真っ黒な空間だった
そこに俺はいる。
近くには、金色に輝くギド、そして、赤い影に黒い輪郭のアル。
それと、もう一人、白骨のスケルトン。
あの骨格はドロシーか?
しかし、その骨から、緑色の光がにじみ出ている。
ドロシーの骨の手が、前方を指を差す。
「来たか、世界の支配をたくらむ者よ」
その声は、ルーだ。
ドロシーかルーか、わからない存在の指差す先。
そこに、青い人影が浮かび上がる。
ぼんやりとしていたが、だんだんとはっきりと見える。
聖女だろう。肉体はないのか、俺の視界は赤くならない。
「アル、頼む」
「後少しだ。いける、いいぞ、ギド」
ギドとアルは何かの魔法を使ったようだ。
四体のスケルトンが新たに漆黒の場に加わる。
「やるぞ、ギド、アル。そして、ケイ。お前はどっちだ?」
「ケイスケ。自らの手で安息を掴むのです」
ルーと聖女が俺に話しているらしい。
終わらせる
俺の思考は、その言葉だけだった。
しかし、突如全てが止まった。
ギドとアルを守るような姿勢の、盾を構えた四体のスケルトンの横顔。
そして、俺を見つめるドロシーの姿をしたルー。
「止まっている」と言った感覚だけがある。
ルーの声は俺に、俺だけに囁いているようだ。
「神に怒りを感じるのだろう。生者に恨みを募らせているのだろう。そうだろう」
コマ送りのように、わずかに時間が動いたような気がした。
「時間は無い。奴が、神が生者に奇跡の力を割けば、その代償、反対の力はどこへ行く。わかるな、正があれば負がある。お前は奴らのせいで、不要物、怒りとして生まれたのだ」
終わらせる
ルーの言葉も、聖女の言葉も、もはや俺には意味はない。
戦闘は、始まっていた。
青い人型から白と青の光がほとばしる。
盾持ちのスケルトンの隙間から、黒い光と矢がほとばしる。
俺も動こうとしたときに、隣には青い人影がいた。
「ケイスケ、力を貸しましょう。彼らを討った後に、わたくしと対峙するのもいいでしょう」
俺の体に、青い光がまとわりつく。
不快感は無かった。
漲る力は、かつてのドライアド・ビュルの枯れ葉を思い出させた。
「ビュル、いるのか」
返事は無い。
だが、感じる。
「武器だ。シミターを二本」
胸の、肋骨の中から黒いモヤが湧き上がり、全身を包む。
俺の全身を覆うモヤはしぼみ、体に張り付いた。
そして、手には木で出来た、二本のシミターが握られている。
「エッジ、力を貸してくれ」
俺は顎をカクカクと鳴らした。
エッジがいる。
今
俺の中に。
「いや、違うな。俺の体を使え」
俺目掛けて飛来する、黒や黄色の魔法を、木のシミターは切り裂いた。
迫る二体の盾持ちスケルトン。
遅い。
なんて緩慢な動きだ。
俺は脱力する。
剣先は二刀ともつま先に触れている。
左側から迫るスケルトンが先か。
一歩で、間合いを一気に距離を詰めると同時に、二本のシミターをクロスして振り上げ、クロスして振り下ろす。
盾は十字に切断され、スケルトンも巻き込んで肋骨も骨盤も砕ける。
弱いな。面白くない。
右から迫るスケルトンに、一歩で近付く。
その左手に持つ盾の、下の縁を目掛け、右手のシミターを下から振りあげる。
力なんて込めていない。
迫っていたスケルトンは、簡単に盾をめくり上げ、のけぞった。
隙だらけの胴に左手のシミターを水平に振る。
上半身と下半身に別れたスケルトンの頭蓋骨を素早く踏み砕く。
「はは、エッジの見る世界。みんな、のろまだな」
俺はギドの方を見る。
残りの二体のスケルトンが、ギドとアルを守るように、前に立っている。
その背後にいるルーが、俺に指を突き出した。
魔法か
遅いな
一直線に伸びる黄色い光を、俺は両手に握る木のシミターで切り裂き霧散させた。
そして、一気に彼我の距離を詰める。
立ちふさがるスケルトンの一体を、頭蓋骨から縦に斬りつけると、背骨まで縦にキレイに割け左右に倒れた。
「今」
ルーの声と共に、両手を突き出した三人。ルーとギドとアルの動きが止まる。
そして、俺の体も動かない。
終わらせる
俺の意志に応えたのか、体にまとわりついていた黒いモヤが、ボワっと膨張した。
「いけません」
聖女の声が、体の内側から響く。
「お前も道連れだ、聖女。終われ」
俺は、声を出さずに、そう思考する。
黒く膨らむモヤを、青い光が包んでいる。
しかし、黒いモヤは、黒く輝きながら膨張を続ける。
「止むを得ん」
ルーの声で、虹色に輝くドロシーの体が、俺に抱きつく。
ドロシーの背後で、ギドとアルは、そのスケルトンを支えている。
「ケイスケ!待て!」
ギドの声が響いた。
終わらせる
世界は黒く染まった。