「秘密?」
「あぁ。噂レベルだが、ベルヘイルズ王は女神様の血筋を引いていない」
「はぁあー!!」
王の部隊の連中からそんな衝撃的な話を聞いて、俺は思わず大声を出して目を丸くする。
ズゴゴ!!
その声に驚いたフリードが、俺から離れてすっ転び衝撃波が結界内に響く。慌ててフリードに「驚かせてゴメン! 落ち着いてくれ」と頼むと、すんなりと従ってくれた。
「どういう事だ?」
「金で買ったって噂だ。……王のやり方に気に食わない古参の名家の貴族が陰口で叩いてたのを聞いた事がある」
「自分も聞いた事があります」
部隊長の一言で兵士たちも同調する者も現れ、自ら証言する者が出てきた。
「だが、そうだとしてもいつの時代からなのかは我らは知らない」
「いや、そもそも女神様の力なんて元々ないのでは?」
王の部隊の連中が次々と証言していて話がまとまらなくなっていく。意外と、奴に人望が無いのが分かって内心ほっとした。
「それが、王の弱点で、これが、この国の現状を記した書類だ」
魔法特務部隊の隊長らしき男が魔法陣で書類を束ねたものを召喚して俺に手渡す。中身をみると、膨大な情報量に俺は圧倒された。
「すげぇ、ざっと見ただけでも興味深い。特に同盟国との密約は何かしらのカードになるな」
「他にも隠し部屋の詳細や支配した国と地域と警備状況、食糧庫が簡単に書いてある。信用出来ないなら王族と一部の階級しか利用出来ない書庫室へ行けば分かる。謁見室から東側にある」
「た、隊長!」
隊長の副官らしき男が、隊長の肩を掴んで短く抗議する。しかし、体調はそれを振りほどく。
「信じていいんだな? 隊長さんよぉ」
「当たり前だ。……我はベルヘイルズと女神を倒す為に、必死になってこの地位を手に入れてこの書類を作ったんだからな」
部隊長の恨みの籠もった発言に、俺達は冷や汗をかいて怯む。俺が受け取った書類の一部に固まって黒ずんだ血の染みを見る限り、相当の執念を感じる。
「フォルティナは知らないとは思うが、二十年前女神の生贄としてここから東にあった祖国を滅ぼされた」
この一言で、完全に静まりきった。兜を取った隊長の顔は火傷の跡で顔の半分を覆っていた。
……彼の目は鋭く、目の隈が深くて、俺は思わず後退り剣を下ろす。
「亡国の王子だった我は……庶民になって苦汁をなめる日々を過ごした。本当は、女神の化身であるフォルティナを打ち倒し、油断した隙を突いてベルヘイルズを暗殺するつもりだった。……今日のこの日を待ち侘びていた!」
隊長が兜を地面に思いっきり叩きつけて怒りをぶちまけたかと思ったら、膝を落として項垂れる。敵ながらも、彼の力になりたいと思えてきた。当然、フォルティナには傷つけはさせないが。
「だが……それすら叶わないのだろう。だったらせめて、ベルヘイルズと王族だけでも地獄の底へ引きずり降ろしてやる!」
「良いでしょう。その願いを叶えて差し上げましょう」
どこからともなく、優しい女性の透き通った声が聞こえる。
「フォルティナ?」
「い、いえ。違います!断じて私ではないです!」
俺は咄嗟にフォルティナの方へ向いて問いかけるが、彼女は必死に否定する。
……女神様か?今の声は。
すると光が差し込み、氷の結界が消えていく。
先程まで臨戦態勢だったフリードの表情が穏やかになり、俺に頬ずりしたかと思ったらスヤスヤと眠り込んでしまった。
「おぉ! 勇者殿に女神様!助けてくれてありがとう」
「ヴィクトール様とフォルティナ様こそがこの国の統治に相応しい!」
奴の兵士達が歓喜し、謎の疫病にかかった兵士もたちまち元気になっている。
「ゲボ……ゲボ」
だが、兵士の何人かは感染したままなのが気になる。
でも、俺や彼女は何もしていない!
何が起きたんだ?!
もしかしたら、本当に女神様の声なのか?
いや、この状況を女神様が作ったから造作も無いのだろう。
「勇者ヴィクトールにフォルティナよ。助かる。この恩は死んでも忘れはしない」
部隊長は俺に深々と頭を下げてお礼を言った。
「礼は良い。お前の無念は、俺と一緒に晴らそうじゃないか」
「そうだな」
俺は部隊長に近づき、握手を交わした。不思議と、この男に対して敵意は湧いてこなかった。だが、部隊長は一呼吸をして何かを決意した目で衝撃的な一言を放つ。
「その必要はない。ベルヘイルズ王の敵は俺が打つからだ」