る。
エッジの足の指はナイフを握っている事に気付いているのか?
しかし、これで分断できたな。