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決着

 薄っすらと空が白んできた。


 エッジは切り取ったセミョンの頭を地面に置き、その上に腰かけていた。

 俺はジワジワと集まり、復元しようとするカールを踏み砕いていた。

 ゴーストは液体に戻る破片に触れて凍らせ、その行動を阻害して笑っている。


 そんな俺たちの元へ、ナディアと呼ばれていた吸血鬼が屋敷からゆったりと歩いてきた。

 真っ黒な大きな日傘をさしている。


 俺達の前に立つと、片手でロングスカートの裾を摘まみ、膝を軽く折った。

 俺もエッジも軽く手を上げて答える。

 ゴーストは無視して、セミョンの頭をつついている。


 ナディアが拳を突き出し、開くと血が飛び散った。

 周囲の地面に血が飛散する。

「カール。対応を誤りましたね。ここで滅びますか?」

 ナディアの声が聞こえる。巻いた血の影響か。

 ナディアは縫われた口の無表情で地面を見下ろしている。


「ナディア、旦那様を、カール様を」

「少し黙っていなさい、セミョン。骸骨、彼らにはまだ利用価値はありますが、滅ぼしてしまいますか?それもいいとは思いますが」

 相変わらずの無表情で俺達を見る。


「俺を、俺達を支配する存在は許さん。こいつらもお前も信用できん」

 エッジは大人しいが、彼女に切りかかるタイミングを測っている。この女、強いな。

「言い残す事はありますか、カール」

「…もう状況を変える事はできないのか。お前達と生者を討ちたかった、街を落としたかったのは確かだ。信用しろとは言えんがな」


 キン と言う音が響く。


 エッジのシミターは黒い傘で防がれた。

 エッジは一刀だが、素早い連撃を放つ。

 ナディアはいつのまにか、赤いカイトシールドを構えており、傘と盾で全て防ぐ。


 無駄な動きが無いな。


 そんな事を考えていた。


「そうですわ。エッジさん。あなたと全力で戦う変わりにカール達を助けてあげることはできるかしら?」

 エッジとナディアは飛び退って距離を取る。

「今でも戦えるだろう」

 エッジの回答は間違えていない。

 既に二本目のシミターを抜いている。

「あら、なら私は剣を使用しません。この盾と傘でお相手しますわ」

 ナディアは傘をクルクルと回す。



 無言でしばらく向かい合うエッジとナディア。

 ジワジワと空は明るくなっていく。


「ずるい女だな。ケイ!」

 シミターを収めるエッジに溜息を吐きたくなる。


「仕方ないな。エッジの頼みは断れん。ゴースト、戻れ」

 ゴーストは指輪に戻る。

 それを見てから、俺はナディアに告げる。

「次は無い。支配する素振りなどなくとも、俺達が気に入らなければ滅ぼす」

「わかりました。私は彼らが滅ぼされても構わないのですが、今では面白くありませんから。とにかく感謝します」

 盾を消し、スカートの裾を掴んで会釈するナディアにエッジが声をかける。

「お前、いい女だな。次は楽しませてくれよ」


 そうして、俺達は屋敷に入った。

 後の事など、もう知ったことではなかった。

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