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第15話 フォルティナの覚悟

 食事を終えてから、俺達は次の作戦の準備をする。


「なんで、僕が叩き起こされなきゃいけないんだ? 抜け穴を使った作戦は夕方のはずだろ」


 俺とフォルティナに叩き起こされたルキウスは、髪の毛がボサボサのまま睨みつける。


「事態が急変したんだよ。朝の市場で民衆を煽ったら、予想以上に暴動が拡大したんだ」


 俺が寝床の窓を開けると、民衆や兵士達の怒号が修道院の内部まで鳴り響く。


「うぉ、なんとけたたましい怒りだ! 閉めろ! 寝れなくなるだろ!」

「だから寝てる暇じゃないだろ。しょうがない。フォルティナ、こいつに回復魔法をかけてやってくれ」


「わかりました。ルキウスさん、少しだけ我慢してくれませんか?」

「はいはい。ったく、人使いが荒いんだから


 俺がフォルティナに頼み込んで回復魔法をかけると、ルキウスの目のクマがなくなりみるみる肌に艶が戻っていく。


「こいつはすげぇや。ってムグ!!」


 ルキウスが元気になった途端に顔色が悪くなりふらついてきた。


「回復魔法による魔力酔いです。しばらく座って話を聞いてください」

「う……うぷ。わ、分かった。気持ち悪い」


 ルキウスは再び横になって俺達に助言する。


「抜け穴の場所は教えた通り、王都へ繋ぐ所と城の中に繋ぐ所の二箇所ある。これは、王がお忍びで出かける時や城に何かあった時の緊急用の通路だ。魔法で民衆にバレないようにしてる」


「で、その通路でそのまま王都へ繋ぐ方の抜け穴へ行けば良いんだな」

「あぁ、今はメラルの対応と今の暴徒鎮圧で手一杯だから手薄だ。だが、旧家の貴族が各地で王座を狙っているからそっちとかち合う可能性が高い」


「そうだな」


 俺は市場で手に入れた志願兵のビラをルキウスに見せる。その内容をみた彼は冷や汗をかいていた。


「この貴族は、代々この国の参謀を務めている名家のうちの一つだ。ついに、ここまでの事態になったか」


「そんな凄いのか?」

「他国との戦争や外交に長けているから、抜け穴の存在も知ってる。不味いな。今使えるのか分からん」


 ルキウスは頭を抱えているが、黙って聞いていたフォルティナが前に出る。


「でしたら、私が変装して囮になって注意を引きつけます」

「おい、囮って。無茶だ!」


「大丈夫です。私には、とびっきりの作戦があります」

「どんな作戦なんだ?」

「あまり、私好みの作戦ではありませんが」


 俺の問いかけに、フォルティナは言いづらそうな表情をして魔導書を強く握る。


「一体何を考えてる?俺にはさっぱり分からんが、危険な事を辞めろよ」

「僕もその作戦が気になる。君は確か、女神様の力は無限に使えても、ブローチで制御出来ないだろ」


「それを利用して、民衆の支持を得る作戦です」

「フォルティナ?! それってお前の精神の負担が増えるんじゃないか? 人を騙すのは性に合わないだろ」


「私がこの修道院で救われたからこそ、ここを守りたいんです。自分だけ何もリスクを追わないでいるのは間違っています」


「僕も、そのやり方に疑問を持つね」

「では、他に作戦が思いつくのですか? お二人は」

「く……」

「それに演技が苦手な私でも、天から奇跡を降ろせば、民は信じてくれます……」


 俺とルキウスは彼女の作戦とやらが分からず眉をひそめていると、大きな爆音とともに窓を叩きつける音が鳴り響く。


「ベルヘイルズ王の圧政を許すな!」

「戦争に勝っても俺達の生活が豊かになれてないのは、おかしい!」


 窓を見ると、既に市民と暴徒鎮圧の部隊が衝突してきて、更に各貴族のレジスタンスが争いを繰り広げている。


「も、もう作戦を説明している時間がありません。大丈夫です。モノマネ師のマシューさんから変装のやり方と極意を教えて貰いました。私を信じて下さい」


 俺とルキウスが顔を見合わせると、冷や汗が額から頬まで流れる。突然、稲妻の魔法が窓に直撃して目がくらんだ。


 ドゴオオォォォォン!!


 再び目を開けたら、今度は岩を飛ばす魔法が上の階に直撃して修道院が揺れて悲鳴が聞こえる。既に戦火がこちらにも及んでいてますます過激になっていく。


「お願いです! 急いでください!」

「信じて良いんだな」

「はい。作戦が終わったら、合流します」

「よし、もしもうまくいかなくても俺の責任にしていい。だから、思いっきりやれ」


 こうして、元兵士達を俺とルキウス、フォルティナと武闘派の修道女の二手に分かれる事にした。一体、どんな作戦を立てているの分からないが、


「準備は良いか? 勇者ヴィクトール」

「あぁ、頼む」


 この扉を開ければ、もう戻れない

 そう思いながら、俺は剣を握った。

 フォルティナの背中が、やけに小さく見えた。


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