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第6話 修道院へ脱出

「ここに戻るのは何年ぶりでしょうか」


「そうだな、フォルティナ」




 俺達は、フォルティナの提案で彼女の住んでいた修道院へと避難した。


 幸い、修道院の司祭に事情を話すと快く受け入れてくれた。





「魔王討伐してくださったおふたりになんて酷い仕打ちを……。今日はゆっくりお休みください。またおふたりの冒険譚をお聞きしたいですね」




 司祭はニッコリと笑い、フォルティナの綺麗に整った銀髪の頭を撫でる。




「はい、司祭様」




 彼女は子供の様にニッコリと笑い、穏やかな顔になる。




「で、お前たちはどうする? ここで一晩泊めてくれるそうだが、態勢を整えて俺と共に王を打ち倒すか? それとも、レオニール隊長みたく単独で打ち倒すか?」




「もちろん、勇者の為ならついていきます」


「レオニール隊長の無念を晴らすまで居させてくれ」




 俺の問いかけに対して兵士達は、王への忠誠である腕章を外して料理用の焚き火に放り込む。




「よし、裏切る奴はいなさそうだが、ここまでいった以上、お前たちは脱走兵扱いだ。身の振り方は考えとけよ」


「分かった」




 俺の淡々とした言い方に、元兵士達は固唾を飲む。だが、何人かは小さな声で不安な声を漏らす。




「……俺の家族は王都にいる。もしバレたらどうなる……?」


「それでも、もう引き返せねぇ……! あの隊長ですら」


「そこの兵士二名。聞こえてるぞ」




 俺はこそこそと話している兵士二人の話に割って入る。




「あの王は最初からお前たちを捨て駒としか見てないことが分かっただろ。お前たちの隊長達を見たか! あの王に忠誠を誓い、力を研鑽した兵士の末路だ」


「確かに、あんな奴のもとには仕えたくない。……でも、家族が」




「いいだろう。お前の家族の情報を渡してくれたら、助けてやる」


「そ、そこまでしてくれるのか? 勇者は」


「だが、絶対に裏切るなよ? 女神さまの自動防御魔法はともかく、彼女だけは怒らすなよ? 女神様はともかく、フォルティナは悪意のある嘘や裏切りは大嫌いだからな」




 俺は鋭い目で二人の兵士を睨んで耳打ちすると、彼らは冷や汗をかいて膝をガクガクさせる。




「そ、そんなに小さくて可愛いあの方が恐ろしい……のか?」


「まぁ、試しに裏切ったら分かるよ。家族がどうこう言えなくなるからさ」


「ど、どういう事だ?勇者よ」




「ヒントは、ブリードドラゴンが何故俺達に懐いているのかだ」




 ふたりの兵士に問いかけてみると、周りの兵士も集まりだして考え始める。




「ドラゴンは元々狡猾で賢い。小型でおとなしいブリードドラゴンは群れで行動するが、本来人に懐かない」


「もしかして、二人が強いから?」


「そうだとしても、ブリードドラゴンは氷の世界からは出ようとはしない生態だし。分からん」




「もしかして、彼女のあの可愛い見た目でドラゴンを圧倒する怪力があるのか?それならドラゴンが従うかも」


「あんな小さな子が?」




 二人の兵士は頭をかしげて考えるが、そう単純な理由じゃない。




 彼女が女神様に選ばれた直後。彼女の事を妬んだ金持ちの子が、俺や司祭様がいないところで彼女を騙してお金と魔導書を盗んだ天罰を喰らった事がある。




 女神様からの呪いで金持ち一家が盗賊に全財産を取られ、ブチ切れたフォルティナによって一生硬貨と書物が触れない呪いをかけられ、今もその一家は北の洞くつで暮らしている。




 こいつらにこのことを話しても信じてはくれそうもないし、信じたところで彼女に偏見や恐れを抱くから俺は喋りたくない。




「ともかく、家族に関してはフォルティナに話してみるから安心しろ」




 俺はにっこりと作り笑いをして立ち去った。


 俺は、修道院へ行って彼女の部屋へノックして訪れる。作戦会議と、先程の兵士の家族を助けられないか聞くために。




「あら、ヴィクトール。どうかしましたか?」


「いや、王都に家族を残している兵士がいるが、助ける事はできるか?」


「えぇ! 私が出来ることならさせて頂きます!」




 彼女は、喜んで引き受ける事にした。




「良いのか? 女神様のブローチが先決だとは思ってたが」


「女神様のブローチも大切なものですが、人々が困っているのに見過ごせません。その為に、ここの修道院で女神様の経典を勉強して魔法を使えるようになったので」




「……いつも、ありがとう。ごめんな。君が安全な居場所を作るために魔王討伐の旅へ連れてっていたのに、叶えることが出来なくて」


「ヴィクトールのせいではありません。この国の国王が悪いのです」




 彼女が元気よく純粋な目で返事をすると、俺は申し訳なく思った。本当は、魔王討伐へ連れて行かずに安全な場所で幸せに暮らしてほしかった。




「そうだな、奴を討ち取って女神様のブローチを取り返したら、俺達で国を作ろうか」


「ふぇ?」




 俺の提案に、彼女は頬を赤らめて戸惑っていた。




「孤児の俺達に住む場所がないら、司祭みたいな優しい人達に囲ませている国を俺が作るよ」


「まぁ、なんて子供っぽい夢ですね。でも、そう言ってくれると嬉しい」




 こうして彼女の頬にキスをしてから外に出る。


 防具と武器を整えたら、出発しておこう。


 夜、兵士の誰かが「妙に静かですね……」と呟いた。


 確かに、フォルティナの魔法で魔力探知を消してここまで来たが、それを踏まえても追手や指名手配のビラがあってもおかしくはない。


 俺の悪い予感が的中し、その夜、奴らの襲撃を受けた。




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