長居することなく引き返してきた僕、しかし中心地まで着く前にお腹が空いてきた。
満たされなかった僕の勝手なる期待の代わりに、お腹だけでも満たしたい。
でも……道端には露店もチラホラと……何故かみんなこっちを見ている感じが少し怖い……。
僕が外国人だから……?
ちょうど目に留まった食事処のような看板、入り口付近で目が合ってしまった女性はそこの人間だったようで、観念して女性に誘われるがまま入る。
家庭料理を出す民家のような処だった。
辛そうな刺激臭が充満している薄暗い店内の中には、大きな円卓が一つあるだけ。お客らしき二人組と女性一人がほぼ向かい合わせに座っていた。
円卓は油っぽく少しベタついていて、宮廷料理をイメージする北京、リッチな感じの上海、高級食材の広東などから比べると、庶民的な感覚がするのはホテルやレストランじゃないからだろうか?
当たり障りのないように、視線が自分に向かないように、注意を払って席を決めて座った。
『凉粉』(リャンフェン)というエンドウ豆の粉を固めて、ラー油ベースのタレをからめて食べる四川料理の定番料理と『脆紹面』(ツイシャオミェン)という担担麺に似たものを注文してみた。
本場の四川料理は口に合わなかったが、水を含んで無理やり全部口に押し込んだ。心のどこかで期待していたであろう『桃源郷』への気持ちと共に。
普通に麻婆豆腐にでもすればよかった……。
『ふぅー』
食べ終えた僕が気付いたのは呆れた顔のさっきの女性店員。そして二人組が何やら僕に向かって喚きだした。
タブレットを通訳に介した中国語に、とてもじゃないけど追い付かない僕。愛想笑いと曖昧な返答で逃れようとする僕。そんな自信のない態度は鉄壁の守備を見せるわけもなく、耳慣れない中国語は僕を攻め立てる。これが普通なのかもしれないが、すごい勢いで怒られている様に思えてならない。
何も悪いことしてないつもりだけど、どうも萎縮してしまう。