目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

渇望

 俺はルーの元へ来ていた。

 ルーの転移で一緒に来ていたが、ルーは俺を従属化していないようで自由だった。


「お主、力を…そうなのか。それが」

 ルーの話しは、抽象的だったり、何かが抜けているのか、理解が難しい。

 俺の補足を含めた推測だが、俺はカールの力を一部受け取っているようだ。

 その結果として、発声器官がないのに発言できている。

 他にもあるだろうが、ルーにもわからないみたいだ。


 そして


「残ったのは、お主だけじゃな。エッジも吸血鬼たちも消えた」

 やはり…か。

 吸血鬼たちとは、カール、セミョン、ヌイグだろう。ナディアは館なのか?

 やつらはまあ…いいのだが、エッジよ。

 残るのならば、俺よりも戦闘力の高いお前の方がよかったのではないか。

 この世界で、唯一信頼できる「友」と呼んでいい存在だった。


「あれだけの力が生者にはあるのか?」


 俺の問いに、ルーは首を横に振る。

「合理的すぎるな。生者を生贄として浄化を極限まで強化しつつ、威力を高めたものじゃ。不死者を滅ぼし、病魔を断つ」

 故意に殉死させた信者を媒介に、奇跡の力をあげて放つ浄化のようで、ルーでもあやういと言う。


「勇者と聖女を討つのに、力を貸してくれ」

 俺がそう言うと、ルーは黄色い歯を見せて笑いながら、なんども頷いていた。

「かっかっか。そうじゃな。やはり」

 天井を見上げ、地面を見つめてから、何かに納得したようだ。


「お主、力が欲しいか」


 その問いかけに、目の奥が熱く脈打ったような気がした。眼球などないが。

「力…強くなりたい。やつらを討つ力が欲しい」

「マスターに会え。一度。ならば」

 マスターギドか。確かに彼ならば、俺にもっと力をくれるのかもしれない。

「しかし、ギドはどこにいるのだ?」

「研ぎ澄ませ。わかるはずだ。ドロシー」

 後ろに控えていたドロシーは、俺の二の腕、上腕骨に皮の紐を巻き付けた。

「これは?」

「くっくっく。監視だ。では、行け」

 俺の返事を待たずに、俺の周りには幾何学模様が浮かぶ。

 俺はどこかに飛ばされた。





「はっは。あんた、いじわるだな、やっぱり」

 扉の無い部屋に、男は笑いながら入ってきた。

「何故声をあげなかったのだ?そういうお主は」

 ギドとルーはお互いに声をあげて笑う。

 しかし、次の瞬間、二人とも真剣な顔に変わっていた。


「あの聖女。どうじゃ?それにケイ」

 ギドは一度、目を閉じ、浄化の景色を思い出す。目を開けるが、何も見ていない。

「おそらく十人を超える生贄を使用したのだろう。狂っているな。間違いない」

 ルーは顎に手に持つ骨をあてがい、考える。

「その時が来たら、お主だけでなく、ケイも」

「どうであろうな。次の研究素体も作成してはいるが、あれほどの完成度はないな。彼もくるようだ。作戦を練っておこう」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?