おだやかな坂道を下る。
低木の間の狭い獣道のような道とも呼べないような狭く、長い道を下る。
ある地点を境に、木々は高いものばかりになっていた。
数本の木をなぎ倒し、丸まったストーンバックが転がっていた。
ストーンバックを無視して、森に入る。
森の中にも道は続いており、おそらく採掘場につながっている。
三叉路の分岐。
下る方は海の、人間の町か。
もう一方はわずかな登り。
方角的にもこちらが採掘場だろう。
その分岐あたりで、後方から木と岩が擦れる音が聞こえていた。音は迫ってくる。
「敵意はないようですが」
どうせ、ドライアドもわからないのだろう。
無視していたが、ストーンバックは黙ってついてきていた。
ドスンドスンと足音を響かせ、大きな体を周りの木に擦り、時になぎ倒しているが、一定の距離を保っている。
坂を登り切ると、また山頂のようだ。
このピークからは採掘場がよく見えた。
先ほどの山頂からでは、このピークが邪魔で見えなかったが、町と言える規模の建物がある。
外壁や柵などない。外敵を想定していないようだ。
ここの人間たちの脅威は、弱い魔物程度か。
その向こうの岩肌に、幾つもの洞窟を掘っているようだ。
山頂を下り、採掘場を目指す。
また分岐に出たが、今まで来た道が脇道のようで、この道が海と山の町をつなぐ本道だ。
道幅も広く整えられている。
荷を積んだ馬車の通った轍が、いくつもある。
広い街道とも言える道には分岐の目印看板も立っていた。
夕陽に照らされ看板を見る。
何故か背後から無言で、一定の距離を保っていたストーンバックが近寄って横に並ぶ。
看板に体を向けて動かなくなった。
コイツの行動わからんが、邪魔をしないのなら、もう放置でいいだろう。
町が、多数の生者、人間が近い。
まだ景色は赤くない。
しかし、踏み出す足と共に一歩ずつ、俺の中で生者への怒りが募っていた。
咆哮
背後から
あいつ、生者に対する俺の怒りに呼応したのか。
やはり、精霊、神を気取るのか。
振り返り、増悪に満ちた視線を、ストーンバックに向ける。
大きな体とは思えない、先ほどとは異なる躍動感のある俊敏な動きで、こちらに駆ける。
「来い」
俺は構えるが、右手から声がかかる。
「待ってください。ケイ様に敵意は向いていません。これは…とにかく、道を譲ってみましょう」
ドライアドを信じたわけではないが、俺は道を譲る。
奴の意思は、全くわからんが、意識が俺の後方に向いていたのは、薄っすらと感じたからだ。
全て、ストーンバックとドライアドの策略だったとしても、食い破るだけだ。
道の端に避けた俺の横を、ストーンバックは通過していった。ゴリラのような姿勢で四足を地に着き疾走して。
地響きを立てながら、町へ一直線に向かう。
街道から森に入り様子を見てみるか。