カールの計画とは、人間の都市を丸々一つ陥落させることであった。
狙いの都市は既に決まっているようだ。
「ここが聖王国の首都トゥーケン。そして我々が攻略するのはここだ」
首都の北にあるイーサキバロスという大きな街だが、首都に近い。
地図の縮尺は、はっきりとわからないから何とも言えないが。
「首都に近いとなると、増援が多いのではないか?それに、規模の大きな街ならば元々の防衛力も高いだろう」
沈黙し、俺を見つめるカールとセミョン。
先ほど、肩を落としてこっそりと入室してきたヌイグも、俺をじっと見ている。
なんだ?
「貴様、本当にスケルトンなのか?頭の中身など入っていないだろう」
バカにされているのか?しかし、その程度は誰にでも解かるのではないか?
そう思った。思ってしまった。
エッジを見ると、まるっきり興味がないようで聞いてもいないようだ。
「ヌイグよ。お前は首都からの増援など考えていたか?」
「くそっ。力で負けて頭脳でも負けるのか。この腐れ骸骨ども、いつか粉々にしてやる」
そんな心境が、はっきりと伝わってきた。
俺とヌイグは並んで立っていたのだが、その間にエッジが入り込んできた。
「はっは。いつでもいいぜ。中々しぶといお前をどれだけ細切れにできるか楽しみだ」
「カール様のお話しの最中です。控えなさい、ヌイグ」
セミョンにそう言われ、唇をかみしめて黙った。
「正面の部隊はヌイグがゾンビを増やして対峙する。そして首都からの増援にはセミョンが当たる。状況によっては、私も加勢するが…戦力をもう少し増やしたいのだ」
地図にチェスのコマのような物を置き説明するカール。
予想よりも、しっかりとした計画のようだ。後詰や遊軍が欲しいという訳か。
「それで俺たちにも声を掛けたのか」
俺の問いかけに、首肯するカール。
「そうだ。知能の無い存在では無駄だ。そこでもう少し増強したい。お前は見どころがある。勧誘をやってくれ」
「一つの城門を攻めるよりも、多数の箇所を多角的に攻めた方がいい。陣頭の指揮者が足りんのか。それと、搦め手も欲しいな。しかし、誰を勧誘するのだ?」
先ほどから、話しているのは俺とカールだけになっていた。
エッジは興味がないようで、ヌイグは置物になっている。セミョンは理解しているが、口を挟まないようにしているのだろう。
勧誘の候補は、カールが既に目星をつけていて、そこに当たれと。そして遠隔地だが、転送陣を発見しているから時間は短縮できるとの事だ。
だが
「何故、自分で行かないのだ?お前もアンデッドだろう。食事も睡眠も不要だ。疲労もない。行かない理由が無い。お前は移動手段も持っているではないか」
「我々も準備に時間と労力を割いている。それと私の転移は限定的なのだ」
俺にはわかっている。彼らは「嘘」をついている。
しかし、誰だって自らの「弱点」は言わない。信用していない相手ならば尚更。
先ほどのヌイグの反応、そして自身で色々と試してみてわかった。
この赤い糸に意志や思考を乗せない方法が。
カール達も表面上のつくろったものを伝えているのだ。
先に「これを伝えたい」と思ったものが伝わる仕組みのようだ。
俺は自身の「無」を伝えるように強く思った。
そして指を一本立て上を差した。
カールは無表情のまま「いち?なんだ?」と問う。
「俺は知っているぞ。黒い月。白い月」
この言葉でカールとセミョンはわかったようだ。
明らかに警戒した様子を見せた。その姿を見たヌイグは身構える。
「わかっている。自ら弱点を教える存在などいない。しかし、『ヴァンパイア』なのか『吸血鬼』なのか知らんが、種族くらいは教えたらどうだ?」
カールの前にセミョンとヌイグが庇うように立つ。
俺を庇うように立つエッジは「やろうぜ」との思考が強い。
しかし、カールは目を赤く光らせて、セミョンとヌイグを下がらせた。
「貴様は…一体何者なのだ?リッチの眷属か?」
俺は知っている。お前達の弱点を。
「俺は俺だ。俺たちスケルトンには『太陽』も『流水』も『招かれざる家』も関係無い」
カールが驚愕の表情を浮かべた。こいつもこんな顔ができるのだな。
そして背後のセミョンとヌイグも驚いている。
言葉を失っているカールに俺は告げる。
「生者を討つ為ならば協力しよう。だから嘘はつくな」
カールは姿勢を正し、右手の指を伸ばして左胸に当てた。
「私はヴァンパイア・ロードのカール・ヴェルギ・ファルカシュ」
そう宣言して優雅に礼をした。
それに対し、俺も背筋を伸ばし礼を返した。