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墓地と墓石

 俺とエッジは屋敷の外にいた。

 裏庭にある墓石に腰を掛け、何をするでもなく佇んでいた。

 冷たい墓石や墓地と言った環境が、俺を、俺達を包み込んでいるようだ。


「俺もいつかは墓所で眠るのだろうか」


 漠然とそんな事を考えていると、エッジは頭を小突く。

「土の下で石に封印されるなんて、まっぴらだ。俺の住んでいた地域では、砂の上に寝かせて最後は風になるのだ。俺もそうなりたい」

 ああ、そんなのもいいな。風に吹かれ野山を駆けまわったり、海にまかれ、深淵を覗く。

 安寧の形も色々とあるが、俺もエッジもまだ眠る気はないようだ。

 指輪は仕切りに何かを訴えていたが、努めて無視した。



 日が沈むと、カールがセミョンとヌイグを従え、俺達の元へ来た。

 赤い霧が周囲を覆っている。

 会話の為の手段なのか?攻撃か?

 俺もエッジも軽く構える。


 許したつもりはない。

 昨日滅ぶ予定が今日に変わるだけだ。

「失礼な態度を取って済まなかった。もう一度、協力してほしい」

 カールがそう言って頭を下げると、後ろの二人もそれに従う。

 俺の中に黒い渦が巻く。

「二度と支配しないのなら手を貸す。お前と共に生者を討つのは楽しそうだ。なあ、ヴァンパイア・ロードよ。しかし、ヌイグのような軟弱者は不要ではないか?なあ、ヌイグちゃん」

「きさ…」

 目にもとまらぬスピードでエッジは踏み込みヌイグを切り裂く。

 そして、前回と同じように分断された体を並べ、待つ。


「よすのだ、ヌイグよ」

「カール。お前達は勘違いをしている。俺たちが『気に入らなければ滅ぼす』と言ったことは事実だ。もう遅い」

 復活して立ち上がるヌイグを、エッジは斬る。


 エッジのシミターが見えない速度で振り回され、まるで半円形の球体がそこにあるように見える。

 ヌイグはもはや、肉片にされていた。


「お前がどこまで切り刻んだら立ち上がるのか、試したかったんだ。早く立てよ。次はもっと細かくしてやる。お前達も、なあ」

 エッジはアゴとカタカタと鳴らし、シミターをカールとセミョンそれぞれに突きつける。

「エッジ、昨日と相手を交代しないか?」

「俺一人で全員でもいいのだが」

 二人でアゴを鳴らす。

 カールとセミョンは動かない。



 カールは神妙な面持ちから、掠れた声を出した。

「ヌイグ一人の命で許してもらえるのなら、そうしてくれ。頼む。もう、後がないのだ」

 真剣な顔で俺を見る。

「全て話せ。協力すると言ったのは本心だ。お前達のように、嘘をつき、利用しようなどという気は俺にはない。忘れるな、答えが気に入らなければ必ず滅ぼす。太陽、聖印、聖水、銀の武器、流水、木の杭。知る限り、全てを試してやる」



 屋敷内の書斎に入ったが、カールは椅子に掛けなかった。

 それよりも、部屋は崩壊していた。

 ドアも壁も原型を留めておらず、役割を果たしていない。

 廊下も隣室も、穴が開き人一人十分に通れる。

 エッジとセミョンの戦いはどのようなものだったのだろう。


 カールは俺たちの許可を得てから、赤い紐を伸ばす。

 カールの話しでは、より上位の存在より、街の襲撃の期間を定められているとの事だ。

 上位の存在については言うと自身が崩壊するので言えないと。


「その期限はいつまでだ?」

「次の満月までだ。黒い月の」

 俺の質問にも、すぐに答えた。

 だが、完全には信用できないのは間違いない。

 こいつらは裏切ると思って行動したほうがいいな。


 部屋のドアが開く。

 ボロボロになったヌイグが投げ込まれた。

 開いたドアにはナディアが立っている。

 うつ伏せに倒れたヌイグを蹴り転がし、仰向けにして俺たちに見せる。

 ヌイグの口も、ナディアの口と同じように金属の紐で縫い付けられていた。

 ナディアの手から、赤い紐が伸びカールに繋がる。

「これで大人しくなったわ。わたくしとお揃いね、ヌイグ」

 それだけを伝えると、ナディアは赤い紐から外れ、スカートのすそを摘まみ、軽い足取りで出ていった。




 それから、俺たちは街を陥落させる作戦を、再度練った。

 しかし、ヌイグに正面を任せて大丈夫なのか?

「おい、ヌイグ。お前はただの賑やかしか?お前は本当にちゃんと役目を果たせるのか?」

 俺の質問に、ヌイグは首を縦に振るだけで、まったく発言をしなかった。さすがに懲りたのか。

「ヌイグにも役割と、相応の能力がある」

 カールはそう補足した。

 俺は机の上の地図を見て、首都や狙う街から少し離れたところを指さす。

「ここは砦ではないのか?軍の」

「そうだが、増援がそこから出ても、都市陥落後の到着だろう」

 カールの見立ては間違えていないように思う。

「一度、ここを攻めてみないか?」

「我々の兵力は、そこまで過剰ではない。僅かしか出せないが、狙いはなんだ」

 俺はカールを見据え、セミョン、ヌイグに視線を移す。

「単純に信用ならん。お前もヌイグも、セミョンもな。一度、戦いを見せてみろ。カール抜きでだ。俺たちは見守るが、場合によっては、そこで力を貸そう」

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