ルーを先頭に、俺とエッジは後方を付き従うように歩く。
もちろん、俺たちの意志ではない。
何故だか強制的に動かされている感覚が全身にある。
扉の無い一室に入る。
跪いている一体のスケルトンがいる。
これも同じように「使役」されているのか。
室内は石で出来たテーブルと一つの椅子。
そして壁面には棚が全面に置かれており、水晶玉や頭蓋骨、そして大量の書籍があった。
「ドロシー。何も無いのなら…いや…」
ルーは椅子に座る。
俺たちはテーブルを挟んで前に立つ。
「ヴァンパイア・ロードか」
そういって、テーブルの上で骨と皮だけの手を組む。
「おお、走れ」
こいつは何を言っているんだ?そう思う俺を他所に、背後で跪いているスケルトンが声を上げた。
「発言の許可、感謝いたします、マスター。あなた方も感謝を述べなさい」
意味が解らないな。
「俺と戦え」
隣に立つエッジは平坦な声で言う。
「おい、エッジ。コイツとここで戦う事は不可能だ」
俺もエッジも顔は動かない。口だけしか動く事を許可されていないようだ。俺は何故か、この感覚に覚えがある。
「ルー、強制使役か?」
「かつてもそうして、くびきをといたのか。あ、いや、これは違うか」
背後から声がかかる。
「マスターは、あなたたちを支配下に置くために、私以外の配下を全てリリースされました。それは名誉あることなのですよ?」
「兄弟、どうすれば戦えるんだ?お前ならなんとかできるのではないか?」
同時に二人が話しかけてきたが、俺には何故か理解できた。何か繋がりを感じる。
「おお?あれは。エッジよ、お主、戦いたのだな?」
「ああ、お前でも、後ろのヤツでもいいぜ」
「なら、ついてこい。あーれー」
ルーが椅子を立つ姿を最後に視界が途切れた。
再び、視界が戻る。
あの野郎、完全の支配と部分支配を使い分けているのか。
先ほどの「取引の部屋」にいた。
同じように、俺とエッジは石柱の椅子に座っている。
間にはルーが立って、生者に向かい合っている。
「再びここを訪れるとはな。ワシと戦う気になったのか?」
跪いている生者は一人、わざわざ剣を外して床に置いている。
兜も胸当ても外し、黒いズボンと茶色い道着のような帯のある軽装をしている。
戦う気が無いとのアピールなのか?
しかし、細くて長い剣だな。
がたがたと音がして、視界をエッジの方になんとか向ける。
エッジが全身を震わせている。
「乾いた土」
頭に響く言葉で、エッジの動きはピタリと止まった。
目の前にいるヤツは間違いなく、赤い生者。
しかし、その赤い色は、実際の体よりも小さい。
体内の中心に、ぎゅっと圧縮されたような、濃厚な赤。だが、力強さを感じさせる赤。
この生者は強い。
「次に、この剣に与える物を示してくだされ」
「くっく。お主には取引の材料が残っておるのかの。その身体は剣を振るうのに必要じゃろう?今日は贄の弟子はおらぬようだが」
静かに対話する二人だが、今にも戦いが始まりそうな空気感があるな。骨がヒリヒリとする。
「貴殿の望む物を斬ろう。斬れるのは『国』程度だが」
口角を上げるルーは黄色い歯を見せる。
「その身に宿す修羅。見せよ、現代の『剣聖』よ」
ルーは一度叩いた手をゆっくりと開く。
室内に幾何学模様が光り輝く。
ゆっくりと浮かび上がり、視界が白く染まる。