目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

使役


 ルーを先頭に、俺とエッジは後方を付き従うように歩く。

 もちろん、俺たちの意志ではない。

 何故だか強制的に動かされている感覚が全身にある。


 扉の無い一室に入る。

 跪いている一体のスケルトンがいる。

 これも同じように「使役」されているのか。


 室内は石で出来たテーブルと一つの椅子。

 そして壁面には棚が全面に置かれており、水晶玉や頭蓋骨、そして大量の書籍があった。


「ドロシー。何も無いのなら…いや…」

 ルーは椅子に座る。

 俺たちはテーブルを挟んで前に立つ。

「ヴァンパイア・ロードか」

 そういって、テーブルの上で骨と皮だけの手を組む。

「おお、走れ」

 こいつは何を言っているんだ?そう思う俺を他所に、背後で跪いているスケルトンが声を上げた。

「発言の許可、感謝いたします、マスター。あなた方も感謝を述べなさい」

 意味が解らないな。


「俺と戦え」

 隣に立つエッジは平坦な声で言う。

「おい、エッジ。コイツとここで戦う事は不可能だ」

 俺もエッジも顔は動かない。口だけしか動く事を許可されていないようだ。俺は何故か、この感覚に覚えがある。

「ルー、強制使役か?」

「かつてもそうして、くびきをといたのか。あ、いや、これは違うか」

 背後から声がかかる。

「マスターは、あなたたちを支配下に置くために、私以外の配下を全てリリースされました。それは名誉あることなのですよ?」

「兄弟、どうすれば戦えるんだ?お前ならなんとかできるのではないか?」

 同時に二人が話しかけてきたが、俺には何故か理解できた。何か繋がりを感じる。

「おお?あれは。エッジよ、お主、戦いたのだな?」

「ああ、お前でも、後ろのヤツでもいいぜ」

「なら、ついてこい。あーれー」

 ルーが椅子を立つ姿を最後に視界が途切れた。







 再び、視界が戻る。

 あの野郎、完全の支配と部分支配を使い分けているのか。

 先ほどの「取引の部屋」にいた。

 同じように、俺とエッジは石柱の椅子に座っている。

 間にはルーが立って、生者に向かい合っている。


「再びここを訪れるとはな。ワシと戦う気になったのか?」

 跪いている生者は一人、わざわざ剣を外して床に置いている。

 兜も胸当ても外し、黒いズボンと茶色い道着のような帯のある軽装をしている。

 戦う気が無いとのアピールなのか?

 しかし、細くて長い剣だな。

 がたがたと音がして、視界をエッジの方になんとか向ける。

 エッジが全身を震わせている。


「乾いた土」


 頭に響く言葉で、エッジの動きはピタリと止まった。

 目の前にいるヤツは間違いなく、赤い生者。

 しかし、その赤い色は、実際の体よりも小さい。

 体内の中心に、ぎゅっと圧縮されたような、濃厚な赤。だが、力強さを感じさせる赤。

 この生者は強い。


「次に、この剣に与える物を示してくだされ」

「くっく。お主には取引の材料が残っておるのかの。その身体は剣を振るうのに必要じゃろう?今日は贄の弟子はおらぬようだが」

 静かに対話する二人だが、今にも戦いが始まりそうな空気感があるな。骨がヒリヒリとする。

「貴殿の望む物を斬ろう。斬れるのは『国』程度だが」

 口角を上げるルーは黄色い歯を見せる。


「その身に宿す修羅。見せよ、現代の『剣聖』よ」


 ルーは一度叩いた手をゆっくりと開く。

 室内に幾何学模様が光り輝く。

 ゆっくりと浮かび上がり、視界が白く染まる。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?