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第13話 ルキウス再登場

 俺と修道女は修道院へ戻り、食事を取って次の作戦会議をする。


「女神様のブローチを返してくれれば私は満足しますが、ここまで来るとそれどころではありませんね」


 俺の報告を聞いたフォルティナは、野菜スープを飲みながら怪訝な顔になる。


「なぁ、あの疫病は何とかならないのか? 王が攻撃したとはいえ、女神様の自動防御魔法で無関係な人間が被害にあうのは見ていられない」


「残念ですが、あのブローチが無いとできません。解析したくても私も仕組みが分からないです」


 フォルティナは、野菜スープの水面に映る自分の顔を見て項垂れる。あぁ、もどかしい。 


 俺に出来る事なんて、女神様相手だとどうしようもない。目の前で困っている市民がいるのに、今は直接王を倒してブローチを取り返すしかないか。これって、魔王討伐よりも難しいんじゃないか?


「フリードのブリザードブレスで対処出来そうだけど、それも限定的だった」

「でしたら、この混乱でベルヘイルズ王が手一杯になっている間に私たちが潜入すれば」


「そうだな。でも、焦って相手の戦力と狙いがわからないまま行動する訳にもいかない。内通者二名の報告を聞くまで動けん」

「それは……でも、早く……!」


 彼女のスプーンが、カチャリと音を立ててテーブルに落ちた。唇が小さく震えている。


「また別の女神様の自動防御魔法が発動したらどうなる? 敵も市民も関係なく消し炭になってしまうだろ」


 彼女は、俺の反対に押し黙って目を逸らす。


 確かにフォルティナの言う通りだが、ブローチなしであの女神様の力が発動したら元も子もない。あぁ。自分でも分かってはいるが、なんかもどかしくて歯ぎしりしてしまう。


「そこまで慎重になる必要はないぜ」

「ルキウス!」


 俺達が修道院のステンドグラスに視線を向けると、王の騎士団のひとりであるルキウスが座っていた。

 鎧も着けず、片膝を組んで座る姿はまるで王族のような余裕だった。


「おっと、武器を構えるなよ。俺は女神様に従う騎士であって、あんな王の私兵団に入った覚えはないぜ?」

「なら、何の用でここへ来た?」


「その質問に答える前に、全員が武器を下ろしてくれないと降りたくても降りれないんだがなぁ」


 彼はひょうひょうとした態度で俺達を見下ろす。

 俺はひとまず彼を信用して元兵士達に武器を下ろせと命令すると、ルキウスはひょいと浮遊魔法で五◯メートルの高さからゆっくりと降りてこちらにやってきた。


 その姿は神が降臨するかの如く、朝日の光に照らされている。

 一体、何をするつもりだ。


「で? 何の用でここへ来たんだ?」

「まぁまぁ、そう急かすなよ。腹が減ったから何か食べ物を分けてくれ」


 俺が怪訝な目で質問すると、ルキウスは朝ごはんを要求する。俺は食べていた野菜スープを一気に飲み干してパンを食べながら、ルキウスを警戒する。


「お前、勝手な事を」

「あぁ、悪いな。じゃあ少しだけ教えるが、あのボンクラ王は必死に自分の娘を『女神様の化身』にするのに必死で余裕がない。今ならあの女神様のブローチを取り返すチャンスだぜ」


「奴の娘?」

「これ以上聞きたかったら、朝ごはんを分けてくれないか? 一応、お布施として代金を支払うから」


 ルキウスは、小銭袋を取り出して俺に手渡す。よく見ると、目の下にクマが出来ていて髪の毛が乱れている。


「この中に、魔王軍討伐の報酬の金貨三十枚におまけして金貨六枚入ってる。これなら文句はないだろ?」

「お前、それを何処で?」


「奴の金庫からくすねた。というのも、金庫番の警備に回せるほどの人材がないから簡単に盗めたが」


 ルキウスは修道女から出されたパンと野菜スープを受け取ると、人目も気にせずにがっついて食べ始める。 


 ガツガツ! カッ⋯⋯! ガツガツ!


 こいつがこんな勢いで食事を食べるのは始めて見た。


「ルキウスさん、大丈夫ですか?!いつもなら、品性を気にしてテーブルマナーを守るのに」


 ルキウスの異様な食べ方にフォルティナがわなわなと困惑している。


「お、おい。お前に何があった!?」

「いや、失礼。何分、昨日の朝から何も食べてなかったからな」

「は?」


「いや、僕もお前たちと一緒に追放された身でね。追っ手に追われてたけど、何故かいなくなった。どうやら、僕に構ってる暇じゃなくなったみたいだ」


 ルキウスは食べ終えると、俺とフォルティナの顔を真剣な眼差しで見る。


「ベルヘイルズ王が女神様のブローチをあげた時に、疫病だけじゃなく災いまでもたらしたんだ」


 俺は怪訝な顔で「どういう事だ?」と訪ねると、ルキウスはしばらく俯いてから答える。


「あのブローチはもう、王女が手に入れてからずっと引きこもっている――簡単にはいかねえぞ」

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